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第115話 ドクターストップ

 バン!

 食事をしていたタクマ達の耳に、物騒な銃声が響く。その音を聞いた五人は、何事かと立ち上がった。


「何の音でござる?かじのの演出でござるか?」

「カジノだったらここまで聞こえるような騒音は鳴らない。こいつぁハジキの音だ」

「はじき?おはじきでありんすか?」

「あぁごめん。ピストル、銃の事だよ。ホラ、昨日サイリョーって男が使ってたアレ」


 リュウヤが寿司を握りながら説明すると、おタツは「あぁ、リュウヤさんが向こう側から偶に持って来る“えあがん”とかのアレでありんすな」と理解した。

 流石は唯一日本に帰れる男。何でもアリなようだ。リュウヤはそう納得するおタツに、「けどこの音はエアガンなんて可愛らしいモンじゃない。マジモンだ」と言った。

 そう話していると、奥の方で大勢の人が騒いでいる声が聞こえてきた。


「今度は何ですか?」

「うるさくて食事に集中できないでござる」

「ん?あの人の群れ、こっちに来てないか?」


 タクマは、廊下の奥から流れ込んで来る人の波に異変を感じ、指を差す。だんだん、その騒がしい声が大きくなってきた。

 そして、その中から聞こえる、人一倍大きな声を聞いたタクマは、ホタテとタコ足の乗ったゲタ皿を置き、そちらの様子を見に行く。

 そこには、野次馬の波に逆らうブレイクと、野次馬を払い除けるメイジュの姿があった。しかも、ブレイクの背中には、女の子が居る。それも、耳と尻尾の付いた、見覚えのある姿だ。


「ブレイクさん!?ちょ、ちょっとすみません。道開けてください」

「お、タクマじゃねぇか!悪いけどコイツら退かしてくれ!急いでんだ!」

「わかりました!との事なので退けて!お願いします!」


 しかし、何度押し退けようとしても、野次馬達は増える一方で、なかなか退かす事は出来なかった。

 その様子を見ていた他の四人は、リュウヤ以外タクマの押し合いに加わり、リュウヤは「今から15分間、剣崎寿司無料だぜぇ!」と叫び、利益を犠牲に野次馬を引き付けた。

 だが、それでも剣崎の座席には限りがある為、引き付けられてもほんの数十人と、野次馬の量からしては少なかった。

 そんな時、タクマはある妙案が思い付いた。


「ノエル、ゴニョゴニョ……」

「成る程、分かりました!」


 タクマがこっそりとその旨を伝えると、ノエルは元気よくその場から離れ、遠くへ行ってしまった。


「た、タクマ殿!最強戦力であるノエル殿を抜かすとは何を考えているでござるか!」

「大丈夫だって吾郎爺。俺の知り合いには、すげぇ助っ人が居るんだ」


 タクマは野次馬を退けつつ吾郎に言う。


「何でもいいから頼む!早くしねぇとこの子が死ぬ!」

「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


 残った3人は、力を振り絞って道を開けようとした。しかし、相手も反発しているせいか、なかなか押し切れない。

 もう駄目かもしれない。そう諦めかけた時だった。


「タクマさん!連れてきました!」


 ノエルの声だ。野次馬達がその声に一瞬振り返った時、皆一斉に顔が青ざめた。

 何故ならそこには、身長5m超えの規格外な背丈を持ったフランケンシュタインの怪物が、巨大な木槌を持って現れたからである。そう、武器屋のケンだ。


「「「「「ギャァァァァァァァ!!」」」」」


 邪魔ばかりしていた野次馬達は、武器を持って現れたケンを見て、悲鳴を上げながら逃げた。

 

「とにかくサンキューなケン!タクマ!」

「グッド……ラック……」


 ロード兄弟は、タクマ達に礼を言い、治療室側の廊下へ走り去っていく。

 更に、タクマ達も、ロード兄弟の後を着いて行った。何故なら、その背負っていた女の子が、ナノだったからである。

 


【治療室前】


 ナノを引き渡してから数分後、診断結果を知らせる為、絵に描いたような医者が扉から現れた。

 

「親父、あの子の容態は?」

「うーん。一応早めに見つけて連れて来れたから、命に別状はないけど、銃による傷は治すのが少し難しい。だから、このトーナメントが終わるまでは動けないかな」


 その話を聞いて、おタツは絶望の表情を浮かべる。“怪我をした彼女の出場はどうなるのか”と言う事だ。

 おタツは「じゃああの子の出場は……」と訊いた。

 すると医者は、その問いに対して、無言で首を横に振った。やはり無理なようだ。


「そんな……仲間を助ける為に頑張ってたのに……」

「流石に拙者達で彼女の仲間全員を助けるのは難しいでござるし、どうしたものか……」


 タクマは頭を抱えた。彼女が仕方なく棄権する事になったのは、こちらも回りくどい作戦でオーブを集めなくて済む事になる。しかし、タクマには誰かを見捨てると言う選択肢はなかった。

 いや、あったとしても絶対に選ばないだろう。

 

「先生、あの子に話があるので、ここで待ってていいですか?」

「目が覚めるまで居てもいいけど、時間かかるよ?」


 医者は眼鏡を掛け直しつつ言う。その問いに、タクマは「はい」と正直に答えた。そして、一緒に来てくれた3人にも、どうするか目で訊いた。

 

「残念ながら、拙者達はリュウヤ殿の手伝いをせねばならぬでござる」

「ウチも。リュウヤさんの手伝いで……」

「私はチェイPに呼ばれてるので……」

「そうか。じゃあ俺はここで待ってる。メアの事もあるし。」

「そうでござるな。では、頼むでござる」



 ──それからタクマは、人が居なくなった午前0時以降も待った。人は居らず、警備の黒服が魔導式ライトを持って不審者が居ないか探している時間帯だから多分それくらいは経っただろう。

 何だかウトウトしてきた。まぶたが重くなる。

 ちょっとくらい目を瞑っても……

 タクマは目を瞑った。そして、次に目を開けた時、辺りの小窓から朝日の光が差してきた。更に、その周りで小鳥が囀っている。


「ん?あっ、やべぇ寝ちまった」


 タクマはまるで某結果まですっ飛ばす能力を使われた時のような状況に一瞬驚くが、すぐに冷静になった。流石にこの世界に結果だけを残す力を持つ存在は居ない、と。

 いや違う。ナノちゃんだ。ナノちゃんの容態が今は一番大事だ。

 

「先生居るかな……」


 タクマは後で謝ろうと思い、こっそりと扉を開けた。しかし、そこに医者の姿はなかった。もう終わったから帰ってしまったようだ。

 すると、ドアが開いた音に気付いたのか、メアの隣のベッドで寝ていたナノが「何や?」とゆっくり起き上がった。


「おじゃまします。ナノちゃん、大丈夫?」

「アンタらが助けてくれたんやろ?お陰で何とかなったで。おおきに」


 ナノはタクマに頭を下げる。しかし、頭を上げてすぐ、涙を溢した。やはり、ドクターストップとはいえ、今までの頑張りがこんな形で終わったのは相当のショックだったようだ。

 タクマはナノの背中に手を当て、その気持ちを理解した。


「約束してもいい?」


 タクマは、治療室の壁にかけられた時計の方を見ながら、ナノに訊く。それに対し、ナノは「何や?」と訊く。


「もし俺達が勝ったら、君にお金をあげる。あの時君と交わした約束の逆の約束だ」

「けどアンタらは……」

「俺達の狙いは最初からオーブだけ。500億なんて、正直貰っても困っちゃうんだ」


 タクマはナノに顔を向け、冗談を言うように笑った。その顔を見て、ナノも面白い兄ちゃんやな。と笑顔を返した。


「だから、君も頑張ってね。俺は次の戦いに行くよ」

「いってらっしゃい」

「行ってきます」


 そう言い、タクマは手を振りつつ、部屋の外へ出た。


「アイツ、なかなかのいい男やないか」

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