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第137話 蜂の娘の情報を

「……あれ?アタシらは確か……」

「って、何コレ!ちょっと、早く解きなさいよ〜!マジないっつーの!」


 目を覚ましたピアとフォルテは、手足をベッドの木に縛られている事に気付き、必死で逃げようともがく。

 その音に気付いたのか、見知らぬ部屋のドアが開く。


「おはようさん……いや、今の時間からしたらこんばんわ、か」

「アンタ確か、リュウヤ!?」

「正解正解。もしかして君、物覚えいい方?」


 特に何かする訳でもなく、リュウヤはベッドに座る。そして、睨みつけるピアとフォルテに微笑みを返した。


「何で殺さなかったの?」

「殺すなんてとんでもない。とにかくスープくらいは作って今回は見逃してやるから、飲んだら帰れよ?」


 リュウヤは2人を恨むような態度は表さず、ただ飯を食わせたいと言う心一つで言った。

 その顔はまるで、久しぶりに帰ってきたかつての常連を見た時のような、ほっこりとした顔だった。

 ただその時、ドアの向こうから「待て待て待てーい!」と声が聞こえてきた。そして、バン!と勢いよく扉が開き、そこからメアが現れた。


「何勝手に話を進めておる!妾達がそやつらを拘束してるのは、アルルとか言う奴の事を聞き出すためじゃろ?」

「こらメア、本人の前でそう言う事言わない。折角リュウヤが丸く収めようと出たのに台無しにする気なのか?」


 何故か必死なメアと共に、タクマも現れる。特に殴り合いをすると言う訳ではないが、夫婦かの如く口喧嘩をしている。

 よく見ると、その奥で話の結果を待つ他の6人の姿も見える。


「まぁまぁまぁ。別に殺す訳でもないし、どうせ最後は逃すって話なんだからさ。それに、こんなジメジメした空気で話しても何も耳に入らないだろ?」

「た、確かにそうじゃな……」

「飯はどんな薬よりも強く、どんな高級品にも負けない、地球の宝だ。爺ちゃんの言葉だ」



【クリミア村 食堂】

「はいどうぞ。剣崎特製・ザンギの味噌汁だ。召し上がれ」

「「……い、いただきます」」


 既に食事を摂り終えたタクマ達は、初めて見る味噌汁に困惑する2人の向かい側に座り、彼女達の様子を見た。

 時刻は壁掛け時計を確認するに、午後11時を回っていた。極上の“アレ”を作るのに時間が掛かったようだ。

 そのため、女子達は美容の為と言い、先に二階の宿で寝た。そして、何か問題があった時すぐ止められるよう、男子陣だけがここに集まった。


「あ、何コレ。美味しい」

「ポカポカじゃん。マジウマすぎてヤバイんですけど」

「おぉ、あの時のようなイマドキ語に戻ったでござるな」


 吾郎は、あの時のようにギャル口調で話している事に胸を撫で下ろす。

 そして、リュウヤは真面目な顔に戻し、話しやすいよう「なぁ、アルルちゃんってのは、何者なんだ?」と訊いた。


「アルルちゃんはね、クイーンサキュバスって言うサキュバス族の王様なの」

「くぃーんさきゅばす?と言うと、男共にエッチな夢を見せる、あの?」

「ちょっと違うけど、男共の生命力を食べる悪魔って言ったら、猿でも分かるっしょ?」


 ピアの発言に一瞬腹を立てそうになるが、全員気を取り戻す。

 

「それで、何でタクマさんを狙ったんですか?」

「分からない。けど、きっと食べるつもり」

「食べる……タクマさんなんか食べて何をしたいんでしょうかね」


 ノエルは、ホットミルクに口をつけつつ呟いた。

 言われてみれば、何の理由もなく自分を名指しで食べるのは考えられない。もし仮に生きるために人を食べるのなら、普通は誰だろうと気にせず食べる筈だ。


「ふーむ。何故タクマ殿だけを……」

「私では駄目なんでしょうかねぇ!」

「アンタは多分いらないと思うわ」


 食い気味な返答に、フラッシュは「はぁはぁ」と言わんばかりの顔文字で喜ぶ。

 確かにコイツは自分でもいらない。そんな事を話していると、急に時空が歪み始めた。


「な、何ですか!?」

「クックック。ご無沙汰しておりまス、タクマ君と、愉快な仲間たチ」

「その声、Dr.Z!」


 振り返ると、ブラックホールのようなゲートから、Dr.Zが姿を表した。


「貴殿、何処から侵入した!」

「おやおや、その眼帯、大和特有の服装、そして珍しい剣。アナタが噂のゴロウですカ」


 Zは、目の前で抜刀の構えをする吾郎の片目を見て嬉しそうに笑う。その顔はまるで、有名人とご対面した時のような、新しい実験材料が届いた時のような、そんな顔をしていた。

 その不気味さに身を震わせるが、吾郎は迷う事なく彼を敵と判断し、Zの首に刀を入れようとした。


「何、今日の私は何もしませんヨ」

「そ、そんな……吾郎爺の剣を、手術用の包丁で防ぎやがった!」

「じゃあ何をしに来たって言うんですか?答えないと殴りますよ」


 リュウヤは、初めて吾郎の刀を見切り、たったのメス一本で防いだ男を見て驚き、二度目の対面となるノエルは、不気味な気に押される事なく、拳を握った。

 それと同時に、吾郎は攻撃を一旦止め、少し後ろに下がる。

 そして、ひっそりとではあるが、フラッシュは密かにピアとフォルテの2人を庇うようにして筋肉を見せつけた。が、Zどころか誰も見ていない。


「私はただ、そこの蜂女を連れ帰りに来たんですヨ。α様の事、君達に知られては困りますからネ。勿論、おまけにアルルの話モ」

「アルル……?ピアとフォルテちゃんだっけか、この銀髪メガネ知ってるか?」


 そう訊くと、2人は恐怖に怯えながらもゆっくりと頷いた。やはりZ、アルルと何か関係がある。

 それに、α。夢で見た鎧の男と同じ名前をしている。それに気付いたタクマは、一つ作戦を実行する事にした。


「α様の鎧姿さぁ、カッコいいよな」

「タクマ?こんな時に何言ってんだ?」

「ほぉ、なかなか話の分かる人ダ。敵であるのが勿体ないがネ」


 タクマの考えた作戦。それは、彼の崇拝するαの事をわざと褒め称え、そのノリでαの情報を掴み取る作戦。だが、これは今さっきタクマの脳内で勝手に構成した作戦。勿論、リュウヤ達は心を読み取れないから知らない。

 しかし、これは夢ではあるが、一度会ったことのある自分にしかできない事。変に周りに演技をしてもらうよりは1人の方がやりやすい。


「α様のカリスマ性にはマジで惹かれるよ。特に例の作戦とか、この前聞いた時は素晴らしすぎて驚いたよ」

「ほぉ、アナタも“例の作戦”について聞いたのですカ……そうですカ……」


 しかし、その時だった。瞬きをしたその瞬間、タクマの腹に重い一撃が入った。よく見るとそれは、Zの拳だった。

 比較的近くに居たノエルと吾郎には、危害は加えられてないように見える。真っ先にこちらへの攻撃を優先したようだ。その証拠に、まだ2人はZが後ろに居る事に気付いていない。


「ぐぁぁぁ!!」


 バァン!と全身が木製の壁にぶつかり、壁に人の形をした窪みを作る。

 そして、その中で何が起きたのか理解しようと脳を働かせていたタクマに、Zは何度も蹴りを入れた。


「カマかける為に話を合わせようとしたようですガ、天才のワタシには無意味。特ニ、君のような凡才にはネ」

「Z!貴様、俺の親友に何てことしやがる!」


 一瞬でボロボロにされたタクマを見たリュウヤは、テーブルにかけていた刀を取り、Zに振り下ろした。

 だが、刀を振ったと思った刹那、体が床にめり込んでいた。恐ろしいほど速い。瞬きをする以前の速さで、それも凄まじい力で沈められてしまったようだ。

 しかし、それでも諦めはしなかった。リュウヤはまるで、何事もなかったかのように立ち上がり、剣を取り直した。


「オヤ?ワタシの超速シューズを合わせた一撃を食らってもなお、平気で立ち上がるとは。面白イ」

「へっ、チョウソクだかショウゾクだか知らんが、タクマをあんな所に嵌め込んだ罪含めて、おまんの罪を数えやがれ!」


 リュウヤは、タクマに傷をつけられた事に腹を立てつつも、平常心を保つ為に冗談を言う。しかし、Zは聞く耳を持たず、メスで襲いかかるリュウヤの刀を止めた。

 そして、後ろで待機していた吾郎、ノエルの2人に「卑怯かもしれんが、コイツは俺1人じゃ無理そうだ!」と、協力を要請した。


「御意、リュウヤ殿!」

「アジトの仕返し、その身に刻めクソメガネェェェェェ!!」


 2人は、宿屋内の食堂が跡形もなく消し飛ぶような勢いで戦うリュウヤに加勢した。

 しかし、三人がかりでも、吾郎とリュウヤの刀は防がれてしまった。

 タクマはただ、その様子を見ることしかできなかった。


(クソ、動け!動かないと、2人は連れてかれる!まだ聞かなきゃいけないことがあるのに!)

「全く、コレだから今を生きる愚かな猿、特に貴様らのような野蛮民族は嫌いなのだヨ」


 Zは呆れてため息を吐く。しかし、それでも刀は防がれたままだった。


「野蛮でござるか」

「けど男ってのは、野蛮すぎるくらいが平常運転なんだぜ?だろ?ノエちゃん」

「とぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!必殺〈ノエちん猫パンチ〉!!」


 なんと、吾郎とリュウヤの相手をしている隙を突き、ノエルはパンチを繰り出した。

 それは奇跡的に、天才と自称していたZの予想を覆した攻撃だった。そのため、顔面にクリーンヒットする。


「ぐふっ!どぉっ!」


 しかし、それはただダメージを与えられただけに過ぎず、Zはその場でよろけるだけだった。

 流石に危険だと感じたのか、Zは「手間を取っタ」と、口ごと鼻を覆い、守り続けていたフラッシュの首裏に強い手刀を当てる。


「フラッシュさん!」

「畜生が、連れてかせるもんかぁ!」


 2人の危機を感じたリュウヤは、急いでピア達に迫るZに飛びかかった。

 しかし、瞬時に避けられ、腰に薬を打たれてしまった。その瞬間、体の組織が動かなくなり、マネキンのように全く動かなる。


「久々の運動相手になってくれてご苦労でス。それでは、この2人は貰っていきますヨ」

「イヤー!助けてー!」

「離せスケベ!ドヘンタイ!ありえない!」

「やめろ!嫌がっているでござろう!」

「2人を離しなさい!」



 ズリズリと引きずっていくZに、吾郎とノエルは攻撃を仕掛ける。だがその時、辺りの空間が歪み出した。

 そして、突如開いたワープゲートから、赤黒い斬撃が飛んできた。


「きゃぁっ!」

「ぬぉっ!」

「ったく、お前は何をグズグズしている。あのせっかち姫様、帰りが遅くて泣き喚いてるぞ」


 なんと、そこからオニキスが現れたのだ。それも、ゲートの後ろには、暗黒城とでも言うべき、全体的に暗い城が見える。

 しかし、そこから侵入しようにも、ほぼ全員ダウンしたこの状態では、そんなのは端から不可能。


「オニ……キス……」


 タクマは何故彼がZ側についたのか訊こうと、声を出した。だが、黙れと言わんばかりに、オニキスはタクマの背中を踏みつけた。


「がはっ!」

「言ったろ?俺はお前らにとって迷惑な存在だと。それに、俺はとうの昔からアイツら側に就いた」


 その目を見て、タクマは完全に知った。彼は、アイツら側の人間になったのだと。

 更に、その後ろでZは、メスなどを用意し、倒れた吾郎に突きつけていた。だが、やめろとは言えなかった。


「よせZ。αの約束は、無闇矢鱈に殺しては駄目、の筈だぞ?」

「そうでしタ、ワタシとした事ガ」

「誰か……来てくれ……」


 残った力を振り絞り、タクマは援軍を呼ぼうと声を上げた。だが、そもそも弱りきった声では何も聞こえない。それでも声を上げた。

 するとそこに、オニキスは「無駄だ」と無情に言い放つ。


「この部屋は、あのイカレ学者が張った結界によって、ドンパチやっても外からは何も聞こえない。お前が骨折れて泣き叫んでも、誰も助けに来ないって事だ。ま、ちゃんと部屋は元通りになるから気にするな」


 そう言うとオニキスは、小さな鞄をら大量の回復薬を起き、Zと共にワープゲートの中へと入ってしまった。

 その後、辺りは白い煙に包まれ、タクマ達は眠りについてしまった。

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