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亜紀、と、悠。

 この世界に着いてから亜里沙を探す為なんとか電車に乗ってここ名古屋までやってきた。半径10キロ圏内ぐらいに存在すればたぶん感知できるのでは、と、割と地方の都市を通る路線を選びまずここまでたどり着いたのだけれど、ここで路銀が尽きた。

 静岡とか浜松、豊橋、岡崎、この辺りが怪しいとも思っていたんだけど何も無く。


 とりあえず名古屋にはアテもあるし、と、ここで一旦泊まることに。


 デルタの開店直後に突撃し、無事仕事をゲットしたのだけれど……。




 名前は亜紀の方を名乗る。

 自分の身体、本来の性別が女性であるというのは姫には隠すことが出来なかった。これ、は、どの世界でも。

 大概リードされるので、それであれば、と、包み隠さず話すことが仲良くなるコツでもあったのだ。


 悠の姿の方ではこういう仕事はまず無理。あの幼すぎる外見では表のバイトでさえファーストフード以外は難しい。しかしそういう仕事はこっそり働くには向いてないしな、と。とにかく夜の繁華街を歩くだけでさえ、補導されそうになるくらいなのだから。


 世界を渡るにあたって秋の方をメインに出現させているのもそういう無駄なトラブルを回避する為であったし、また、体力的にも秋の方が便利であったからであった。まあ、すっかり悠は奥にいる方におさまっている。奥で色々ぶつぶつ考えて。時々漏れ聞こえてくる思考はおはなしのタネだったりするけれど、それを就寝前に入れ替わるときに纏めてノートに書いている。持ち物をインナースペースに収納する方法を編み出してから身の回りの必需品はそこに蓄えていたりするのだが、其処にはここ何年ものノートが溜まっていた。いつか製本して自分の本つくるんだ、と、それだけは前向きに。


 最初に帰れない事がわかったときにはかなり取り乱し泣き叫んでいたのにな、と、今更ながら考える。悠自身も元世界に残してきてしまった物と、ある意味自業自得であるこの現実とをなんとか自身の中で折り合いをつけたようで、今では従来のお気楽さを前面に出してはいるが、それでも、彼女の精神はこれをキッカケに変わったな、と、秋は想う。それまでの純粋な子供の様な心が、一気に成熟、とは違う、諦観になったようで。悲しいな。そう、思ったもの、だ。




 そして。


 こうして色々なお客さんを前にポーカーフェイスを気取り、男装の麗人ふうに装いカウンターに立つ。


 この世界だけで無くもう何度も経験してきた仕事ではあるのだけれど、今日はちょっと事情が違った。




「どうして貴方がここに居るんです? ラインハルトさん」


 亜紀の声に反応し、カウンターに座るその男はゆっくりと顔をあげた。


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