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転生少女、逃げる。

 

 無事に女神像も手に入れることが出来たしあとは湖観光でもして帰りますかねー。


 そう、お気楽に考えてたわたしはふと大事なことに思い至った。


 最初の予定では女神像は宿屋の部屋にでも置いておいてから観光をするつもりだった。


 だって、こんなの重いしね。


 でも。


 現代日本のホテルなら兎も角、この世界の宿屋のセキュリティーには不安がいっぱい。


 流石にこんな高価な物を盗まれでもしたら、目も当てられない。


 これ、わたしがどんだけ働いたって買えるような金額じゃ、なかったし。


 支払いは魔法の小切手だったから現金持ち歩いてたわけじゃないけど、ほんと。向こうの言い値で良いってサーラ様言ってたから気にしなかったけど、ほんとビックリするような値段だったのだ。


 まぁ、これだけの彫像が彫れる魔石って、いったいどんな大きさなのか見当もつかないから分からないでもないか。


 ほんと肌身離さず持ってないと不安。


 だからといって明日の朝まで宿屋に引きこもってるのもなんだか嫌だし、もう、重いのは我慢。


 せめて湖だけでも観に行こう。


 そう、とぼとぼ歩き出したのだった。


  ☆


 森は魔獣が出るかもしれないからパス。田園風景は景色として見るだけで満足。湖は、ぜひ近くまで行って見てみたい。


 出来たらちょっと足だけでも浸かりたい。


 気持ち良さそうだし。


 ほんとは泳ぎたいくらいだけど水着、持ってこなかったしね。




 湖の畔までくるともう気分は爽快。眩く煌めくみなも。木々から溢れるこもれび。爽やかな風に包まれたゆったりとした時間。


 そう、世界からここだけが切り離されたような。そんな空間。


 人生の幸せっていうものの一部は絶対こういう経験、だね。


 本で読んだり映像で見たり、前世のわたしは実物よりもそういった資料で識ることが多かったこういう自然。


 今のこの世界では全身でそれを感じることができる。


 こんな幸せ。あんまり無かった。




 ゆったりと、時間を忘れ景色に浸ってたわたしを現実に戻したのは、こんな所に現れるわけが無い、現れるとは聞かなかった、魔獣に囲まれていた事に気がついたからだった。


 なんで、ここは安全だって聞いてきたのに……


 村の観光案内でも、ここは通常魔物が入り込むような場所で無い事、清らかな水が基本魔を寄せ付けないという事が書かれていた。


 だからこそ安心して一人で来たんだったのに。


 魔獣たちは遠巻きに見てる、のだけど、互いに牽制し合ってるのかすぐに飛びかかってくる様子には思えなかった。


 これなら……逃げよう。


 わたしはゆっくりと振り返ると、取り囲む魔獣のいちばん居ない場所めがけて走った。


  ☆


 重い女神像を胸に抱きかかえて走る。魔獣達は追いかけてくるも、何故か一定の距離以上を保っていた。


 もしかして……魔獣はこの像が目当てなの?


 やっぱり、これは、魔王なの?


 そんな疑問が頭に浮かぶ。


 あ、だめ。このまま走ったら森の中に入っちゃう。


 魔獣を避けつつ走るわたしの進行方向には樹々が鬱蒼とした森。


 最悪!


 そう気が削がれたとき、足元の注意が疎かになったのかわたしは木の根に足を引っ掛けて盛大に転がった。


 痛いと思うよりも女神像が壊れてないかが気になったわたしは掌を擦りむいて血が滲んでいたのにも気が付かず、手探りで女神像を触り。


 特に砕けたり壊れたりしていなかった事に安心したわたしは、これが、祈れば叶う、という逸話のある女神像だということを思い出した。


 どうか、助けてください!


 迫る魔獣から逃れる術を、どうか……




 その時。


 コネクトしました。


 ダウンロードしますか? YES NO


 えっ? なにこれ。


 目の前に文字が浮かびあがった。


 魔力で何かを起動したわけじゃ、絶対ない。だったら、何? これ。


 YESが点滅してる。あ、これ、デフォルトがYES?


 やばい。


 ダウンロード開始します。


 あああああー……。


 目の前が七色の光の奔流に包まれた。


 意識はある。でも。もう今は自分の体も認識出来ない。光の中にいる、それしか。


 ……うん。若干余剰エネルギーが残ってるね。これなら行けそう。


 ……アリシア。魔法術式を構築して。


 え? 誰?


 ……あたしはナナコ。今、貴女と繋がってる。


 ……ここから移動するよ。術式の理論は貴女の中にある。位相q12e98gd。さぁ!



 頭の中に魔法陣が浮かぶ。二重に絡み合ったその魔法陣はだんだんと大きくなりわたしの体の周囲を包みこむ。


 そしてわたしはその場所から泊まっていた宿屋の部屋まで転移した。魔物の群れは……あの場に残したまま。たぶん。


 ……今回のはサービスね。ダウンロードの余熱でエネルギーが余ってたから。


 あ、ありがとうございます。助けて頂いて……


 ……なにそれ? 笑えるー。状況が全然解ってないようね。貴女。


 ……あたしはナナコ。魔王の端末? ナビゲーター? みたいなものかな。今は。


 やっぱり魔王、なんだ。これ。


 わたしは女神像を見ながらそう思う。


 ……あんた、ばか? 魔王はあんたよ!


 えーーーーー?


 なにそれわけわかんないんですけど!! どういうこと?


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