表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/307

第129話 決着!男と男の覚悟の剣

「オーブは俺のものだぁ!」

「くっ……」


 赤黒い斬撃は、もう目の前に迫ってきている。もうダメだ、耐えられない。

 でも、諦めるな。諦めたら、そこで全て終わる。

 そう心に言い聞かせ、一か八か、タクマは立ち上がった。


「《コピー》!」

「無駄だぁ!」


 オニキスが叫んだその瞬間、三本の赤黒い斬撃は一つの大きな爪となり、タクマに襲いかかってきた。

 コピーできたかどうかなんて調べる時間はない。そう判断したタクマは、無意識に、剣で爪を防いだ。

 

「ま、マジかよタクマ……」

「タクマ殿……」


 絶望的だ。そう思った観客、そしてリュウヤ達は、目を下に向けてしまう。しかし、様子がおかしかった。そのすぐ後、実況が騒ぎ出したのだ。


『な、なんて事だぁ!オニキスの必殺技を、タクマ選手!受け止めたぁぁぁ!!』

「諦めて……たまるもんかぁ!」

「往生際の悪い!だが、そうでなきゃ面白くねぇ!」


 タクマは、全身を使い、襲いかかってきた爪を跳ね返した。


「今だ!《コピー・クリムゾン》!」

「無駄だ!俺のクリムゾンは貴様に仕えまい!」


 最初は、特技だから使えないと思っていた。しかし、ふと天に掲げた腕を見ると、そこから、赤黒いものが噴出していた。

 勿論、想像すらしてなかったタクマは、自分の力に驚く。


「な、なんじゃこりゃ……」

「俺のクリムゾンは……いや、あり得ない」


 そしてクリムゾンは、タクマの持つ剣と同じ姿をした物に変わり、タクマは、二本の剣を手にした。

 

「面白い!じゃあ俺もやらせてもらおう!」


 オニキスは、タクマがクリムゾンを使った事を面白がり、黒い剣で自らの腕を斬る。そして、そこから流れた血で、クリムゾンを発動させた。するとその剣は、タクマの持つ赤黒い剣と同じような色に変わった。


「どらぁっ!!」

「はぁっ!!」


 オニキスとタクマは、また勢いよく鍔迫り合いを行う。両者とも強く、何度打ち合っても、動かなかった。だが、オニキスが時空を歪める力を使った事で、タクマは鍔迫り合いに負けてしまった。

 

「ぐあぁっ!」


 だが、まだ戦える気力は残っている。そう思い、剣を構え直す。しかしその時、タクマの体に異変が生じた。

 何故だ、フラフラする。クリムゾンで作られた剣を使う度、ジワジワと、血を抜かれているような痛みが走る。ただ、対価を無視した事による痛みとは何処か違う。

 このクリムゾン、己の血を消費する、諸刃の剣だと言うのだろうか。しかも、さっきまで満タンだった筈の元気が失われ、腹が減り始める。


「例えコピーできたとしても、未熟なお前には耐えられまい!」

「くそっ。これ以上はダメだ……」


 確かに、この力を使えば、オニキスと互角の勝負が出来る。だが、使いこなせない自分が使い続けていれば、自分を殺す事になりかねない。

 そのため、タクマは仕方なく、赤黒い剣を捨てた。すると、その剣は血に戻り、辺りを赤く染め上げた。ただ、止めてもなお、手の平から垂れる血は止まらなかった。まだジンジンする。


「さぁ、そろそろ終わりにしてやろうじゃあねぇか!」

「いや、まだ終わらせるには早すぎる!」

「まだ足掻くか、諦めの悪い奴め!」


 オニキスは、無言でクリムゾン・クローを放った。それをタクマは、何処から来るのかを読み取り、避けながら距離を詰める。幸い、クリムゾン・クローを使うのにはある程度の血、距離、時間を要する。それさえ避ければ、反撃のチャンスを作ることが可能となる。

 しかし、オニキスの剣が赤黒く染まった今は、斬撃が速すぎて避ける事が難しい。


「ぐぁっ!!」

 

 タクマは避けきれず、斬撃を食らい、後ろへと飛ばされてしまった。それにより、ドバドバと血が流れる。

 まずい。これ以上血を流せば、最悪の場合死ぬ。

 だがその時、一瞬ではあるが、頭の中に緑色に光る石のビジョンが見えた。走馬灯だろうか、何処かで見た気がすると、空中に居る刹那に思う。

 すると、その答えを教えるかのように、ポケットから風弾石が一つ飛び出した。そうだ、この風を使えば……!


「《ウィンド》!」

「……!?」


 何だ今のは。まるで、竜巻に巻き込まれた落ち葉の如き速さ。いや、アイツの魔法はコピーしか使えない筈。あのモノマネ野郎が、自分の魔法を使うことはできない。

 なのにおかしい。頬から、血が流れている。

 オニキスは、何が起きたのか理解できずに居た。だが、表に出す事はなく、堂々と剣を構え続ける。


「あと3個……なら、一つはここで!」


 そう言ったタクマは、風弾石から風の力を貰い、それを剣に流し込んだ。

 すると、ボロボロになりつつあった剣が、一時的ではあるが、風の刃を纏い復活した。

 そう、タクマは、メイジュとブレイクが使っていた、ウィンドをバネ代わりにして飛び上がる技を応用し、一撃だけでも攻撃速度を上げるために使ったのだ。


「チッ、魔法石か。出し惜しみやがって!だが、俺の爪の前では何の効果もない!」

「そんなの、やってみるまで分からねぇ!」


 タクマとオニキスは、ぶつかり合いながら叫んだ。そして、目にも止まらぬ速さで、何度も剣を交えた。

 タクマは風の力を使い素早く、オニキスは素早くかつ力強く。どちらも退かない攻防戦を戦い抜く。


「今だ!〈閃の剣〉!」


 そして、ついに隙を見つけたタクマは、オニキスの左脇腹に狙いを定め、閃の剣を放った。しかし、剣はオニキスによって、上から叩きつけられ、止められてしまう。だが、風の刃が、タクマの剣から離れると同時に、狙っていた脇腹に斬撃を与えた。


「これで終わりかぁ!はぁっ!」

「ぐはぁっ!!」


 やったか。そう言う隙すらなく、タクマはオニキスの一撃を食らい、2メートル先まで飛ばされてしまう。

 それでもタクマは、体に無理をさせつつも立ち上がった。しかし、剣が重すぎるせいで、剣なしで立ち上がってしまった。

 

「死ぬ気か?まぁいい、今度こそ止めだ!」

「くっ……!」


 剣がないなら、もうどうにでもなれ。拳で、腕で戦え。対価なんて気にするな。戦え。

 タクマは、腕に力を溜め、防御の体制に入った。


(相手は必ずあの技を繰り出す。けど、見た感じオニキスも限界を迎えてそうだ。この一撃さえ耐えれば、勝てる!)

(無駄だ。どんなに足掻こうと、殺さないように手加減はするが、俺のクリムゾン・クローを食らえばアイツは暫く眠る重傷を負う。それをアイツ、防ぐつもりか?)

「まぁいい!〈クリムゾン・クロー〉」


 オニキスは、技を出す体制を取った。

 もうこの一撃しか発動できない。これ以上使えば、空腹と失血によって逆に無様なやられ方をする羽目になる。

 しかし、それでもタクマは諦めようとはしなかった。襲いかかってくる爪に向かって走り出し、両手で挟んだ。


「ば、馬鹿な!俺のとっておきを……!?」

「ぐぐっ……」


 タクマは押されていた。地面に足がめり込むほど、赤黒い爪に押されていた。それでも、己の歯を噛み砕く勢いで歯を食いしばり、絶対に無理かもしれない斬撃を止める。

 痛い。掌が焼けるように痛い。今にも魂が刈り取られそうになる。それでも、タクマは防いだ。

 そして、勢いが弱まった頃を見て、タクマはわざと斬撃を右腕に食らった。


「はぁ……はぁ……」


 意識が朦朧とする。だがそれでも、タクマは傷口を残った力で押さえつけ、無駄に流れる血を止めようとした。

 だが、止まらない。切ってはいけないと所が切れてしまったのか、全く止まる気配がない。


「約束を果たすまでは……死ねないんだ……だから……俺は……」


 タクマは、朦朧とする意識の中、死なないために意識を保ち、立ち続けた。

 

「もういい。今のお前を倒した所で、弱いものいじめにしかならん。さっさと退場……っ!?」


 その時、オニキスはタクマの目の前で心臓がある部分を押さえ、その場に倒れ込んでしまった。

 虚ろな目をして、今にも死にそうな程口をぱくぱくとさせ、苦しんでいた。何だか視界に白い霧が掛かっているが、そんな状態でも、はっきりと分かった。


「クソッ、こんな時に……」


 痛みに耐えられなくなったオニキスは、倒れた状態でタクマの足に何かを刺し、薬のようなものを注入した。すると、タクマの体がみるみるうちに回復していった。

 とは言っても、気絶しそうな事に変わりはなかった。


「今日の所はテメェに勝利の美酒を飲ませてやる。だが覚えとけ、俺はお前らにとって、大迷惑な存在だ。存分に困らせてやる」


 オニキスはそう言い残し、タクマの目の前で煙玉を使い、姿を消してしまった。


『た、ただいまこちらの実況席に謎の紙が降りてきました。えーっと、「ここで首を取られるわけにはいかないから帰る オニキス」?』


 実況は、オニキスが残したであろう手紙を、ゆっくりと読んだ。やはり弱っているからか、ミミズが這っているような文字で書かれていたのだろう。


『と、とにかく!オニキス選手の棄権と言う事で、タクマ選手の大・大・大逆転勝利となりましたぁ!!』

「やった……勝ったんだ……けど……けど……」


 タクマは、喜んで腕を上げようとした。しかし、腕は上がらず、タクマは倒れてしまった。

 声も出ない。意識が完全に途切れてしまうようだ。


(勝ったけど、ちゃんと、しっかりと勝ってはいない。もっと、ゴーレム倒す時以上に、強くならないと……)


 心の中でそう呟きつつ、タクマは目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ