コトワリノキオク。
気がついたらわたしは真っ白な世界にいた。
ここは……?
遠くに見える赤が脈打っている。あれが魔王石だとすると。
ここはわたしのインナースペースの中ではあるのか。でも。何かが違う?
……大丈夫? アリシア。
ああ、ナナコも無事?
……魔王石が完全にアリシアを取り込む前に、強制的にアリシアとアリシアのインナースペースの接続を切ったの。
え?
……今の貴女はアリシアさんの理性の部分。感情はあちらに行ってしまいました……。
貴女は……?
……わたくしはリウィア。リウィアの心の一部です。貴女と一緒ですね。
……リウィアに助けてもらってなんとかアリシアの接続きれたんだよー。ほんと間に合ってよかった……。
瑠璃の姿のナナコ。そして、もう一人の女性の姿がぼんやりと見えてきた。
この人がリウィアさん?
魔王は……? どうなっちゃった?
……魔王は完全なる魔王となった様だ。クロコとシロも取り込まれた。
レヴィア?
レヴィアの声なんだけどなんだか少し違って……。
だんだんと現れた姿は男性? 線は細いけどすごく綺麗な容姿の男性の姿。
金色の髪に蒼く透き通る瞳。
わたしのお母さんにちょっと似てる。
っていうかあの魔王の女神像に似てる?
……カエサル……。
え? ナナコ、カエサルって……。
……ああ。我はカエサル。初代皇帝にして初代の魔王。というかその意識の片割れだよ。
……ああ、カエサル……。会いたかった……。あなたがカエサルだったなんて、気がつかなかった……。
流れ込んでくるナナコの感情。わたしとナナコはまだ繋がってる?
ナナコが意識を持ってから。
寂しかったナナコが初めて心を許した人間、それが彼?
そんな感情が曖昧な状態だけどわたしの中に降ってくる。
ナナコのそんな感情に触れて。わたしの中に、また暖かい気持ちが生まれた気がする。うん。なんだか嬉しい。
……ゆっくりはしていられないか。どうやらカッサンドラの魔法陣が展開しきったらしい。このままでは我らごと封印されるやもしれん。
え?
……どうしようか。っていうかサンドラまさかこういう手に出るとはね。あの子、自分が犠牲になるつもりだよ。
ああ。
ナナコの思考がわたしにも流れこんでくる。
この世界を形造る理のキオク。それが溢れ過ぎると世界のバランスが崩れ、崩壊する。
そのためにナナコが求めたのが『器』である魔王。
マナに印された理のキオクは本来世界を循環し、人々や動物の心を産み、そして還る。通常の世界であれば、円環の理が世界を形造り、そこで完結しているのだ。
しかしこの世界は元々瑠璃のインナースペースから分離した世界だったせいか、理を循環させるシステムが上手く働いて居なかったらしい。
そっか。
あきさんも最初言ってたっけ。
この世界は不安定、だって。
外から見たら出来たばっかりの不安定な世界だったってことなのかな。
でも、この世界に生きているわたしたちにしてみたらこれは現実。なんとかしないといけない事ではあるんだよね。
……サンドラは、完全なる魔王を自分に取り込んで、自身が円環の理になるつもりだよ。もう、そんなのはあたしの仕事だっていうのに。
ううん、ナナコ。それならそれってわたしがやらなきゃいけないよね。
そう。わたしの役目だったはずだ。魔王としての。