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第143話 強面男の意外な特技

【メルサバ兵寮 特別室】

「リュウヤ様はこちらで、デンジさんに料理を振る舞っております」

「案内ご苦労様じゃ」


 メアは、頭を下げて帰っていくメイドの背に向けて礼を言う。

 そしておタツは、コンコン、と2回扉をノックした。するとそこから、何だ?と低い声が返って来た。


「ウチはおタツ、リュウヤの妻でありんす」

「りゅうや?あぁ、それなら今私の部屋に居る。入りたまえ」

「……何か、怖い声のおじさんやな」


 ナノは、奥から聞こえてくる低い声に怯え、クラゲのように無駄にフワフワしたメアのスカートの中に隠れる。

 同じ女子といえ、人のスカートの中に入られたため、メアは何度か追い出そうとするが、足にしがみついてしまい、なかなか剥がれなかった。


「どうした、早く入りたまえ」

「は、はい。今行くのじゃ」


 観念したメアは、足にしがみつくナノと共に、扉をくぐった。

 すると、本当に目の前にあった机に座る男が「サバ」と挨拶をした。


「さ、鯖?」

「いや、この場合は「調子はどうじゃ?」って意味じゃよ」

「……最悪や」


 その男は、額に大きな傷を負っており、身長は平均よりも小さいようだが、強面の顔立ちをしていた。

 更に、何故こんな人の前にリュウヤを連れて来られたのか。おタツはこっそりと、反撃のための苦無に手をかけようとする。

 するとその時、ぐぎゅるるる、と大きな腹の虫の音が鳴り響いた。


「……へ?」

「……」

「ウ、ウチやないで!」

「……」


 誰の腹の虫かは分からないが、だんだんと男の顔が更に怖くなっていく。

 まずい、非常にまずい。空気が悪くなり、ナノは自然とメアのスカートから出て逃げる準備をする。


「すまない、腹が減った」


 デンジがそう言った瞬間、三人はズコーッ!と昭和アニメかの如くずっこけた。

 そして、その腹の音を聴いたリュウヤが、ヘイお待ち!と超速で寿司を置いた。


「ほぉ、これがスーシィなるものか」

「他にも、天ぷらに小盛りうどんまでありますぜ!じゃんじゃんバリバリ食ってくだせぇ!」

「り、リュウヤ……張り切っておるな」

「何でも、美味い飯食わないと絵の想像力が出ねぇらしいからな。フラッシュさんがここに連れてきたんだ」


 リュウヤは、何故自分だけ個別に呼ばれたのか、理由を話した。

 そのワケを聞いたメア達は、なるほどと頷いた。


「ふむ、これは美味い!魚独特の生臭さはなく、口の中で油と共に溶けていく!更にこのしょうゆとやら、塩気があり、魚の味が引き立っている!」

「どうじゃ、ツルギサキ家に伝わる寿司の味は!」

「美味い!想像力がグングン湧いてくる!食いながら、今すぐ素晴らしい絵を描いてやろう!」


 デンジは、目をキラキラと輝かせ、目にも止まらぬ速さで、カンバスや絵の具を取り出し、サラサラと迷う事なく絵を描き始めた。

 そして、飯を完食したと同時に、出来た!と絵を見せた。

 そこには、大群で海の中を泳ぐ寿司、木に実る天ぷら、うどんの川の絵が描かれていた。


「す、寿司が泳いでる?どう言う状況やねんコレ……」

「まるで意味が分からぬぞ……」

「いえ、この絵は……意味を知るのではなく、感じるのが大切な絵でありんすよ……」


 全くピンと来ないナノとメアだったが、リュウヤとおタツだけは、その絵に感銘を受けた。

 すると、扉が開き、タクマが入室してきた。


「どもっす……ってうわぁ、何だその絵!」

「これか?彼の作った和食なる物の素晴らしさを忘れないように創り上げた作品だ!どうだ、素晴らしいだろう!」

「素晴らしいを通り越して神そのものだ!デンジさんだっけ、アンタとは気が合いそうだぜ!」


 リュウヤの感動のしように、タクマは訳もわからず首を傾げた。すると、その横から、ナノが「じぃじどうしたんや?」と訊いてきた。

 その瞬間、あの異様なほどにむさ苦しかった筋肉空間を思い出し、目頭を抑える。


「ねぇ、吾郎爺はどうしたでありんす?」

「……訊かないで。フラッシュ、後は察して」


 もう思い出したくない。そのためタクマは、想像に任せるといった形で、説明を放棄した。

 それと同時に、女の子達にあんなのを見せなくて良かったと、安堵する自分も生まれる。


「で、彼から話は聞いている。恋の魔術師の絵について、だな」

「は、はい。お願いできますか……?」

「いいだろう。君が見た容姿を、曖昧でもいいから教えてくれ。今なら尻尾の先だけでも描けそうだ」


 デンジは、左手にメモ帳、右手に羽ペンを持ち、タクマの見た「恋の魔術師」を淡々と描いていく。

 目だけを覆う蜘蛛のような仮面、顔以外は完全に隠れているフード姿、そして口紅をしているため、もしかしたら女。

 その3つだけの手がかりなのにも関わらず、3分もかからないうちに、あの時タクマが見た人物と瓜二つの絵が完成した。


「速っ!よくそんな尻尾の毛程度の手がかりで描けるな。尊敬するで」

「で、タクマさん、これが見た人物でありんすか?」

「……間違いない、本当にこの仮面を付けてた」


 タクマは信じられないと言わんばかりに答える。

 更に、デンジは付け加えるように「確か他にも……」と呟き、机の引き出しから大量のメモ用紙の残骸を取り出した。

 それは全て、デンジが描いた恋の魔術師の絵だった。だが、どれも形が歪で、酷いものでは子供の落書きくらいの絵まであった。その中でも飛び抜けて上手いのは、タクマの証言を基に描いた絵だけだった。


「悪いが私はこれから昼寝をする。コレはワンダ国王に渡せば模写で指名手配書を用意してくれるはずだ。頼ん……zzz」


 デンジは、タクマ達にメモ帳に描かれた魔術師を託し、そのまま眠りについてしまった。


「……何とも、マイペースな人じゃな」

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