ナナコ、と、サーラ。
公主館はバタバタと慌ただしく人が行き来していた。
リーザが見える。ああ、彼女は無事戻ったのね。良かった。
って、あたしの思考、アリシア色に染まってきてる?
むかしのあたしなら、こんな人間一人の事、どうとも思わなかっただろう。
やっぱり侵食されてるな。アリシアに。
そう思うのは、何故か、嬉しくて心が暖かくなった。
ゲートは簡単に素通り出来た。
それはそうか。アリシアで登録されている魔力紋はクロコのものだし。
際奥の間の扉を開ける。
これくらいは何とか心の力で動かせた。
「クロコちゃん!」
そこにはサーラが目を真っ赤にして立っていた。
泣き腫らしていたのだろう。サーラは涙声を少し笑みに置き換えたような声で。
「クロコちゃん、じゃない、ナナコさんね。無事だったのね」
そう、優しく言って。
「敵の動向は? 調べさせてたんでしょ?」
単刀直入に、聞く。
声帯を動かすのなんか久しぶり、それも猫なんて。
「張り付いてる者たちからの連絡はまだ無いですが……。攫われた先には救出のために騎士団一個中隊を差し向けました。ああ、じれったい……。わたくしも行きたいと思ったのですけど……」
取り敢えず、は、打てる手はそこまで、か。
流石にここで大預言者を危険な目に合わせる選択肢は、ないな。騎士団も反対する訳だ。
「わたくし、貴女と一度しっかりとお話ししたいと思っていました」
「あたしも、だ。気になる事もあるし伝えたい事も」
ある、そう言いかけた、その時。
ドン!
世界が揺れているのかと、思った。
大きな音とともに、こんな建物際奥の場所まで、揺れた。




