表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/307

第103話 鉄球!覚悟の拳とクノイチの覚悟

「おうタクマ、お疲れちゃん」

「いい勝負じゃったぞ」

「ありがと。イテテ……」


 タクマは怪我をした肩を抑える。それを見て、リュウヤは「治療室行ったのか?」と訊く。

 それに対し、タクマは「ノエルの事が心配だから……」と行かないワケを話した。


「確かに、次の対戦相手はフール。気をつけるべき相手でござるからな」

「おタツの式紙の加護があるとはいえ、危険な事に変わりはないからのぅ」


 そう話している間に、第二回戦の実況が始まった。


『まずは西コーナー!第一予選にて大暴れパフォーマンスを繰り広げたスーパーアイドル!今回も激しく暴れてくれるのでしょうか!ノエちん選手の入場ですッ!』

「豚共〜、応援宜しくニャン!」

「……ねぇ、ノエちゃん昨日よりあざと可愛くなってね?」

「猫ってのは、あざと可愛いくらいが丁度いいでありんすよ」


 おタツはお淑やかに椅子へ腰掛け、リュウヤの耳を引っ張る。多分、ノエルの可愛さに嫉妬しているのだろう。多分2、3年後くらいには尻に敷かれてそうだ。

 そう思っていると、東コーナーから例のアイツ、フールが現れた。


『対するは東コーナー!トリッキーな動きで敵を惑わし、観客に笑いを届ける謎のピエロ!フール・マワススキー!』

「彼が噂のフール……」


 ノエルは常に変なダンスをしている彼を観察しながら言う。

 しかし、何処をどう見ても、ただ物騒な武器を持っているだけの普通のピエロにしか見えない。いや、そもそもモーニングスターを持っているピエロと言う時点で色々おかしいが、とてつもなく怪しい雰囲気は感じられなかった。

 それにしても、何も喋らないのが怖く感じる。さっさと戦いを済ましてサイリョー不審負けの詳細を掴まないと。


「負けませんよ、フールさん」

「……」


 ノエルは杖を取り出し、フールに向けて言い放った。だが、フールは先ほどと変わらず、変な動きをするだけで何も返事をしない。

 何を考えているのか全く分からないが、これが演技的なものである事を信じたい。

 とその瞬間、ゴングが鳴ったと同時に、フールはモーニングスターの鉄球をノエルに向けて飛ばしてきた。


「危なっ!《フリズ》!」


 ノエルはその攻撃をすぐに避け、フールの足元を凍らせた。主な攻撃は鉄球によるもの。それつまり、鉄球が遠くに飛んでいる距離の分だけ、隙が生じる。

 その勘は当たり、ノエルの放ったフリズは、フールの足に命中した。

 すると、フールは地面に拘束された足を見て大袈裟に驚き、まるでパントマイムをしているかのように、動かない足を何度も上げようとした。その様子を見て、観客は笑い声を上げる。

 一体何が面白いのか分からないが、パントマイムの演技上、4回くらい動けないフリをした後は、大体足を動かして大股に歩くのがメジャーだ。

 なんとなくそう感じたノエルは、モーニングスターの鉄球の方を見る。

 すると、その勘はまた当たり、鉄球がこちらに飛んできた。


「杖じゃ防げない。なら!」


 ノエルは地面に杖を突き刺し、拳に力を入れた。スゥーっと大きく息を吸い、飛んでくる鉄球への恐怖を極限まで薄めた。

 そして、直撃寸前の所で、ノエルは拳を銃弾のように撃ち放った。


「どぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ!!」


 すると、鉄球はそのままフールのもとへと飛んで行き、フールを攻撃した。

 自分の武器に殴られた事で、フールは地面に武器を置いたまま、奥の柱に打ち付けられてしまった。


「どんなもんですか!」

「……」


 しかし、フールは特に何も言うことはなく、頬を何度も摩った。痛いとでも言っているのだろうか、と言うより、何故あんな攻撃を顔面に受けているのに倒れないのだろうか。

 だが、考える暇も与えず、フールはすぐに次の攻撃を仕掛けてきた。

 それだけでは終わらず、まるで鞭のようにしなり、モーニングスターがノエルを打った。


「いやぁぁぁっ!」


 痛々しい悲鳴と共に、ノエルは地面にめり込んでしまう。そして、フールはそこに何度もモーニングスターを叩きつけ、倒れたノエルに追い討ちを掛けた。

 そして、どっちが勝ってもいいと思っている観客達が、その様子を見て歓声を上げる。だが、その事に黙っていなかったノエちんファンは、その歓声に負けないくらいの声量で「ノエちーーーーん!」「まけるなぁぁぁぁぁぁ!!」と声援を送った。

 その頃、ノエルは腕を盾のようにして、必死で鉄球の猛攻を耐えていた。だが、ひしひしと腕の関節ではない部分が痛み始めてきた。更に、刺が刺さった場所から血が流れる。

 痛い。けど、ここからどうにかして攻撃を与えれば、逆転勝ちする事が出来るかもしれない。諦めちゃダメ。例えこの可愛い骨が折れようと、挫けてはダメ。

 そう心に言い聞かせていた時、フールは鉄球を天高くまで振り上げた。そして、それはノエルのいる場所に向けて、隕石が如く降り注いできた。

 しかし、ノエルはその状態でも諦めず、寝転んだ状態で拳を放つ。


「どっせぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」


 すると、その鉄球は、再び天へと上がった。

 そしてノエルは、すぐさま突き刺した杖を抜き取り、急いで《サンダー》と唱えた。


「……」


 ゴロゴロ、ドーン!と会場の真ん中、フールが鉄球を天に上げた所から、音速を超えて雷が落下した。

 そしてそのまま、フールは演技する暇もなく、黒くなった体と骨だけになった姿を何度もノエルに見せた。

 

「よし!後はこのまま突っ切ります!」


 そう言うとノエルは、拳に力を込めながら、助走を付けてビクビクと痙攣しているフール目掛けて走った。

 走る度に、少し茶色く汚れた白いアイドル衣装から、砂埃が落ちる。それと同時に、変な所から出てきた血も落ちる。

 その間も、フールは痙攣して動かない。だが、まだゴングが鳴らないと言う事は勝ってはいない。

 その予想は正しく、痙攣していた筈のフールは体を起こした。拳を打ち込むなら今しかない!


「往生してくださいっ!!」


 ノエルは叫び、飛び上がった。後はこのままフールのふざけた顔面に一撃を与えてKOするのみ。

 しかしその時、体が空中で止まってしまった。動かない。地面に落ちもしない。不自然に空中で硬直してしまっている。まるで体が石になった状態で空に浮いているような状態だ。

 すると、フールはついに開けようとしなかった口を開いた。


「……タレサルユ」

「えっ?」


 謎の呪文のような言葉を発した瞬間、ノエルの体に謎の圧力が掛かる。

 まるで強い風のような、威力のある何かが全身にぶつかる。そして、ノエルはタクマ達が座っている所に飛んで行った。


「危ない!!」

「タツっ!」

「メアッ!」


 タクマ達は咄嗟に動き、リュウヤはおタツを、タクマはメアを庇うように動いた。

 そして、メアはすぐにタクマを投げ飛ばし、ノエルのもとに駆け寄った。


「ノエル!おい!しっかりするのじゃ!」

「……そうだ!ノエルちゃん!式紙は!式紙はどうしたでありんす!」


 おタツもリュウヤを払い飛ばし、ノエルに訊いた。その間、無情にもノエルの敗北を知らせる実況が、会場中に響き渡った。

 『勝者はフール選手に決まりましたぁぁぁぁ!!』と。仕事上、やらなければならないから仕方ないが、何故だかタクマには腹が立った。まるで自分の仲間を馬鹿にされている気がして、たまらなかったのだ。

 だが、仕方がない。そう割り切り、タクマは唇を噛む。


「はぁ……負けちゃい……ましたね……」

「ノエちゃん、タツから貰ったアレ、どうした?」

「アレなら何か、分かる筈でありんす!」


 しかし、ノエルは式紙を取り出す事なく、笑顔を見せ、気絶してしまった。

 そして、タクマが率先してノエルを治療室へ運ぼうとしていたその時、メアは「皆……ごめん!」と謝り出した。


「な、何だよ急に。」

「実は……妾……」


 何かを伝えようとしたいが、なかなか言えない様子を見て、リュウヤはタクマの代わりに「何か、大事な事なのか?」と訊いた。

 すると、メアは無言でスカートのポケットから、紙のような物を出した。

 それを見て、おタツは驚く。


「し、式紙でありんす……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ