転生少女、と、猫の本。
開場して。
目の前を通る人は多いけどなかなか手にとってくれない。
「よろしかったら手にとって見ていってくださーい」
そう声をかけるけど中々で。
「大丈夫。こんなものだよ。大きいサークルの所じゃないし、ほんと目に留まった人に読んで貰えたら嬉しいな、そんな感じで来てるから。実際10冊も出れば良い方だから」
うん。
周りも両隣も小説のサークル。ここはオリジナルの小説の島っぽい。
「ひょっとして、猫の一杯な島だったらもうちょっと見てもらえたっぽい?」
「どうだろねー。あれはあれで競争率高いしそもそもあっちだったら抽選落ちしてたかもだし」
そっか。ここが一番通り易かった、のか。
確か、創作ジャンル。それも2次創作では無い所。コミケでは本流ではないってこと?
まあ人でぎゅうぎゅうになってないだけましか。
さっき一人で周辺を見て回ったけど、どうやら空いてるのはこの周辺だけらしい。
人気のサークルが並ぶ場所は歩く隙間もないくらいの人。うっかり巻き込まれて進行方向も自由にならず踵も踏まれ泣きそうになって戻ってきた。
もういい。今日はずっとここに居る。コミケ怖い。
……ほんとびっくりだよねー。ひとがこんなに多くって。あっちの天井雲ができてなかった?
うー。気がつかなかった。っていうかそれどころじゃなかったよー。
ほんと、コミケってふにゃぁ。
「でもほんとこの写真の子たち、かわいいなぁ」
「でしょでしょー。自信作なんだ。可愛く撮れたなって」
可愛い猫がいっぱいの本。題名は「ねこねこにゃおん」サークル名にもなっている。
黒猫の写真もあって。
クロコ、どうしてるかな……。
……大丈夫、かな……。
ああ、戻りたい。アリシアの世界に戻りたい。
この世界が嫌だというわけではない。こっちはこっちでずっと普通に生きてきた大切な世界。
死んじゃったと思ってたから帰ってこれた事自体は嬉しいのだけど。
それでも。
アリシアとして生きた15年を、無かったことにしたくない。今のわたしはやっぱりアリシアなのだ。
だから。
帰りたい。
「この本、一冊くださいな」
え? ともさかさん?
目の前に、ともさかさん。間違いない、よ、ね?




