第11話 噛み合わない話
「うぉぉぉぉぉ!!!」
タクマは、ティグノウスの背中を滅多刺しにする。ロデオかの如く暴れ回る虎の上で、何度も。
そして、何度も何度も剣で刺していると、急所に当たったのか、急に勢いよく暴れ出した。
「だぁぁ!イテテ……」
タクマは勢いよく振り下ろされ、宿屋の焼けた柱にぶつかった。
これ程の速さで打ち付けられたら死ぬ筈なのに、何故か骨折すらしない。
いいや、今はそんな事考える暇はない。タクマは立ち上がり、逃げるティグノウスを追った。
逃げた先は幽霊屋敷がある森だった。
「ここを燃やされてはたまらぬ!そこから離れるのじゃ!」
メアは投げナイフを無限に出現させて投げる。速すぎて腕が見えないくらい投げる。そして、ナイフ一本の威力より量で押した。
すると、ティグノウスは怯んで後ろの木にぶつかった。
木が燃えていく。早くしなければ屋敷まで燃える。タクマは考えを捨て、とにかく斬る。
「熱っ!」
しかし、被った水が全て蒸発したせいで、近付けない状態に戻ってしまった。
だが、それでも斬り続ける、腹を中心に斬る。
すると、ティグノウスが口にエネルギーを貯め始めた。
フレアの準備、今ここでそんな魔法使われたらこの森もろともタクマ達も燃える。
──グルァァァァァァァ!!!
対策する暇もなく、火球はメアに飛んできた。
「危ない!」
ギリギリだったが、タクマはメアを押し飛ばして火球を避けた。
だが、その火球はそのまま直行し、屋敷に直撃した。
「あ……あ……」
唐突な絶望的出来事に、メアの目から光が消えかけた。
しかしそれでも、じりじりと迫ってくるティグノウス。タクマはメアを抱えながら後退りをする。
するとその時、ティグノウスが謎の人影によって突き上げられた。
「全く、私の国が騒がしいと思ったらこんな化け物が侵入していたとはな。全く、最近の若い兵士は貧弱すぎてならんな」
その人影の正体は、戦う気がそうそう無かった筈のアルゴ王だった。
「王様、城で呑気に酒呑んでた筈じゃ……」
「酒?何馬鹿な事を言っている。私は国王会談兼異変調査から帰ったばかりだぞ、少年」
何故だか話が噛み合わない。タクマの頭はこんがらがった。
──グルァァァァァァァ!
しかし、そうこうしているうちに、倒れていた筈のティグノウスは立ち上がり、咆哮を上げる。
「我が心ある国民達のおかげで死人は出なかったが、国の施設を燃やした罪は重いぞ。魔物め」
アルゴ王は手に持っているレイピアをティグノウスに向け、呪文を唱え始めた。
「水よ、この悪しき炎に鉄槌を下せ《メガ・ウォーター》!」
王がそう唱えた時、王の身長ぐらいまである水のレーザーらしきものが放出された。
そして、メガ・ウォーターの力にまだ慣れていないタクマは、風圧でメアと共に倒れてしまった。
「な、なんて強さなんだ。この魔法……」
「私の国を襲いし罰、その身に受けて地獄へ堕ちるがよい」
それから、王のウォーターは止まり、目の前には炎が消え、黒焦げになり力尽きたティグノウスが横たわっていた。
「メア、投げナイフ一本貸してくれ」
「何に使うんじゃ?」
「コイツの目が気になってな、くり抜きたい」
言い方は悪いが、タクマは投げナイフを借りてティグノウスの目頭辺りにそれを刺した。
そうしている間、アルゴ王はメアの事をジロジロと見つめていた。
「君、もしかしてメアか?」
そして、王はタクマの後ろでメアに声を掛けた。
「やっと思い出したか、父上」
「思い出すも何もない。まさか前の家に引き篭もっている間にここまで大きく元気に育って……パパ嬉しい!」
その会話を聞いたタクマは、くり抜いた宝石とナイフを落とした。
「え?そ、それどう言う事だよ」
タクマは動揺しながらも二人に尋ねる。
「どう言うも何も、妾はアルゴ王の娘、メアじゃ」
「で、でも王はあの時娘だって言わなかったじゃないですか!」
「何を言う。君と会うのは今が初めてだぞ?」
余計にこんがらがる、訳がわからない。話をまとめる、まず俺は王に会って冤罪から解放してもらった、そしてワープをコピーして見せた。
次にあの幽霊屋敷の調査を命令されてメアと会い、メアを城に連れて来た。
その時、ついさっきの奴が現れて、ピンチになった時に全てを知らない王が現れた。
タクマはこの経緯を、城で王と会ったとこから今までを纏めて話した。
すると王は、「うーん」と口に手を当てた後に「国民が驚いたのもこの為か……」と呟いた。
「私は今、君と会って冤罪の事も知らない。そして当の娘の名と住処を忘れる筈がない。それに、さっきも言った通り私は国王会談で不在だ。そんな命令をどうやって出せる?」
王はタクマの纏めた話に対して一つ一つ答える。目を見る限り嘘を言っている訳ではないようだ。
じゃあ、あの時俺に命令したのは一体……
「私の事かな?」
その時、タクマの考えを見抜いたかのように王が返事をした。
しかしそれは、メアと一緒に居る王ではない。声はタクマの後ろから聞こえた。
タクマが振り返るとそこには……
全身びしょ濡れになったアルゴ王が立っていた。