転生少女、と、忘れていたキオク。
……俺は戻る。ここに居てもどうやらダメらしい。外から働きかけてみるよ。
そう言うとあきさんは戻っていった。
……あたしたちはどうしよう?
うん。もうちょっと様子見よう。あきさんの言葉で少し何か変わるかも?
長時間このままなのも良くないし。わたしの魔力がありあちゃんに悪い影響与えると困るしね。
外では。
あきさんはありあちゃんを見つめて。
ほんと黙って見つめてる。
……波長が合うのかなぁ? あの子達どうやら心で会話してるよ?
見えるの? サーラには。
……ううん。色は見えるけど言葉にはならないの。でも、あの色の細かい変化は間違いなく会話してる時っぽい。
そんな二人の様子を見てて。
何か心に引っかかるものを感じてた。
マイクロコスモスカッターの後遺症? で、魔王のキオクの大半を失ったわたし。
でも、ほんと失ったのはそれだけだったのか?
ここはあきさんの世界。
あきさんの世界は友坂さんのおはなしの世界と通じてる筈。
だとするとありあちゃんの世界ももしかしたら……?
わたし、何か、忘れてる?
……亜里沙ちゃん、忘れてるかもしれない記憶が気になるの?
うん。何か大事なこと忘れてるような気がして、ちょっと怖い。
……わたしが、潜って見てあげようか?
え?
……今、恥ずかしい、って、そう思ったよね?
うん。そりゃあいくらサーラでもちょっと恥ずかしい……。
……わかるよ。わたしにだって恥ずかしい気持ち、記憶、いっぱいあるもん。
……だから、ありあちゃんも恥ずかしいんだよきっと。
そっか。ちょっと不躾だったかな……。
心の奥には誰しもひみつを抱えてる。
それは他人から見たらどうってことないことかもしれない。だけど、本人にとっては他人には侵されたくない、そんな領域なのだろう。
わたしだってそうおもうんだもん。ありあちゃんだってひみつの一つや二つ……。
ん?
あ、心の奥で、ちょっと引っかかった。
ひみつ……ありあちゃん……。
ああ……。
ちょっだけ、降ってきたイメージ。
あれはいつか読んだおはなし。
だいいちわだけだったけど。
でも、確かに、ネットで読んだんだわたし。
「ありあはやっぱりこれ以上は無理だって言ってる」
と、あきさん。
「ごめんなさい。身体のこと心配してくれたのに……、でも……」
ありあちゃん、泣きそうな顔でそう答える。
うん。ごめんねありあちゃん。
「ごめんねありあちゃん。誰でも触れて欲しくないこともあるよね」
「ほんとごめんなさい……」
「変質した身体に何か後遺症みたいのが無いか、それが心配だったんだけど、表面上はそういうのは見当たらなかったし」
《変質した部分を治そうとしても、結局もう一回エンジェルレイヤーで上書きするしかないしね。経験上》
ああ、いきなりだとみんな驚くかもだよナナコ。
「ごめんなさい。今の声はわたしの中にいるナナコっていう、うちの世界の神さま。今ありあちゃんの中診てもらってるから」
「「「「神さま???」」」
ほら、みんなびっくりしてる。
《この子の変質具合は別に他に害を及ぼす状態じゃなさそう。それに、どうやら望んだ姿になってるみたいだから大丈夫、かな》
そうだね。ありあちゃんは自分の望んだ姿に変質してるんだ、ね。
《だから、たぶんありあの心配は逆。戻りたくない、ってそう思ってない? だったら大丈夫。エンジェルレイヤーで吐き出された結果は不可逆だから。どうやったって元には戻らない、から》
とたんに、
それまで泣きだしそう、で、止まってたありあの表情が崩れた。
うっく、ひっく。そう泣き出したありあ。
まりあが寄り添って宥めてるけど、これはたぶん緊張が解けたことと嬉し涙が混ざったものか? 少なくとも悲しそうな涙には見えないからちょっと良かった、かな。
表情が優しい。優しい涙だ。
「ありがとうございます……。神さま……」
ありあから、そう、声が漏れた。