第114話 復活?ナノの死神捜索
【治療室】
「俺、復活!」
サレオスから受けた傷が完全に治り、復活したリュウヤは、何処かで見たことのある有名な参上ポーズを取る。
しかし、目の前にあった惨状を見て、リュウヤは口をあんぐりと開けた。
何故ならそこには、気絶したメアを連れたタクマ達が治療室の前に居たからだ。
「た、タクマ!これは一体どう言う……」
「オニキスに……やられた……」
「あの男、メアちゃんの毒を平気な顔で飲んでいたでありんす」
おタツの意味不明な発言に一瞬戸惑うが、リュウヤは「おタツの言う事だし嘘じゃないな」と信じ、「マジかよ……」と言葉を溢す。
そんな中、吾郎はメアの体に付いた刀傷の血を指で採取する。
見た目も匂いも、嗅ぎ飽きた血の匂いだ。特に不審な点は見当たらなかった。
「……あれ?タクマさん、持ってるソレ何ですか?」
「えっ?あっ、これか」
メアを助ける事に必死になるあまり、オニキスから貰った物の事を忘れていた。ここはしっかりとノエルに感謝しないと。
タクマは「ありがと忘れてた。コレ、猫娘のお前なら使えるってオニキスが……」とノエルに説明した。
「成る程、とにかく試してみます!」
そう言うとノエルは、杖を取り出し、秘伝書を見つつ宝玉に向けて魔力を溜めた。すると、秘伝書と共に宝玉が光を放ち始め、メアの傷をゆっくりと塞いでいった。
更に、傷口に入っていた砂やゴミ等が、風で吹き飛ばされるように飛ばされていく。
やはりノエルに任せて正解だったようだ。
しかし、そう思った矢先、杖と本の光が弱まってしまった。
「タクマさん、もう限界です……」
ノエルは苦しそうな声でそう訴える。
やっぱり、治癒力が高い代わりに魔力消費が激しいのだろうか。タクマはノエルに「ありがとう。後は俺がやる」と、無理をさせないように言った。
そして、代わりにタクマは杖と本を持ち、魔力を注ぐ。
しかし、適正武器でない事と対価が生じたせいか、腹部に剣で抉られたような痛みが通る。そして、治癒力もノエルの時と比べて劣っていた。
だが、タクマは「メアを助ける」と言う意思を曲げず、対価による激痛を耐えながら魔力を注いだ。
「ぐぁっ!」
「タクマ殿、これ以上やれば魔力が……」
「もういいでありんす。それ以上やったらタクマさんまで……」
心配したおタツと吾郎は、苦しむタクマに回復を止めるよう言う。しかしタクマは、二人の心配の声に首を横に振ろうとした。しかし、首を横に振ってすぐ、目眩がしたせいで倒れてしまった。
「タクマ!おい、しっかりしろ!」
リュウヤが顔を覗き込み、頬を優しく叩きまくる。吾郎はメアを担ぎ、医療室に運び込む。
テンパっていたせいで気付かなかったが、よく考えれば最初から医療班に頼んでおけば良かった話じゃんか。タクマは自分の抜けている所を反省しながら、どっこいしょと体を起き上がらせた。
(それにしてもオニキス、どうしてわざわざ回復魔法の秘伝書や回復薬を置いていったのだろうか。)
「……そうでありんすか、分かりました。」
「おタツ、メアちゃんはどうだった?」
「早急の回復魔法を使ったお陰で、すぐに治せると。」
二人から彼女の無事を聞いたタクマは、はぁ、と安心のため息を吐いた。
しかし、やっぱり何か引っかかって素直に喜べない。オニキスが謎すぎる事、チェイスの闇、フールの謎、そしてナノとオニキスの関係性。
頭がこんがらがりそうだ。
その謎を片っ端から頭の中で纏めていると、リュウヤが目の前で手をパンと叩いた。
「うわぁっ!!」
「そんな怖い顔しないの。ほら、飯にしようぜ?で、ワインあった?」
リュウヤはいつも通りの気楽な口調でタクマに訊く。その楽しく生きるポジティブな性格が欲しくなる。
しかし、アレはオニキスに負けて持ってかれてしまった。タクマはその事を伝えた。するとリュウヤは「ハーハッハ!そりゃあ面白いなぁ」と、笑って許した。
「一本しかなくてジャンケンに負けたと言うても、運は仕方ないでありんすからね。フフッ」
「残念ながら煮付けは無くなったけど、食えればそれで良きなのだ!」
「うむ、明日の為にも食べまくるでござる!」
──一方その頃、第二予選の最終戦で、またあの技を使った所を目撃したナノは、仲間の所へは帰らず、闘技場近くでオニキスの捜索をしていた。
奴も選手なら、ウチらと同じようにアコンダリアに居る事になる。だから探せば必ず何処かに……
しかし、相手は神出鬼没の最強狩り。探そうが名前を呼ぼうが、いい返事をしてやって来るほど簡単な相手ではなかった。
「クソッ、ご主人の仇、一体何処に……」
闘技場の外でも行われている出店と、そこで食事を済ます選手や観客達が賑やかに酒を飲んでいる中、ナノはその人混みの中を、波に逆らう魚のように掻き分けて探した。
しかし、あの異様な気、特徴的な長髪、フード姿の男。その容姿に合う人物は見当たらなかった。
しかし、耳を澄ませた時、何処からかあのドスの効いた聞き覚えのある声が聞こえてきた。
(裏路地の方からや)
ナノは店と店の間に出来た小さな細道を見つけ、そこに入っていった。体が小さいお陰か、難なく通ることができる。
すると、その奥から、男の声だけでなく、女の声も聞こえてきた。
「ほら、遅くなったが例のブツだ。」
「ありがとオニキス君!流石は私の弟」
オニキスは、裏路地の奥で待っていた女にワインを渡す。それを女は、待ってましたと言わんばかりに手に取り、オニキスの頬にキスをする。
弟?まさかオニキスは兄弟なのか?気になったナノは、そーっと奥の空間でのやり取りを覗く。するとそこには、案の定オニキスが居た。
フードはしていないようだが、あの特徴的な長い前髪は誰がどう見てもオニキスしかいない。やっと見つけた。
しかし、今出てしまえばもう一人居る女にも見つかる事になる。
「……弟はやめろ。俺は義理家族なんて嘘っぱちなモンはいらん」
「どうして?一人ぼっちは寂しいじゃん」
「俺は一匹狼、生きる為なら飯だって盗むし、人の住処に忍び込んで勝手に寝泊まりする」
同じだ。流石に勝手に人様の家に上がり込む事はしないが、生きる為に物を盗んでいた。
いや違う。似ていたとしても奴は……
そんな事を考えていると、オニキスは誰かに見られている事に気付いたのか、「アル、とにかくアイツの所に行くぞ」と手を引いて壁の中へと入っていった。
(壁の中に……一体あの先には何が?)
ナノは周りに仲間が居ないかどうか確認した。人の気配も匂いもしない。やはりこの場所に居たのはオニキスと謎の女だけのようだ。
そして、二人が消えていった壁を触った。しかし、隠し部屋に繋がると言う事はなく、ただの煉瓦造りの壁だった。
「何でや、確かにこの中に……」
「良くないなぁ、小さな女の子が勝手にこんな所入るなんて」
男の声が後ろから聞こえる。ナノは恐怖のあまり、後ろを振り返る。そこには、あのオニキスがナノに拳銃を向けて立っていた。
何故だ。調べではオニキスは剣しか使わない筈。ハクラジュから最近仕入れられたと噂のモダンなアイテムを使うはずがない。
しかし、そんな事を考えている間に、オニキス?は撃鉄を押さえる。見られたから殺す。やる気のようだ。
(まずい、逃げなきゃ!)
ナノは危険を感じ、その場から逃げた。竦んで動きそうもなかったが、無理矢理走らせた。錆に錆びた鉄のようにギシギシと軋む幻聴が聞こえて来るが、それでも走った。
仲間の為にも此処で死ぬ訳にはいかない。とにかく死にかけても救いのある人混みに!
幸いこの細道は、大人が通るには狭い造りになっているため、何とか逃げる事ができる筈。
(やった、光がある。これでウチは……)
見える光に希望を持ったナノは、全力を出す。しかし、出口まであと数メートルと言う所で、バン!と大きな音がした。
それから1秒もしないうちに、背中を二つの冷たい弾が貫いた。
「このアジトへ続くゲートももう限界ですカ、場所を変えないとネ」
オニキス?は不気味で狡猾な笑い声を上げ、一仕事を終えて帰る。
(そんな……このままじゃ死ぬ……)
「誰か……来て……お願い……や」
ナノは叫び声も上がらないくらいの激痛に耐えながら、裏路地を這う。そして、やっと出口付近に辿り着いた。
しかし、不幸な事に、行き交う人々はナノを助けようとはしなかった。
報酬が無ければ助ける意味はない。それがこの街のルールなのだろうか。ナノはゆっくりと来る死を待った。
………
「うーんと、確かこの辺で銃声みたいなのが聞こえたよなぁ」
死ぬ覚悟を決めていた時、男の声が聞こえてきた。この銃声を聞いて飛んできたのだろう。更にもう一人、優しそうな声の男もやってきた。
目が霞みだして見えなくなってきているが、人混みの真ん中に二人の男が立っている。両方とも赤髪で、片方は剣を、もう片方は杖を持っている。
「兄さん、どこにも居ないよ?」
「そりゃあこんな人混みでドーンなんて撃ってみろ。辺り一面大騒ぎだ。けど、騒いでないって事は人の居ない所とかで起きた事件だ。ほら、あの辺とか」
剣の男は、こちらを指差す。すると、たまたま指差した所に人が倒れていたのを見つけ、「女の子が倒れてるぞ!」と叫んだ。しかし、誰も男を手助けしなかった。
「やっぱり……誰も……」
そう言い、ナノは目を閉じた。