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第111話 お使い?親友の頼み事

【治療室前廊下】

『それでは、第6回戦目を開始させていただきます!』


 会場が、第6回戦が始まる事に胸を躍らせている観客の熱気に包まれている中、タクマ達はボロボロになったリュウヤの様子を見に、5人揃って治療室へ来ていた。

 結構酷い怪我だったからか、今も「治療中」の掛札が扉に掛けられている。


「リュウヤ殿、あれだけ血を垂らしていたが、大丈夫なのでござろうか……」

「まさか、リュウヤが死ぬなんて事はないじゃろ?」

「そんな馬鹿な。あのリュウヤだ、今日が不調でも、明日にはケロっとした顔して準々決勝に参加するだろうよ」

「そうでありんすよね。リュウヤはそう簡単に死にはせんと、ウチは信じてるでありんす」


 そんな話をしていると、次の戦いの挑戦者を紹介する実況の声が響いてきた。


『西コーナー!風の魔法で逆転大勝利を掴み取り、趣味のカジノで大勝利した強運の持ち主!シオン選手だぁぁぁぁ!!』

「もう選手紹介が始まってる時間ですけど、本当に大丈夫なんですか?」


 リュウヤの帰りが遅い事を心配したノエルは、あざと可愛くタクマの右腕を掴み、ウルウルとした瞳で見つめた。

 タクマは今にも泣き出しそうなノエルの頭を撫でながら「アイツはそう簡単に死ぬ程弱くない」と、リュウヤの事を信じるように言った。

 するとその時、中から救護班の一人であろう看護師が、治療室から出てきた。


「お医者様、ウチのリュウヤはどうなったでありんす?」

「リュウヤ殿の容態は?良好でござるか?」

「まさか死んだとは言わぬよな?」


 リュウヤの事を心配して止まなかったおタツ達は、出てきた看護師に沢山の質問を投げかけた。それをタクマは「こらこら、迷惑かけちゃいけませんよ!」と、何処かのママのように3人を引き戻し、看護師に「すみません、心配しすぎたあまりに」と頭を下げた。


「いえいえそんな。リュウヤさんはちょっと時間は掛かりますが、今日のオニキス対メアの戦いが終わるまでには完治しますよ」

「良かったぁ〜」


 その良い知らせを聞いたノエルは、ホッとしすぎるあまり、フラフラと千鳥足になりながら、向かいのベンチに座り込んだ。

 メアはその横に座り「ふぃ〜、これで安心してゆっくり呼吸ができるのじゃ」と、共に安堵の感情を分かち合った。


「それで、リュウヤさんから皆さんにと、コレを預かっております」


 看護師は、そう言って黄色のメモ用紙をタクマに手渡した。


「何これ?」

「手紙、でありんすかねぇ」

「いやしかし、リュウヤ殿は今治療中だから書けないのでは……」

「それでは、私はこれで」

「あ、ちょっと待……行っちまった」


 看護師は、この紙が何なのか伝える事なく、そそくさと治療室に戻ってしまった。

 仕方なく、タクマはその黄色い紙を開いた。


「えーっと何々……」


 皆へ。いや〜、気張りすぎて今死にかけてるわ。けど安心してくれ、ヒールだかビールだか分からないけど、そんな感じの奴で今日のトーナメントが終わるまでには必ず帰れるらしい。

 そこでなんだけど、その後の飯屋を運営する中で、足りない材料とか出てきたから、下に書いてある物を買ってきてくれ。何かゴメンね。リュウヤ。


 そう書かれた手紙の下には、食材の名前が書き記されていた。

 白身魚20尾、軟体系10匹、ワイン一本 (特に度数高い奴)と。そして、その横には「ps.無かったら買わなくていいヨ!」の文字と、お茶目なピースマークが付けられていた。


「お使いでござるか」

「何というか、この呑気な文面を見た感じ元気そうだな」

「……でありんすな」


 タクマと吾郎、おタツはリュウヤが書いた?メモ用紙を見て、クスリと笑う。

 そして、タクマはメアとノエルも呼び、お使いを頼まれた事を伝えた。


「あぁ、サレオスさんとの戦いでワインなくなっちゃったから……」

「それで、誰が買いに行くのじゃ?」


 メアがそう言った瞬間、5人は一瞬目を見合わせる。

 

「では、私が」

「いや、ここは拙者が」

「いえいえ、ウチが行くでありんす」

「じゃあ妾が行く」


 四人は順番に手を上げ、お使いの権利を取り合っていた。

 リュウヤの頼みだから、彼の為に皆がその名誉あるお使いの権利を奪い合っているのだろう。そう思ったタクマは、親友の頼みとあらば、と言う精神でゆっくりと手を上げた。


「いやいやここは俺が行k」

「「「「どうぞどうぞ」」」」



………

【アコンダリア商店街】

「畜生騙された。あのやり取りは例のアレだって何で早く気付かなかったんだ……」


 タクマは真っ赤に焼ける夕焼けをバックに、魚屋で買った20尾の白身魚と10匹のイカやタコを詰めたエコバッグを持ち、ブツブツと自分の感の悪さを悔しがりながら酒屋へと向かった。

 そして、その間タクマは思った。「何であのネタがここにもあるんだよ」と。


「へいらっしゃい!」

「えーっと、ワインねぇ。それも度数の高い奴……」


 タクマはエコバッグを腕にかけながら、リュウヤが依頼した品の確認をする。しかし、酒屋にある棚を一望するも、ウイスキー瓶やビール瓶など、全く違う物しかなかった。

 ただ一つ、光の当たり具合で色が変わる、マジョーラカラーのお洒落なボトルを除いて。


(度数は15%か……酒飲めないし、飲んだら色々とコンプラ引っかかるし、これでいっか)


 心の中でそう呟き、タクマはそっとワインを手に取ろうとした。するとその時、女性のような綺麗な肌と爪を持った手に触れてしまった。

 ヤバイ、そう思ったタクマは手を引いた。それと同時に、もう一方から現れた手も引く。


「す、すみません」

「こっちこそ、悪い」


 綺麗な手の主は、愛想の悪い男の声で謝った。顔を上げてよく見ると、その男は、昼にパン屋前でぶつかった男と同じフード付きの服を着ていた。顔はフードに隠れて分からない。

 するとその時、何処からか凄まじい突風が吹いた。屋内であるというのにだ。何故かは聞いてはいけない。だが、それにより、男のフードが落ちてしまった。


「「あ……」」


 両者とも、ぶつかった人物の状態を知り、一瞬黙ってしまう。だが、すぐに指を出し合い「「あーーーー!!」」と叫んだ。


「お前、なんでこんな所に」

「お前こそ何しにここへ!」


 顔を現したオニキスとタクマは、敵を睨むような目で言い合う。しかし、こんな所で戦うと店に迷惑がかかる。そう判断したタクマは、酒を買ってから、山程ある話したい事を表に出て話そうと考えた。

 タクマはそのワインを手に取り、店主の立つカウンターに置いた。


「おじさん、このワインください」

「バッカお前!それは俺が買う筈の……」

「いつお前のと決まったんだ。もう一本あるだろ!」


 タクマは後ろから羽交い締めを繰り出して来たオニキスの腕を無理矢理引き剥がしながら言う。

 しかし、もう一本あると聞いた店主は「ごめんね兄ちゃん達、ウチのワインはコレだけなんだ」と、軽く笑いながら教えた。


「ならば仕方がない。ここは正々堂々と、ケンで勝負と行こうじゃねぇか」

「望む所!」


 そう言い合い、タクマとオニキスは適切な距離を取った。荷物を置き、自分の利き手である手をゆっくりと背中の剣にかけようとした。

 だが違う。タクマもオニキスも、剣を抜く気は無かった。


「「最初はグー!ジャンケンポン!」」


 ケンはケンでも、二人が選んだ戦いはジャンケンだったのだ。だが、両者とも手はパーだった為、あいこになってしまった。

 更に「「あいこでしょ!」」と出すも、今度はグー同士となる。更に仕切り直すも、またまたチョキであいこになってしまった。

 ただジャンケンをしているだけなのに、辺りがピリピリとした空気に包まれる。


「テメェ、なかなか腕が立つみたいじゃねぇか」

「そっちこそ。三連あいこなんて滅多に見ないっての」


 そう言い、二人は右腕を覆う裾を上げる。そして、何度も「「あいこでしょ!しょ!しょっ!」」と唱えながら、何度もあいこを連発した。

 腕を振りすぎたせいか、地味に腕が痛んでくる。


「よし、そんじゃあコイツでケリ付けてやる!」

「あぁ、そろそろ終わりにしてやる!」


 タクマとオニキスは、あいこ合戦をやめ、改めて最初と同じ構えを取った。

 そして……


「「最初はグー!ジャンケンポン!」」


 二人が唱えながら手を出した瞬間、薄い布がひらりと浮くような少し強めの風が吹いた。

 しかし残念ながら、オニキスはグー、タクマはチョキ。よって、タクマは敗北してしまった。


「て訳で、親父、コイツは貰ってくぜ。釣りはいらねぇ」

「えっ、ちょっと!そんな訳には……」


 オニキスはタクマとのジャンケン勝負に勝った事を喜び、カウンターに1万ゼルン分の硬貨を置いて、ワインを持ち出して行った。

 その速すぎる結末に、タクマはただ唖然としていた。

 ……いや違う!確かにワインも大事だけど、オニキスには訊きたい事が山ほどあったの忘れてた!

 その事に気付いたタクマは、エコバッグを持ち、急いで酒屋を後にした。



【アコンダリア 中央噴水広場】

 タクマがそこに着いた時、オニキスも同時に足を止めた。


「……まだ何かあるのか?勝負は勝負だ、コイツは渡さんぞ」


 オニキスは、嫌味混じりでそう言い、背中を向けながらワインを見せびらかした。ワインの瓶は、昇り始めた月の明かりに照らされ、紫色に光る。

 腹が立つ。無性に腹が立つ。だが、ここで腹を立てても仕方がない。そう自分に言い聞かせて心を落ち着かせたタクマは、ゆっくりと「訊きたい事がある」と伝えた。


「何を訊きたい?俺はこう見えて忙しいから、一つだけなら答えてやる。だから30文字以内で質問しろ」

「お前、本当に人は殺した事ないんだよな?」


 タクマは顔を合わせようともしないオニキスの背に語りかける。するとオニキスは、その質問に対し「愚問だな」と答えた。


「俺はただ、強くなりたいから最強を狩るだけだ。弱いものいじめとか、人殺しとか、そんなクズみたいな真似をするのは俺の美学に反する」

「けど、お前は去年……」


 しかし、タクマが言おうとした瞬間、オニキスは背中を向けたまま、グルリと首だけを回転させ、タクマの方を睨んだ。


「質問は一つだけと言っただろ。それ以上は無駄だ」

「……」


 確かに質問は一つだけとの約束だった。タクマはその事を思い出し、素直に黙った。オニキスは、そんなタクマを見て、フンッと鼻で笑う。

 そして、ゆっくりと足を進める。が、1メートルくらい進んだ辺りで「あ、そうだ」と、何かを唐突に思い出したような声を出し、今度はちゃんとタクマの方を振り返った。


「……何?」

「チェイスって言う胡散臭いデブ、アイツ何か隠してるぜ」

「何か?何を隠してるって言うんだよ」

「その答えに辿り着くかどうかは、お前次第だ」


 オニキスはそう言い残し、全速力で闘技場に続く道を走り去っていく。モヤモヤを植え付けられたタクマは、とにかくとっ捕まえようと後をつけた。

 しかし、曲がり角を曲がった時には、オニキスの姿は消えていた。


「本当に、アイツは何をしたいんだろうか……」


 暗い路地を見て、タクマは呟く。するとその時『勝負ありぃぃぃぃ!またしてもシオン選手、逆転勝利!手に汗握る戦いお疲れ様〜!!』と、シオンの勝利を祝福する実況が闘技場から響いてきた。


「やっば、早く行かないと!」


 タクマはその実況を聞いて、真っ先に闘技場へ向かった。

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