東京上空。
とりあえず今日のところは寮に戻ることになって、わたしはとぼとぼと歩いていた。
晩御飯は両親といっしょに食べたのに……。うう。味を覚えてない。
……ご両親、ずっと心配してたわよ。
うう、だって……。
……うだうだ悩まないの! 言っちゃった言葉は口の中には戻らないの。大丈夫よ。あの人達、そんなに精神やわじゃ、ない、からさ。
そっかな。すん……。
……ちょっと止まって。アリシア。 前方に誰か、いる。
もう暗くなった夜道の、ちょっと前方に、人影。
誰、か、な。
ちょっと不気味。
また真皇真理教の人だったら、いやだなぁ。
そう思いつつ立ち止まると、前方の人影はぬっとこちらに近づいてきた。
物々しい鎧、兜はつけてないから顔はわかる、けど。
え?
「ラインハルト、さま? どうかなさったの、ですか?」
ラインハルトさま、だった。表情は、キツイ。
この人、サーラの事呼び捨てだし、普通の護衛騎士さまとはちょっと違うのかなぁとかおもってたけど、あまり興味がなかったのでそれ以上事情とか聞いたことなかった、けど。
う、怖い顔して睨んでる。やだ……。
「お前、は、ジャマ、だ」
え? なに……、それ……。
「この世界から、キエル、ト、イイ」
……終末プログラムに憑かれたね、こいつ。
どうしよう、このひと、すごく強いのに……。
ラインハルトさまが真っ赤なオーラに包まれる。影が、龍のように、も、見える、か。
膨れ上がったオーラとともに、上空に浮かび上がると、こちらに剣を向け。
「タタカエ、マオウ、オマエヲ、タオス」
ああ、もう。しょうがない。
マジカルレイヤー!
わたしは自分のインナースペースを解放し、魔法少女のレイヤーに切り替える。
真っ白な光に包まれて、剣と盾を持った姿。額には日輪の輝きがキラリ。
「ラインハルト様! バグなんかに飲まれないで!」
大声で叫んだ。
☆☆☆
二つの光の奔流が夜空に浮かぶ。
光の剣が交差し、まばゆい光が降り注ぐその姿は、街中で大騒ぎになった。
そして、そこに、もう一つの光が交わろうとしていた。
☆☆☆
グググ、ギギガ……
ラインハルト様、もう完全に正気失くしてる。
どうしよう。
剣を受けるだけでは、もう、どうしようもない。
周りのエネルギー値がどんどん上がって行くのがわかる。このままじゃこの空間が維持出来ない。
ここで空間が弾けたら……。
……この間の爆発どころじゃないかな。
うん。城下丸ごと消えちゃう。どうしよう……。
「ほんと、危なっかしいな。アリシアは」
「あき、さん!」
あきさんがわたしとラインハルト様の間に割り込んだ。
ニケあきさん。うん。かっこいい、な。
「どうしよう」
「もうこのエネルギー値だと狭間の世界にディメンション変移するのも危険、か。変移したとたん、弾けて終わる」
うきゅう。
もう、かなり危険になってる。のか。
ほんとふにゃぁ、だ。
「道を、開けるしか、ない、か」
道?
「お前、ダンバインって知ってる?」
「あ、知ってる。アニメの?」
「あれで東京上空って話があっただろ?」
「ガラリアとショウザマだっけ? オーラロード通っての東京上空?」
しっかりは覚えてない。だけど、なんとなくはイメージしてる。
「あんな感じでこの空間に道を作ってエネルギーを逃すしかない、か」
え? そんなこと……。
できるの? って思う間も無く、ニケあきさんはラインハルト様の身体を貫く。
わたしは思わず目を背けて。
ごめん。あきさん。ラインハルト様。
わたしは、卑怯、だ。
この世界における責任も、人の命も、自分の手を汚す覚悟もない。ああ。ダメ。
「ごめん。あきさん……」
「気にするな。お前は、いいんだよ。それで……」
あきさんがわたしを守るように抱きしめる。
ラインハルト様だった物は、真っ赤に膨らみ。
あきさんは片手に持った三又の槍を空に掲げ、たぶん、空間に小さな穴を開けた。
そして、光の奔流が、わたしたちの周りの空間が、物凄い勢いでその穴に吸い込まれる。
わたしはそこで意識を失った。




