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第119話 準々!死神の奏でし狂想曲

『さぁやって参りました!準々決勝第4回戦!今夜開催される準決勝に進出する選手が、今ここで決まります!』

「おぉ始まった始まった。間に合って良かったのじゃ」


 棒付きキャンディを口に入れ、メアは言う。相手はラウムと言う、武闘家の女。しかし同時に、メアはあの死神、オニキスが人知を超えた化物のような、規格外の強さを誇っている事も知っている。

 メアは、あまりの恐ろしさに彼とは二度と顔を見せたくない。そう思っていた。だが、何故だろうか、体が勝手にこんな所に来てしまっていた。

 もうあの力を奪われる風は感じたくない筈なのに、何処か彼の事が気になってしまう。恋心などではなく、ただ純粋に、彼が何故あれ程までの力を有してまで最強狩りにこだわるのか。メアは知りたかった。

 そうしていると、後ろから「メア殿」と声をかけられた。


「うにゃぁっ!ご、吾郎か。驚かすでない」

「それはすまぬ事をしたでござるな。カッカッカ」


 吾郎は腰の刀を鞘ごと抜いて、席に立てかけ座る。そして、腕を組んでから、入場してきたラウムを睨むように観察した。

 そこへ、おタツとリュウヤも、「オッスオッス」と気さくな挨拶をしてやってきた。


「メアちゃん、もう大丈夫みたいじゃん」

「あれだけの攻撃を食らった後でも立ち直れるとは、凄いでありんす」

「そ、そんな。妾が今ピンピンしておるのは、皆のお陰じゃ」


 メアは吾郎の隣に座り、頬をピンク色に染めて言う。こういった素直な所も悪くないな、なんてリュウヤが思っていると、おタツが咳払いをした。その瞬間、リュウヤはビクンと体を震えさせ、おタツと共に席についた。

 タクマはまだ休んでいるようだが、さっきからノエルの姿を見ない。そのため、メアはおタツ達に「のぅ、ノエルは何処に行ったのじゃ?」と訊いた。


「あぁ、ノエちゃんならチェイスさんの所でありんすよ」

「チェイスぅ?何故あんな胡散臭い親父の所に?」

「今のノエちんはチェイPのアイドルが一人だからさ、チェイさんに呼ばれたんじゃない〜の?」


 リュウヤは、背もたれにどっしりと背中を押しつけ、空を見ながら気楽そうに言う。

 そうこうしているうちに、もう一人の選手、オニキスが姿を現した。


『対するは東コーナー!どんな選手の攻撃を食らっても平気だった最強狩り!今回の戦いもまた、あの技で終わってしまうのかーッ!まさに見もの、本日最大級の大決戦!オニキス選手だぁぁぁ!!』

「へぇ、アンタが巷で噂の死神か。噂通り女みたいな長髪だなぁ」

「お前も短くて男みてぇだな、オコジョ娘」

「オコジョッって……アンタ、レディになんて事言うの!失礼するっての!」


 オコジョと呼ばれたラウムは、地団駄を踏み怒る。しかし、オニキスは失礼も何もないと言うのか、ただただ笑った。

 そして、早く始めろ、と腹を立てたラウムはギエンに顎で命令した。

 すると、その命令通り、ゴングが鳴り響いた。しかし、オニキスは剣を抜かず、ただその場で立ち尽くしていた。


「アンタ、戦う気ないの?」


 ラウムは何もしないオニキスの前で構え、煽るように訊く。それに対し、オニキスは「俺だけが無双するのもつまらん。だから先にお前が満足するまで殴らせてやる」と、あたかも自分の勝利が決まっているから、頑張らないと言うように答えた。


「ふざけるなぁ!」

「んっ」

「黙って聞いてりゃ、自分が勝つと思いやがって!調子に乗るな死神!」


 激怒したラウムは、オニキスの顔面を何度も殴る。しかし、オニキスは涼しい顔で攻撃を食らった。それに対しまた腹を立てたラウムは、泣いても許さん勢いで、オニキスを更にボコボコにした。


「はぁ……はぁ……どうだ、参ったか!」


 己の力を極限まで引き出し、オニキスに膝をつかせたラウムは、オニキスを煽った。舐めていたからこうなったのだ。そう言うように。

 しかし、オニキスは、そんなラウムにため息を放った。


「はぁ、つまらん。よくもまぁ、こんなヘナチョコパンチで最強を名乗ってられるな」

「なんだって?まだ殴られたりないのか?」

「お前の戦闘力はこれでよく分かった。俺を殴った分、お返ししてやるよ」


 そう言った瞬間、オニキスの周りの時空が歪み出した。まるで溶けた写真のように、辺りがグラグラと揺れる。

 何が起きたのか理解できないラウムは、周りを見回す。


「な、なんなんだコレは!お前、何した!」

「そんな事俺が知るか。とにかくお前は最強を名乗ってる訳だし、遠慮なく狩らせてもらおうか」


 オニキスは、死神のような笑みを浮かべ、剣を抜いた。そして、その剣に赤黒い何かを纏わせ、戸惑っているラウムに向けて放った。


「〈クリムゾン……」

「ま、待て。話せばわかる。頼む、アタシに……」

「問答無用。〈クリムゾン・クロー〉!」

「いや……待って……待っ……」


 泣いて頼むラウムを気にかけず、オニキスはクリムゾン・クローを放った。そしてそれは、絶望しきった彼女を八つ裂きにする様に上へ飛び上がる。

 会場に、思わず耳を塞ぎたくなってしまう、女戦士の痛々しい悲鳴が響き渡る。


『しょ……勝者はまたしてもオニキス選手!一撃で仕留めてしまったぁ!このとんでもないダークホースを止められるのは、一体誰だと言うのだぁぁぁぁぁぁ!!』


 反応に困った実況は、数秒の間を置いてから、オニキスの勝利を祝った。しかし、観客は彼に歓声を送ろうとはしなかった。

 毒を飲んでも死なない体、恐ろしい気を纏った剣技、人離れした力。それらに、皆恐怖したからである。確かに強くて、偶に悪い最強を倒してくれる事もあるダークヒーローとして子供に人気だが、ここまで来られてしまえばただの化け物に過ぎない。

 会場がざわつき始める。本当にこの大会、大丈夫なのだろうか、と。


「……やりすぎたか?」


 オニキスは、感情のこもってない声で呟く。力の制御が効かなくなりつつあるのか、加減できたかどうかが分からない。

 だが、何も感じなかったオニキスは「ま、いっか」と呟き、剣を鞘にしまった。そして、倒れてビクビクと痙攣していたラウムの体に、回復薬をかけて戦場を後にした。


 ──一方その頃、ピリピリとしたムードの会長室前では……


「チェイス会長!大変です!」


 黒服の男が、会長室にノックもなしに入ってきた。そこでは、チェイスとノエルが、まるで猫と戯れているかのように遊んでいる姿があった。

 多分見間違いだろう。アレが猫に見えたのなら疲れている。そうして、一旦扉を閉め、黒服はもう一度開けた。やはり変わっていない。疲れてはいないようだ。


「何の用だぁ〜?」


 しかし、そんなコント的な事をしていようと、チェイスは気にする事なくノエルと猫じゃらしで遊んでいた。

 ノエルは、わざと猫のフリをして、小さな猫じゃらしを捕まえようと奮闘する。


「我々の計画が今、完全に崩壊しました!」

「な、何だって!?じゃあつまり……」

「このままではあの死神が……」

「ソイツは大変だ!すぐにアレを準備をしろ!」


 すぐさま何が起きたのか察したチェイスは、慌ててアレの準備にとりかかった。その隙に、ノエルは気まぐれな猫のように、トテテテと、会長室から抜け出した。

 そして、会長室の近くに置かれた木箱に身を潜めていたタクマを、呼び出した。


「タクマさんタクマさん、そろそろ始まるみたいですよ」

「マジ?よし、突撃だ。」


 タクマは、小声で木箱の中から返事をする。しかしそこで、事件が起きてしまった。


「ノエちん、そこに何か居るのかい?」


 黒服の男、もといノエちんマネージャーの代理がやって来てしまったのだ。しかも、ノエルの方ではなく、タクマの潜む木箱に近付いてきている。

 マズい、このままではバレてしまう。ノエルが誤魔化して撒いたとしても、その頃にはチェイスの計画が終わってしまう。どうしたら良いのだろうか。

 そう思った時だった。


「フンッ!」

「ぶ」


 なんとノエルが、背中からエフェクトが出るくらいの凄まじい力で、黒服の溝落ち目掛けて腹パンを繰り出したのである。

 戦女神と言うか何と言うか、とにかく今は彼に感謝をしよう。


「チェイスさん!」


 そう言い、タクマは扉を力強く開けた。

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