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第110話 根性!ヤクソクとカクリツ

「酒を燃やして氷を溶かそうと言う魂胆だろうが、そうはさせないぞ」


 サレオスは、リュウヤの首元にワインの付いた剣を突きつけた。それも、ノコギリ状になっている面を向けられている。

 この状態では、刀を抜く事ができない。もし抜こう物なら、その瞬間に首を斬られてしまう。そのため、仕方なくリュウヤは両手を上げた。


「こりゃお手上げかなぁ……」

「降参かね?つまらない奴よ……」

「手は上げたが、降参なんて一言も言ってないぜ?」

「何?」

「料理は人を裏切らない。爺ちゃんの格言だ!ワチャァ!」


 リュウヤは膝を強く上げ、サレオスの右手を蹴り上げた。そして、怯んだ隙をつき、リュウヤは抜刀術でサレオスの腹部に攻撃を与えた。

 しかし、サレオスを守る鎧も、盾同様に硬く、折れた剣先からヒビが入ってしまった。だが、その代わりに、鎧に少しの傷が付く。


「貴様、なかなかやるようだな。だがっ!」

「はっ!このっ!」


 サレオスとリュウヤは、互いに素早く剣を振り合い、攻撃の機会を伺った。

 ガン!ガン!と、硬い武器同士がぶつかり合う音が鳴り響く。それと同時に、リュウヤの刀のヒビが酷くなっていく。


『おーっとぉ!防ぎ防がれの攻防戦が始まったぞぉ!この鍔迫り合い、一体どちらに勝利の女神が微笑むのかぁッ!!』

「勿論、我!」

「何を〜、そいつは渡さん!」


 リュウヤは自分が押されている状態であっても、気にする事なく自分なりにノリまくった。その結果、リュウヤが先に繰り出した刀が、サレオスの兜に当たる。この鍔迫り合いの勝利の女神は、リュウヤに微笑んだのである。

 そして、そのお陰か、サレオスの兜の一部が割れ、サレオスの片目が現れた。

 しかし、そこにあったのは人の顔ではなく、青白い幽霊のような顔だった。


「お前……顔色が……」

「見られたからには仕方がない。貴殿には死んでもらう!」


 サレオスがそう強く言った瞬間、リュウヤは想像もつかない冷気を帯びた風に吹かれ、近くの柱にぶつかってしまった。

 それと同じくして、刀も遠くへ飛ばされてしまった。しかも、地面に刺さった際、ポキリと嫌な音も鳴る。

 見た感じでは、もう既に鋭かった刀身は三分の1くらいにまで減ってしまっているように見えた。


「ワインをかけられたのは想定外だったが、今の冷気で種が発芽しなくなった以上、貴様には何も残らない」

「残念ながら、俺は何も残ってないからと言って諦めるほど、貧弱な心は持ち合わせてないんでぃ」

「……何を言いたい?」

「つまり、俺にはまだ逆境にあるチャンスを掴むチャンスがあるってんだい!てやんでい!」


 リュウヤは、タクマ達の友情の証が付けられた拳を前に出し、拳で戦う意志を見せた。それを見たサレオスは「成る程、その今にも折れそうな拳で足掻くか。笑わせてくれる」と、リュウヤの事を嘲笑した。

 そして、嘲笑した後、目を鋭くさせ、何も持たないリュウヤに斬りかかった。


「おっと、危っ、ヨイショー!」

「くそう、鬱陶しい……!」


 拳で戦う、と言うようなジェスチャーをしていたが、それは違う。リュウヤはただ、避ける為だけにあのポーズを取っていたのだ。それを見ていた観客達は、その動きを見て一瞬驚いた。

 しかし、体を逸らしたり、某グルグル回る踊りなど、パフォーマンス的な物を披露しながら、素早く繰り出されるサレオスの剣を避ける姿に心を打たれた観客は、こんな状況でも戦いにノリ続けるリュウヤに声援を送った。


『リュウヤ!リュウヤ!リュウヤ!リュウヤ!イェーーーーーイ!!』

『うおー!すごい!この状態でも尚、諦める事なくパフォーマンスを披露している!どちらが勝つか全く分からなくなったぞッ!』

「ふざけるでないぞ小僧」

「何をっ!俺は、大真面目、だぞ!」


 リュウヤは攻撃を避けつつ、充血するまで目を鋭くさせているサレオスに言った。

 そして、サレオスが次の一撃をお見舞いする際に隙が生じる事を見抜き、リュウヤは思いっきり拳を叩き込んだ。

 

「させん!」

「どぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!」


 しかし、リュウヤの渾身の一撃は、盾に防がれてしまった。そして、ゴキっと痛々しい音が鳴った。骨が折れてしまったのだ。

 サレオスはその音を聴き、(愚かだな)と心の中で呟きながら鋭くなった目を緩めた。だが、その時だった。

 ピシピシと、何かが割れていくような音がリュウヤとサレオスが居る空間に響いた。骨の折れる音ではない。

 

「愚か。フンッ!」


 盾に防がれた状態で硬直したリュウヤに、サレオスはノコギリ状の刃を腰に当てた。刃はリュウヤの着ているシャツごとリュウヤの腹に入り、そのままゴリッとリュウヤの腰の肉を削った。

 だが、リュウヤは腰の肉を削がれても、その痛みを気にせず、もう一度盾に拳を入れた。


「俺と同じ雪国育ちなら知ってるだろ?冷気のお陰で痛みが一時的に引く事。そして、マイナスの世界だと液体は、それもアルコールは簡単に凍るって事を!」

「なっ!まさかお前……」

「あぁ。俺は初めっから燃やすつもりなんて無かった。テメェの硬い盾をぶっ壊す為にあえて斬らせたんだぜ!」


 そう言った瞬間、盾は粉々に粉砕された。


「貴様……よくも私をハメたな……」

「いいか?戦いってのはよぉ、ノリの良い方が勝つんだ!」


 そう言うとリュウヤは、割れた兜の中を目掛けて拳を叩き込んだ。だが、そう簡単に兜が壊れる事はなかった。

 サレオスは、盾を捨て、空いた左手でリュウヤの拳を押し返した。そして、すぐにリュウヤの腹にノコギリ状の刃をお見舞いさせた。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「まだ終わらせぬ!食らえ!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 一撃、また一撃とリュウヤの体に刃が入っていく。

 リュウヤはその攻撃による出血で、だんだんと体力の限界が近づいていた。しかし、拳に描かれた紋章を見て、底力を上げる。

 そして、その力でサレオスをタックルで押し返し、刀のもとへ走った。


「逃さぬ!クロコの餌食にしてくれる!」

「させねぇよ……はぁ、はぁ……!必ず勝つって……無事に帰るって……約束したからよぉ!」


 リュウヤは刀を地面から引き抜き、逆刃でサレオスの剣を防いだ。

 だが、もうボロボロになっていた刀は、サレオスの剣がぶつかる度に、ボロボロと崩れかけていた。

 

「貴様、何故こんな状態でも諦めないのだね?」

「知ってるか?俺の世界だと、洗剤の表記とかは100%は使わないんだぜ?」

「センザイ?ついに気でも狂ったか」

「だから、皆こぞって99.9%って言うんだ。」

「フンッ、ならば我が勝率は99.9だな」


 サレオスはそう言いながら、リュウヤを押していった。その度に、体がかじかむような冷気がリュウヤの体を襲う。

 しかし、それでもリュウヤは諦める事なく、サレオスの剣を防ぎ続けた。


「でも、それは0.1の確率だったとしても、俺が勝つ事ができるって事だよな?」

「無駄だ。諦めろ!はぁ!」

「俺はその0.1がある限り、絶対に諦めねぇんだこのタコ助がぁ!」


 そう叫び、リュウヤはついに防ぎ続けていたばかりのサレオスの剣を避けた。その瞬間、サレオスの目の前からリュウヤの姿がなくなった。


「ど、何処に行った……!?」

「〈剣崎流・隠し包丁の舞〉!」


 気がつくと、リュウヤはサレオスの後ろに立っていた。そして、そこでゆっくりと冷静な声でそう言い、刀を鞘に入れた。

 するとその瞬間、サレオスは鎧の中から血を吐き出し、ゆっくりと倒れていった。


「貴様……いつ……」

「俺の残りの力を使って、鎧の隙間を斬らせてもらった。死ぬ間際の知恵って、思った以上に役立つんだぜ?」

「こんなガキ一人に……無念……!」

『勝負ありぃぃぃぃぃ!この勝負、リュウヤ選手の逆転大勝利です!』


 実況がそう言った時、辺りが歓声に包まれた。だが、リュウヤはその歓声に応える事なく、凍りついた地面に寝転がった。

 すると、危機を察知した救護班らしき人物が、リュウヤの横に担架を用意している。

 しかし、リュウヤはそんな状況を気にする事なく、のんびりと陽気に午後の空を眺めていた。

 

「ハッハハ、痛いな。耐えらんねぇわ。よく耐えられたもんだなコレ。ハハハ」


 リュウヤは、怪我をしている状態でもなお、呑気に笑いながら運ばれていったのだった。

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