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第131話 新たな生活に新居を

「お待たせ、パパと話はつけてきたのじゃ」

「なぁメア、本当に良いのか?」

「うむ。妾にはもう、アルゴ城と言う立派な家があるのじゃ。いつまでも、女々しく過去にしがみつく訳にもいかんからな」


 ワープを使い、ナノを含めた20人の獣人の子を連れてアルゴへ帰ってきたタクマとメアは、かつてメアが暮らしていた屋敷へとやってきた。

 すると、狐耳の娘が、その屋敷を見るなり「うわー綺麗!素敵!」と、他の子達を連れてはしゃぎだした。ナノと同い年くらいに見えるが、久しぶりの家だからか、目を輝かせ、涙を流している。


「こらミーナ、ミク、ユイ!タクマさんとメアさんを困らせたらあかんやろ?」

「な、ナノちゃん……」

「ウチらはただの野良や。あんな立派な家、住めるはずがない」


 野生的かつ盗賊的な生き方を長くしていたせいか、ナノははしゃいでいた子達を引き戻し、メアに謝った。

 勿論、メアは怒らない。それだけでなく、メアはその子達の頭を、優しく撫でた。その手つきは、猫を撫でるようなものではなく、自分の子を優しく可愛がるような、優しい手つきだった。


「そんな後ろ向きな発言はするでない。あの屋敷は、妾からのプレゼントじゃ。」

「せ、せやけど……ウチら、500億ゼルン貰ってるんやで?家なら買うて」

「何を言うておる。財産を持ってたとしても、それ持ったままコソコソ動いてたらそれこそ命が危ない」


 メアはナノの肩に手を乗せ、諭すように言い聞かせた。物騒な言い方ではあるが、確かに大金を持っていれば、金にがめつい変なおじさんに襲われかねない。

 その点、アルゴ国は基本的に国民全員が家族精神を持つハートフル国家。そこでひっそりと、物ではなく、人としての生活を一生楽しむのであれば、うってつけの場所だ。

 更に、あれから薄気味悪かった小さな森は舗装され、今では数十本程度の木々に囲まれた、見晴らしの良い立派な地となっていた。そのため、仮に何かあれば、すぐに夜の見張り番が駆けつける事ができるようになっていた。


「それに、大金を隠す為にメアのお父さん、アルゴ王も協力してくれるよ」

「兄ちゃん、何で私達に優しくするの?」


 まだ幼い熊耳の少女は、タクマにそう尋ねた。その目、彼女の腕についた火傷の跡を見て、タクマは全てを察した。

 彼女は人ではなく、物として扱われていた。更に、獣人だからと粗末な扱いを受けていたのだと。その姿が、かつて親に暴行を加えられていた自分に当てはまる。

 それを見て、タクマはそっと、もう消えた腕のタバコ傷を抑えた。そして、優しい笑顔で、少女の頭を撫でた。


「大丈夫。ここにはもう、獣人だから、亜人だからって差別する悪い大人は居ないよ。皆家族だ」

「うむ。お主らの過去は、妾達が体験した訳じゃないから分からないが、もう二度と、そんな苦しい思いはさせぬ」

「それに、君達が辛い思いをしないためなら、俺達は何だってするさ。例え、命をかけないといけなくなったとしてもね」


 タクマは、少女の目をじっと見つめ、絶対に約束を守るよと誓う。この世界には、ヴァルガンナやナルガ帝国など、奴隷が当たり前の国もあるため、全員を救うなんて事はできない。しかし、今目の前にいる彼女達だけは、救う事ができる。

 そう心の中で思っていると、いきなり頭を殴られた。


「痛っ!何すんのさ〜!」

「すぐ調子に乗ってカッコつけるのがお主の悪い癖じゃからな。ほどほどにするのじゃ」

「フフフッ、2人とも夫婦みたい!」「面白い!」「結婚してるの!?」


 殴られた自分の頭を摩っていると、少女達は一斉に笑い出し、2人にそう言った。その瞬間、メアの顔がぽっと赤くなる。そして……


「立場を弁えろ無礼者!」

「アメマッ!」


 タクマは力強いビンタを食らい、倒れ込んでしまった。


「それじゃあ、服は妾のお下がりでも着ると良い。それと、困った事があれば妾のパパに相談するのじゃぞ〜」

「「「「「はーい!」」」」」

「お姉ちゃんありがと〜!」

「じゃ、じゃあ、皆の所に帰るとするか」


 頬を赤くし、右頬に真っ赤な手形を付けたタクマは、幸せそうな彼女達に手を振った後、他の皆が待つアコンダリアへとワープした。



【アコンダリア ヴェルハラビーチ前】

「お、帰ってきたでござるな」

「どうでありんした?」

「喜んでおったぞ、皆幸せそうな顔をしてたのじゃ」


 おタツの質問に、メアは元気よく答えた。すると、美味しそうにストローでジュースを飲んでいたノエルが、椅子から立ち上がる。


「あれ?メアさん、尻尾なんて生えてましたっけ?」

「何でい何でい?まさか、本当にタヌキ娘になっちまったんかい?」


 リュウヤはハッハッハ!と大笑いしながらメアの事をいじった。すると、おタツに頭をしばかれた。

 今日はよくしばかれる日のようだ。

 

「めんごめんご。それより、早く出てきたらどうなんだい?ナノちゃんや」

「な、ナノ!?」


 まるで大酒呑のように笑ったリュウヤは、目を鋭くさせて名前を呼んだ。

 居ないはずの彼女の名前を聞いて、まさかと思い、タクマはメアを振り向く。そこには、メアの背中にこっそりと隠れていたナノが居た。


「な、ナノ!?どうしてここに居るのじゃ!?」

「ナノちゃんはリーダーなのに、此処に来たら皆はどうするでありんす?」


 どさくさに紛れて頭を撫でてはいるが、おタツは心配してナノに訊く。

 するとナノは、おタツの手を掻い潜り、タクマ達の前に立った。


「タクマさんの気持ちは受け取った。けど、ウチはリーダーとして、ご主人様の仇を取りたいんや。そうしないと、ご主人様が浮かばれへんのや!だから、皆にも話して、勝手に付いてきた。お願いや、どうかウチを、ナノナノを旅に連れてってください!」


 ナノは深々と頭を下げた。そして、反対されると身構えていると、タクマがナノの手を握りしめた。更に、もう片方の手も合わせて、両手で握りしめる。

 顔を上げると、その後ろには、他の5人も、優しい笑顔でこちらを見ていた。


「皆……」

「君がやりたいって言うなら、俺達は付いてくるななんて言わないよ。だからようこそ、俺達のパーティへ」

「ナノさん、今日から私達は友達ですよ」

「これで合法的にケモ耳ちゃんを撫で撫でできるでありんす……フフフ」

「お、おタツ殿、何を言っているか理解し難いが、それは流石に危険でござるよ」


 危険な目つきでナノを見つめるおタツに、吾郎は我を取り戻させようと声をかける。

 すると、ナノはフフッと笑った後、おタツの所へ自分から向かった。


「仲間やし、好きなだけ撫でてええで、タツ姐」

「タツ姐か、なかなかいいあだ名付けるじゃあねぇか!ナノちゃん!」

「せや、折角だし皆の事、あだ名で呼んでもええ?ウチの事ナノナノって呼んでええからさ」

「面白そうじゃし、お願いするとしよう」


 そう言い、タクマ達は自分の名を名乗った。

 タクマ、メア、ノエル、リュウヤ、おタツ、吾郎。六人の名前を聞いて、ナノは六人のあだ名を考えた。


「よし決めた!タッくん、メアメア、ノエちん、リューくん!そんで、タツ姐、じぃじ!どや!」


 6人は、そのあだ名を聞いて、ほうほうと頷いた。

 

「ふむ、じぃじか。気に入ったでござる」

「タッくんとか呼ばれるのいつぶりだろ」

「それじゃあ、今後ともよろしくお願いしますね、ナノナノさん」

「さんは付けんでええ。友達なんやからな、ノエちん」


………

【ノアの方舟 アジト】

「チッ、始まったか。早くしないと……」


 負傷したオニキスは、玉座の間のような部屋の壁に背中をかけ、胸を押さえる。

 これのせいでタクマに勝利の美酒を飲ませる羽目になり、更に狙っていたオーブまで取られてしまった。これ程までにない屈辱、オニキスは腹を立て、岩石でできた壁を殴った。


『おやおやオニキス君。壁なんか殴ってどうしたんだい?もしかして、タクマ君に負けた事、悔しいのかい?


 奥の部屋から現れたαは、オニキスに声をかけながらゆっくりと近付く。その手には、何故かチェスのグッズがあった。


「何だ?逃げた俺を笑いに来たのか?」

『いいや、笑うなんて、そんな事はしないよ。何か理由があったんだろう?』


 心配しているようだが、相変わらず機械音声であるため感情がない。読み取れない。

 そのため、オニキスは嫌味混じりで「お前に話した所で、感情のない同情をするだけだろ?くだらん」と呟いた。

 すると、それに返答するかのように『ごめんね。私は感情を出すのが下手なんだ』と返した。


「で、わざわざ声掛けたって事は、何かあんだろ?」

『あぁ。オーブは残念だったが、私から特別賞を持ってきてあげたよ』

「特別賞だ?それは、強くなれる物なのか?」

『あぁ。きっと、悩みを解決してくれるだろう』


 そう言うとαは、何もない空間から、赤黒い血のような物が入った瓶を出現させ、それをオニキスに手渡した。

 オニキスは、それを見てすぐに喜びの表情を浮かべた。


「この色、クリムゾンの……」

『これは「邪龍の血」と呼ばれる、禁忌の植物エキスだ。Zはコレを使って、君の体に合った強化薬を作った。コレは、その原液、と言ったところかな』

「成る程、コイツを飲めば最強になれる訳か」


 いい物を見つけたと、ニヤついたオニキスは、どんな副作用があるか聞く事もなく、一気にそのエキスを飲んだ。

 口の中に、辛く、苦い、なんとも言えない恐ろしい


「おお!おお!みなぎる!これが、邪龍の血の力か!」

『フフッ、これはなかなかに良いデータが取れそうだね。それに、まだ怒りと強欲の罪源は解放されていない。彼ならきっと……』

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