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第139話 ファンシー国の都市伝説

【メルサバ 門前】

「そろそろ着くでありんすよ、メルサバ」

「思ったより早いじゃあないか」


 知らせを聞いたリュウヤは、どんな国が待っているのか、ワクワクしながら窓から顔を出す。

 そして、ケーキの事で頭がいっぱいのナノも、タクマに「足抑えといて」と言い、上半身を出した。


「うわぁ、本当にファンシーやで!街綺麗!ホンマにケーキや!」

「綺麗ですね、リオさんがここのお姫様だなんて、羨ましいです」

「そう、とにかく気に入ってくれて良かったわ」


 窓の外から少しだけ見える景色を見てお淑やかに言うノエルに、リオは抑揚のない声で答えた。

 ただ、顔は赤くなっているため、照れているのは間違いない。

 

「さて、馬車も止まったようじゃし、早速メルサバに行くのじゃ!」

「これこれ、そんなにはしゃいでいたら転ぶでござるよ」


 トップバッターで馬車から飛び出したメアは、久しぶりのメルサバにワクワクし、地面に足をつけた。

 だが、その瞬間、ゴキリと嫌な音が鳴り、そのままこけてしまった。


「ほら言わんこっちゃない。大丈夫?」


 目に見えていたタクマは、フフッと笑い、メアの手を引く。

 そして、立ち上がった後、メアはぷいっと顔を逸らし、スカートの砂埃をはたき落とした。


「リオだ。開けろ」

「近衛兵フラッシュ!ただいま参上!」


 そうこうしているうちに、リオとフラッシュは、中に居る門番に帰った事を告げた。

 すると、ゴゴゴと言う大きな音と共に、扉が上にスライドしていった。その瞬間、まるで遊園地のお菓子屋のような甘い香りが広がってきた。


【メルサバ 街】

「おぉ、なんとも綺麗な街だ。映画のセット顔負けだなぁ」


 足を踏み入れたタクマは、すぐ目に映った世界を見て呟く。

 雑誌にも載っていた薄ピンク色の民家、ホイップクリームのような可愛らしいデコレーションの施されたカフェやブティック、可愛い武器ショップ。

 まさに、女の子が好きそうなもののオンパレードの国。

 その証拠に、ノエルもおタツも、既に可愛らしい国の虜になっていた。


「ねぇねぇタクマさん、服屋見に行ってもいいですか?」

「いやいや、それも大事やけど、まずはケーキやろ?」

「服屋!」

「ケーキ!」


 早々、ナノとノエルは言い合いを始める。まさに女子らしい会話ではあるが……

 すると、そこに吾郎が「確かに、ナノナノの服を新調するのが先決でござるな」と言う。


「可愛くおめかしして、可愛い洋菓子を食べるのもまた、悪くないでありんすな」

「それに、ここのブティックは可愛いだけでなく、魔防、攻防に強いと聞く。そうと決まれば早速、ブティックで大人買いじゃ!」


【ブティック パルテノン】

 カランコロン、とドアチャイムが鳴ると、すぐ目の前でゴスロリ服を着たマネキンがお出迎えをしてくれた。

 他にも、可愛らしい洋服が並んでいた。


「うわぁ、可愛い!ねねタっくん、あの白いフリフリワンピース買って!」

「早速欲しいの見つけたか。どれどれ……」


 タクマは、ナノの為に何か一つだけでも、欲しいものを与えてあげよう。そう思い、ナノが言っていたロリータ服を手に取り、値段を見る。

 流石に高くても2000ゼルンとかだろう。そう思い見てみると、その服のタグには「8000ゼルン」の文字が刻まれていた。

 当然、隣で見ていたリュウヤ、吾郎もあまりの高額に口をあんぐりと開ける。


(おいおいおいおいおい、8000て!何、女の子の服ってこんなに高いもんなの!?)

(俺男だから知らんけど、ノエルなら何か……)


 小声で話をした2人は、こっそりとノエルにこの高価が普通なのか訊いた。するとノエルは、そんな当たり前の事を?と言うかの如く「可愛い服は高いんです」と返した。

 リュウヤは、まさかの返答にまじか、と言葉を詰まらせた。


「全員分買うにしても3万ゼルンもするぞ……」

「カジノで勝った金はあるが、それでも全員一着、残ってもかふぇ代の5000ゼルンだけでござるよ」

「なしたん?そんなにコソコソして」


 金の件で話をしていると、ロリータ服を手に持ったナノが声をかけた。

 いきなり声をかけられたので、タクマはビクッと驚く。しかしすぐに、お金の心配はさせまいと、苦笑いしつつも頭を撫でた。


「それでいいんだね。で、他は……」


 タクマは服を選び終わり、帰ってきた仲間を見た。

 メアは黒のロリータ、ノエルは白の猫耳カチューシャ、おタツはウサギの尻尾のようなボンボン輪ゴムを手に持っていた。てっきり全員服を買うのだろうかとビクビクしていたタクマ達は、大金が飛んでいかない事に安堵した。



 ………

「毎度ありがとうございました〜!」


 ブティックの紙袋を持ったタクマと、新しい服を着て嬉しそうにしているメア達が外へ出ると、向かいのカフェで待っていたリオとフラッシュがこちらに手を振ってきた。


「待たせたでござるな」

「とんでもない、待ってたんです!」

「うっさい。カフェだぞここ」


 再会を喜んだフラッシュに、リオは肘打ちをして黙らせる。

 タクマと吾郎、メアはフラッシュ達のいる席に座り、残りの4人は隣の席に座った。

 そして、席に座るなり、ナノは店員に「ハウスケーキ三つください!」と注文した。

 

「タクマはアメリカン、ゴローはエスプレッソ、メアはウィンナーでいいんだよね?」

「は、はい。気遣いありがとうございます」


 好みを言ってもないのに先に頼んでいた事には驚いたが、タクマはそんなのは気にせず礼を言った。

 更に、ハウスケーキも頼んでおいたとも話した。


「準備早いなぁ。もしかして、前にも会った事ある?」

「フフッ、さぁどうでしょうね」


 リオは口で手を押さえ、お淑やかに笑った。普段は抑揚も感情もない声で、冷たい感じで話す彼女であったが、今回は感情も抑揚もある声で言った。

 

「それよりリオ殿、メルサバで今噂になっている恋の魔術師、その者と会える合言葉と言うのは、一体何なのでござる?」

「それはね……」


 そこまで言ったのだが、リオはそこから黙り込んでしまった。

 

「おいリオ、どうしたのじゃ?」

「フラッシュさん、コレ大丈夫なんすか?」

「あぁ。リオお嬢様は時折こうして止まってしまうのです。しっかりと合言葉は知っているので心配なく」


 まるで人が変わったように、フラッシュは普通の声で話す。普段がうるさい変態であるから、ギャップがすごい。

 

「……恋する乙女に花束を」

「む?」

「これが、合言葉」

「恋する乙女に……それって、W氏の書く悲劇小説の一文ではないか」


 メアは驚く。そして、その話を聞いたタクマは、その合言葉を聞いて反応した一般人、もとい恋の魔術師を探した。

 ……が、反応する人は居なかった。


「えと、他になんか、特定するためのヒントとかは……?」

「ないわ。あくまでも都市伝説、目撃者の証言も嘘なのか本当なのかは分からないから」

「ふむ……仮に嘘だとしても、出来すぎた話でござる。オーブに力が秘められている話は誰も知らない筈なのに……」

「とにかく、私らも調べる所在。ここは楽しくメルサバを観光してくださいまし」


 フラッシュは深々と頭を下げ、リオと共に席を後にしようとした。

 そして、その後をついていくように、メアも立ち上がった。


「おいメア、どこ行くんだ?」

「12年ぶりのメルサバじゃ。ちょっくらメルサバの王、ワンダ国王とウルク王妃に挨拶をしに行く」

「そうか、姉妹国の娘だから。気をつけるでござるよ〜」

「はーいなのじゃ」

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