ラストエピソード。
……うむ。やはり時間は無いな。ちょっと強行手段に出るぞ。
何? レヴィア、ううん、カエサルさま。何をするの?
……なに、魔王を一旦此処から排除するだけさ。アリシア殿、お主のマイクロコスモスカッターな、あれを使わさせて貰う。
えー? でもあれ、起動するのに莫大な魔力がいるし
……今この身体の周囲に展開している魔法陣と魔王本人の魔力を拝借すれば良いのさ。
そんな都合のいいことできるわけ……、そう言いかけて辞める。
そっか。この人わたしなんかよりずっと魔王のチカラの事よく知ってるんだもの。そう思うとなんだかこの人が言うなら何でも出来るような気になった。
うん。お願いカエサルさま。
魔王を排除するって言ってもインナースペースに深く根付いた魔王の感情の塊を切り離すにはけっこうな範囲で切り取らなければ無理。
カエサルを中心に起動したマイクロコスモスカッターは、あの紅く脈動する光の及ぶ周囲を根こそぎ囲み。
そして……。
気がつくと。
荒野に立ち竦むわたし。
その手に真っ赤な石を抱えて。
ああ、これが魔王。そう。わかる。
わたしの一部だったもの。
わたしの周りに展開していた光の魔法陣は終息し、周囲には騎士団の面々が取り囲んでこちらを警戒している。
「亜里沙ちゃん!」
ああ瑠璃。無事だった。良かった。
「貴女、どうして……」
一瞬だけ瑠璃が見えたと思ったのに。目の前にいるサーラは直ぐにカッサンドラの顔になった。
「ごめんねカッサンドラ。あなたにこれは渡せない」
自然とわたしの口から出たそんなセリフ。
ナナコ?
「このままではこの世界は崩壊します。神さま、貴女が出来ないのならわたくしが円環の役割を果たすしかないじゃないですか」
ああ。そっか。
みんなほんと、大好きだよ。
わたし。この世界も、そしてこの世界を大切に思ってるみんなが大好き。
「ばかね。それはわたしの仕事だっていうのに」
そうだね。ナナコ。わたしたち、そのために此処に居るんだよね。
ああ、なんだかナナコとわたし、意識が融合しかけてる? 自然とナナコの思考が言葉になってでてきてる。でも、これも悪くない、な。
「ダメ! 亜里沙ちゃんだめ……、お願い、何処にもいかないで……」
ああ、瑠璃。ごめんね瑠璃。ごめんねもう一人のわたし。でも、これがわたしの役割だったんだよ。きっと。
真っ赤に脈動する石。わたしのインナースペースを顕現させたコレ、は、まだ生きている。
このまま大気に溶ければ良いんだって、そうすれば……。
《我に任せてはくれないか。ナナコ。その役目は元々我がするべきったこと。本来我がなるべきだった筈。だから……》
カエサルさま!
え? 何処から声が?
わたしの抱えていた石が浮き上がる。
手を伸ばすも振り切られ、空中に浮かび上がったソレは、カエサルの姿にと変わり。
もしかしてカエサル、切り離す時向こう側に残ったの?
確かにわたしは、寂しかったあたしは、理を収める器としてあなたを求めた。
でもそれはあたしのパートナーとして、だったのに。
《好きだったよ。大切だった。だからこそこれは償い、だ。あの時の過ちを悔いて長い年月を過ごしてた我にやり直す機会を与えては貰えぬか? ナナコよ……》
……うん。うん。ごめんねカエサル。あなたに会えて嬉しかったよ。ほんとありがとう……。
空中に浮かび上がったカエサルの姿が紅く瞬き弾けた。
そして。
空が紅く焼け、金色の輪がだんだんと溶ける様に広がっていった。
カエサルが空気に溶け、大気と同調しているのだ、と。
ああ。
あたしの涙がほおを伝って落ちる。