転生少女、母と魔力の話。
「ねえ母さん、どうしよう」
「そうねぇ。母さんも忘れてたわ。ごめんね」
あっけらかんとてへぺろが似合う笑顔でそう謝られた。
別にお母さんが悪いわけじゃ無いよ、わたしが迂闊だったのよと焦るわたしに、
「あなたが勤めに出るときには必要だと思って、ちゃんとこれ買っておいたから」
そう言いながら黒い石みたいなのを渡してくれた。
たぶん……これは魔石だ……。きっと高価なものに違いない。
そう、ほんと、お母さん……
「ごめんね。高かったでしょ……」
「いつかは必要になると思って、ずっと貯金してたからね。大丈夫」
そういう母にわたしは抱きついて泣いた。
ごめん。お母さん。わたしが魔力ゼロなばっかりに苦労かけてたね……
転生者だから、とか、異世界人だから、ではない。
そりゃぁ転生者なんてありふれて、と言っても、石を投げれば当たるような人数が
いるわけでもない。
それでも、過去に存在した転生者はちゃんと魔力があったし、それを使って活躍もしたりしてた。
歴史に名を残した人も少なくない。
ほんと、異世界人だから魔力が無いのではないのだ。
この世界の住人は多かれ少なかれ魔力を持ち、全くのゼロというのは有り得ない、ということになっている。
魔力の波紋の象をもってその人物を特定したりもしているくらい、だ。
おそらく、その点ではわたしは非常に稀な存在なんだろう。
国民全員子供の頃に魔力値を測る、とか、そんなラノベのような設定はこの国には無かったのが救い。
もし見つかってたらもしかしたら学者さんの研究対象になってたかもしれない。
両親だけは流石に気がついたみたいだったけど、それを他の人にはバレないよう、ずっといろいろ工夫して庇ってくれた。
日常に困るくらい魔力が弱い、程度の人なら存在したし、そういう人は前世だと身体障がい者みたいな扱いで。
そういう人用に魔力増幅器や魔力ライターみたいな物も存在し、そういう機能のある魔石はちょっとお高かったのだ。
負い目を感じるくらいのことならまだ良かった。
わたしを取り上げられるのだけは、嫌だった。
母は、そう、わたしがまだ小さい頃、この、魔力ゼロを自覚して詰めよったとき、そう、嗚咽を堪えながら、言った。