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第109話 聖騎士!一文字と片手の剣

『それでは、これより第5回戦を開始させていただきます!』

「そろそろか。うっし、ブンブンバンバン、気張っていくとするか!」


 リュウヤはタクマからの差し入れであるクロワッサンを飲み込み、右肩と左肩を回して筋肉をほぐした。

 それにしても、今日はどこか肌寒い。そんな事を思いながら、リュウヤは戦場に繋がる扉が開くのを待った。


「確か、相手はサレオスだったな。昨日の化け蟹みたいな怪獣が来ませんように」


 そう祈ると同時に、ゴゴゴっと戦場への扉が開いた。そこでリュウヤは、もう一度右肩を回した。全く新しい相手と戦える。その事への喜びが、無意識に肩を動かしたのだろう。


『まずは西コーナー!昨日の化け蟹を打ち倒し、まさかまさかでスシにすると言うゴーカイ極まりない秘境の料理人!リュウヤ選手だぁぁぁぁぁ!』

「リュウヤさん、回復したみたいで良かったです」

「アイツ、転んでもタダじゃ起きねぇタチだからな。滅多な事がない限りすぐケロっと復活するよ」


 タクマは片手にクロワッサンを持ち、炭酸飲料を飲む。そう、リュウヤの事が心配で心配で、何故かタクマの方が緊張しているのだ。まさに、リュウヤとタクマは二人で一人。

 とまぁ、そんな事は置いといて、歓声を上げる観客に手を振るリュウヤの前に、某狩ゲーの武器のような片手剣を持った、帝国兵のような人物が現れた。


『ログシアナ帝国からやって参りました東コーナー!氷の国ならではの力で、相手を凍らせる!サレオス選手の入場です!』

「我が名はサレオス。貴殿には我が愛刀・クロコ・カイヲニマスの錆と消えてもらおう」

「生憎だけど、俺の血だけはマズいから、食わせるなら他当たった方がいいぜ」


 リュウヤは、これから始まる面白そうな戦いに期待で胸を膨らませながら、腰の刀を引き抜いた。

 その様子を見たサレオスも、自慢の剣を構えた。短剣三本分くらいの大きさをした、メジャーな勇者の剣のような形をしている。だが、今向けられている方の刃は鋭いが、その後ろ側には、ワニの歯のように鋭くなった物が付いたノコギリ状になっていた。

 そして、両者とも武器を構え、ゆっくりと様子を伺った。まさに、見合って見合って……と言う状態。


「行くぜ」

「望む所」


 サレオスがそう一言呟いた瞬間、戦闘開始のゴングが鳴り響いた。その音を聞いた瞬間、リュウヤは走り出した。更に、サレオスも地面を蹴って走り出す。

 

「はぁっ!」

「させぬ、カイヲニマス!」


 サレオスは、盾の名前を叫びながら、リュウヤの刀を防いだ。

 その瞬間、刀に謎の衝撃が走った。まるで、絶対に斬ることのできない鉄を斬ろうとした時のような衝撃が走った。


「くそっ!硬い……」

「我が装備はダイヤが如し。食らえ!」

「くっ!隙が見当たらない!」


 リュウヤは、サレオスの繰り出す攻撃を刀で防いだ。片手に盾を持っているにしては、素早く繰り出される動き。避けられない。防ぐのがやっと。

 だが、防ぐばかりではどうにもならない。そう考えたリュウヤは意地と気合でサレオスの剣を弾き返した。

 そして、弾き返した際の反動を利用し、サレオスの腹部へ、刀を槍のような要領で突き出した。しかし、素早く盾で防御されてしまい、更には刀の先が折れてしまった。


「フッ。無謀だな」

「くそっ!こうなれば奥の手を使うしか……」


 リュウヤは、わざとサレオスの剣を右肩に食らいながら、地面に種を落とした。

 遠距離からだとしても、この地面が植木鉢の代わりとなるのであれば、どうにかなる。そして、そこから蔓などの長く巻きつくような植物を生み出せば、切られない限りは隙ができる。

 正攻法で行ったところで、あの速い攻撃には敵わない。第一、厄介な盾に剣先を折られてしまった以上、慎重に行かねばなるまい。リュウヤは、即興で考えたプランBの実行に出ようとした。


「痛いけど……一か八か!」

「フッ」

「頼む!《ラピッド》!」


 リュウヤは、自分自身にこの大きいフィールドを「植木鉢である」と言い聞かせ、地面に手をついた。その瞬間、フィールドが黄緑色の光に包まれ、落とした種が発芽し出した。


「その手は使わせぬ。《フリズ》!」


 サレオスは、自分の足元にフリズを放ち、発芽し出した種ごと、地面を凍らせた。

 それにより、素早くサレオスに絡みつこうとしていた蔓は、サレオスの足元で、小さな芝生のような物を生成して動かなくなってしまった。


「貴殿の能力はもう見た」

「そうか、マイナス気温の世界で育つ植物は短い雑草くらいしかない……」

「他に隠し芸はないのかね?」

「くっ……」


 貴様の行動はたかが知れている。そう言わんばかりに、サレオスは片手剣の先をリュウヤに向ける。

 その間、リュウヤは考えた。種を使えないのであれば、蔓を使った拘束は出来ない。かと言って剣崎流の見様見真似的な剣技を使ったとしても、ダイヤのように硬い盾に弾かれては意味がない。

 いやまだだ。諦めてたまるか。そう思った瞬間、リュウヤの頭の中に勝利の法則的何かが、電流のようにビビビッと入ってきた。

 

「コイツは皆の為に使うつもりだったが、仕方ない。」


 そう言うとリュウヤは、一旦刀をしまい、小さな鞄から、少し量の減ったワインの瓶とライターを取り出した。それを見て、サレオスは「アホめ」と呟き、ニヤリと笑った。

 

「誰がアホだって?」

「何度も言わせるな。その組み合わせの作戦は猿でもわかる!」


 サレオスは、片手剣の持ち方を直し、地面を蹴って飛びかかってきた。

 その行動をしている間、リュウヤは親指でコルクを抜こうとした。もう既に一回使われている物を持ってきたから、親指の力でも開く筈。

 だが、ポン!と音が鳴った瞬間、サレオスはスパッと瓶を斬った。


「ぐっ!滲みる……」


 紫色の液体が飛び散り、リュウヤの体、サレオスの鎧、盾、剣、そして地面に付いた。

 更に、落下した瓶が、バリンと大きな音を立てながら割れた。

 そして、斬られた瓶で掌を切ってしまったリュウヤの傷口に、ワインが滲みる。


「フッ、崖っ淵だな」

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