転生少女、と、標準日本。
レヴィアさんが引っ込んだ右手を差し出すと、彼女、その手を取ってにっこりと笑った。
「ごめんなさい。ありがとうございます」
うーん。声もかわいいかぁ。
「あの子……。よかった? 逃げちゃったけど」
「ほんとすみません。巻き込んじゃって。ちょっと事情があって……。あ、でも、悪い子じゃない筈、です。だから……」
「そっか」
わたしはとりあえずそれ以上追求するのを辞め、まずこの狭間の空間から出ることにして。
「じゃぁつかまっててね。狭間から出るから」
「ありがとうございます」
ブーン、と、世界が変わる。
位相がカチッとはまる感じ? 通常の空間と繋がって、そして狭間が消えた。
現れたその世界は……。
ああ、ここ、日本? だ。
路地裏だけどあちこちからビルが見え、見覚えのある道路標識も立ってる。
時間は……、昼間? 何時頃だろう?
「ほんとありがとうございました。あたし篠崎有亜って言います。高2で……」
「わたしはアリシア=レイニーウッド。前世は日本人で水森亜里沙っていったの。よろしくね」
ああ、なんだかびっくり目でみられてる。そりゃそうだよね前世なんて言ったら驚かれるか。
「ああ、ごめんなさい。いろいろおはなししたいんですけど今からお仕事があって、時間があまりなくって……」
「ああ、バイトか何か? よかったらついて行ってもいい? このまま別れるの、なんか惜しい気がする」
「え? まあ、いいですけどー、ちょっと待ってくださいね。電話してきます」
ちょっと離れて電話をかける彼女。スマホだ。じゃぁ、きっとこの世界、少なくとも標準日本なんだろうな。元の世界かどうかはちょっとわからないけど、近い世界かも。
「じゃぁ、こっちです。ついてきてくださいね」
そういう彼女。わたしはとりあえず彼女の後をついて行きながら周囲を観察してみた。
ビルはあるけどそこまで高いビルはない、か。
中堅都市ってところ?
ちょっと名古屋っぽい。
でも、ちょっと違う。
そんな不思議な感じ。
目的地の建物っぽい場所に着くと、そこには彼女そっくりな女の子とそのお友達風な中性的な子が待っていた。
「まりあちゃんごめん、令もありがとう」
「いいけどー。っていうかその金髪美人? 例の助けてくれた人?」
「うん。そうなんだけど……。お仕事終わるまでお願い」
そう言うとありあはこちらにも手を振ると建物の中に走って行った。
「オーケーオーケー。っていうか貴女転生者だってほんと?」
最初がたぶん双子の子。最後の不躾なのが中性的な子。っていうかこの子の制服男子用っぽいよね? 雰囲気完全に女子なんだけど。
「そうだけど……。って、転生したのは異世界だったけどね」
「あー羨ましい。わたし同じじゃないけど似たような世界に転生しちゃったからなぁ。異世界ならもっと魔法の研究できたのにー。あ、わたし、令、よろしくねアリシアさん」
えー? この子、転生者なの? っていうかこの世界に魔法、あるの?
「この世界って魔法があるの? こんなに標準日本ぽいのに」
思わずそう聞いていた。
「標準日本、って、面白い言い回しだよね? ほかにもやっぱりいっぱい世界があるってことかな?」
「うん。そうみたい。わたしの前世には魔法って無かったし。おはなしの中にしか」
「あなたの世界には?」
「あるよ。当たり前みたいに」
わたしが魔力ゼロだったのが珍しい事だったくらいにはね。