転生少女、と、魔王の境界。
あきの身体がナナコによって強制的に上書きされていく。
羽は、白く、天使の羽に。
真っ白なキトン。ヨロイの胸当て。
そして、栗毛のソバージュに幼さの残る顔。
……あたしなら、あの魔石のプログラムを止めることができるかもしれない。
……もともと、あれ、は、あたしと世界を繋ぐもの。あたしならあれを上書きできる、筈!
任せるよ。もう。アリシア倒してもこの惨状は終わりそうにないしな。
……ありが、とう。あき。
ナナコは身体のコントロールを奪うと、そのまま両手を翳した。
両手の掌にフィールドを形成すると、そのまま魔王の胸に突き出す。
魔王の表面、50センチほどでぶつかって止まる。
そこ、が、魔王との境界だった。
二人の周囲がエネルギーの渦の中心になり、周りから隔離される。
「瑠……璃……。る……り……?」
アリシアの声。掠れているけれど、確かに、そう、聞こえた。
ナナコが少しずつアリシアの境界を侵食しはじめた。
もう少し、もう少し、で、届く!
そう、全身の気力を振り絞り、手を伸ばす。
「ああ、瑠璃、ちゃん」
声が聞こえる。そう。間違いない!
☆☆☆
わたしの目の前に、瑠璃ちゃんが、いた。
今のサーラの姿じゃない。
昔の、前世の、高校生の瑠璃。
綺麗な、可愛い瑠璃。
ああ。
わたしがはじめて瑠璃を見たのは、中学に上がったばかりの頃。
入学祝いに買ってもらった小さいデジカメを持って校庭で部活の風景を撮っていた時。
バレー部のコートで球拾いをしている同級生。それが瑠璃、だった。
まだクラスのみんなの顔と名前が一致しなかったわたしは、瑠璃がクラスメイトだとも気がつかず、ひたすらそのがんばる姿を被写体にして。
ぽーん、とボールがわたしの足元まで飛んできた時、
「ねー。ボール取ってくれない?」
と。瑠璃。
うー。拾って投げてあげてもいいけどどこに飛んでいくかわかんないよおとか思いながらそれでも。
ひょっとしゃがんでボールを掴むと、えいやっとなんとか投げて。
「ありがとー」
そう、笑顔で手を振る瑠璃は、キラキラしていた。
その後。特に特別仲良くなることはなかったんだけれど。
いつしか、家庭で何かあったのか、荒んでいく様子が見えて。
その日はわたしは音楽のテストの前に放課後一人で歌の練習をしていた。
歌うのは好きだったのだけど、極度のあがり症でどうしても人前で上手く歌えなくて。
あ、ごめん、じゃましちゃった?
と。
彼女は現れた。
あは、ごめん。うるさかった?
と、わたしは返し。
なんだか恥ずかしくて。
でも。
ねえ。良かったら一緒に帰らない?
そう、きりだしていた。
瑠璃と、友達に、なりたかった。




