魔王石。
「ベルクマールの公主館で何か危険な事が起こります。わたくしに、そのビジョンが降りてきたのです。お父様」
「うむ……。サーラよ、其方であればあり得るのだろう。リウィアも其方が次期と申しておった」
「以前リウィア様がお見えになった時も良くないことが起こる予感のお話をさせて頂きました。その予感は日に日に大きく、近づいて居ます」
「より具体的に見えたという事か? それが」
「ええ。時間はまだ、ですが、場所は公主館に違いないと」
おとうさまは、ふむ、と、考え込む。
サンドラは、続けた。
「お父様。わたくしをベルクマールに行かせてくださいませ。守りたいのです。リウィア様を」
魔王石?
……そう。魔王石。
公主館の最奥、祭壇の間には、五百年前の魔王を封印した魔王石が安置されてる。
……リウィアが巻き込まれるのはたぶん魔王石をめぐっての何か、なのでしょう。
そう、サンドラ。
あのビジョンの爆発。あれが魔王石をめぐっての争いの結果だと、そうサンドラは結論づけたのだ。
わたしとサンドラ、二人で一人の生活を続け、そろそろ一年。
その間に色々試した事がある。
まず、わたしのあの守るチカラ。
あれの再現には成功した。けれど。
あれはサンドラではなくわたし特有のチカラのようだった。
わたしの心に反応して顕現するけれど、サンドラにはできなかった。
そしてわたしにも見える予感のビジョン。
こちらはサンドラのチカラ。サンドラが感じ共有してくれる。
そして、人の心の色が見えるのは、これはサーラとしてのチカラ。
わたしにもサンドラにも見える。サンドラの前世には無かったチカラだという。
リウィアさまに危険が及ぶあの予感はここにきていっそう強くなってきた。頻繁に見えるビジョン。鳴り止まない警鐘。
共有してるわたしにもわかるその現実味のある状況に、サンドラはおとうさまに話す決意を固めた。
そしてわたしたちは何としても現場であるベルクマール大公国に行かなくては、と。
行ってなんとかなるのかというと自信があるわけではなかったけれど。でも。
守りたかった。少しでも守るチカラが役にたつのであれば、リウィアさまの所まで行って守りたかった、のだ。
しかし。
「ありがとうサーラ。しかし、ダメだ。其方まで危険な目にあわせるわけにはいかない」
おとうさまの許可はおりなかった。