転生少女、騎士様と出会う。
「ちょっと待て、そこの」
え?
「そこのお前、それ以上奥に行くな。危ないぞ」
びっくりして振り返る。
さっきとおんなじ。こっちなんて見ていないような感じの護衛騎士様。なのに。
「あの……」
意味がわからない。どう話しかければ良いのかも迷って、立ち止まったまま少し固まってしまった。
「くそ、面倒くさい。いいからとっとと戻れ。巻き込まれたいのか」
何これこの人口が悪い。それにここで一体何があるっていうんだろう? 魔物だってこんな所には入り込まない筈。
「わたしはお弁当を……」
食べに来ただけ。そう言おうと思ったのだけど最後まで言えなかった。
空間が、歪む。
「ちっ。始まっちまいやがった……。ま、あれから五百年か。よくもったほうか」
羽音? じゃない? ブーンと耳障りな音が鳴り響き、空が破れていく。平衡感覚がおかしくなってわたしは立っていられなくなった。
地震? 違う。でも、おかしい。
その場にしゃがみ込んだまま、それでもなぜか恐怖は無かった。おかしい?
護衛騎士様がのそっと立ち上がってこちらに来る。
「お前、意外と肝っ玉大きいのか? それとも理解を超えて理性が飛んだか?」
なんか失礼な事を言いながら近づいて来る騎士様。綺麗な顔なのに残念だ。
「なんなんですか……これ」
あ、意外と冷静な声が出た。
うん。
「虫、だ。世界を食い潰す悪い虫」
なに、それ……
「まぁ。なんとかするさ」
けだるそうな表情を浮かべ、騎士様は手をかざした。
剣、は、握らないのかな? そんな事を思いながらわたしはただただ見ているだけだったのだけれど。
騎士様はそれから素早く手を振り回し……ているようにしかわたしには見えなかったのだけどなんなんだろう。何かを捕まえて握りつぶした。
「まぁ、こんなものか。まだ生まれたてならな」
歪みは消え、羽音もしなくなった。
元に戻った?
「今日見たことは誰にも言うな」
騎士様はそう言うと、さっと振り返り館内に戻って行った。
わたしは呆然と見送るしかできなかった。