女神の祭壇。
夕食の後。
リウィア様にお願いした。
二人っきりでお話がしたいって。
なんとなく、だけど。
このおはなしはリウィア様だけにしかしてはいけない気がした、のだ。
ほんとはわたしの部屋まで来てもらいたかったけどそうもいかず。リウィア様の泊まる寝室の隣の応接室を使う事に。
人払いして二人きりで向き合って。
だけどなかなか最初の一声が出ない。
もじもじしてると。
「ねえサーラちゃん。あなたもしかして色々見えるようになっちゃった、とか?」
そう、リウィア様から。
「そうなんです。なんか凄く嫌な予感がしてて。ビジョンも見えて。でも、こんな事他の人には話せなくて……」
それにリウィア様に危険があるビジョンなんて、他の人に話せない。
「そうなのですね……。わたくしも子供の頃同じような経験をしたのですよ……」
リウィア様のお顔がちょっと曇る。
……ああ、この子が次なのね……。
それは、同情? 憐憫? 何故そんな感情なのかわからなかったけれど、そう感じた、そんな気持ちの心の声だった。
「ちょっとつきあってもらえるかしら」
そう言うと、リウィアさまは立ち上がり、廊下に出る。
わたしはその後をついていった。
アスターニャは居ない。手を引かれず一人で廊下を歩くなんて新鮮で。目の前をスタスタ歩くリウィアさまになんとかついていく。
わたしって歩くの遅かったんだな、とか、今更ながら考えて。
無言で廊下をどんどん歩くリウィア様の色は決意の赤だった。何か儀式の様に、わたしも無言でついていく。ちょっと疲れた。
扉の前で止まるリウィア様。
やっとたどり着いた?
そこは、聖堂。
皇帝が神に祈りを捧げる場所。
わたしはそこには入った事がまだ無かった。
リウィア様が扉を開けると真っ赤な絨毯の先に祭壇があり、そこには黄金色の聖杯が見えた。祭壇には神々の絵姿が描かれ、中央には女神の姿。
その女神は流れる様な金色の髪、透き通るようなブルーの瞳。整った顔立ちは穏やかで、神秘的な微笑みを浮かべていた。
「貴女にこの世界の責任を背負わせる事になる……。ごめんなさい。たぶん、わたくしにはもう時間が無いのね」
ああ、リウィア様……。
わかってるんだ……。リウィア様にはたぶん、すべて……。
「ダメ、リウィア様。わたしリウィア様を助けたくておはなししたかったの。わたしが守る。リウィアさままもるから……」
「そうね。あきらめちゃ、だめよね。わたくしも抗ってみせますわ。ありがとうね。サーラちゃん」
リウィア様はわたしの頭を優しく撫でて。
そして、祭壇に向き直ると、聖杯に手を添える。
「カッサンドラ様の加護を」
聖杯から光が溢れて。
その光はわたしを包み。
そして。
わたしの意識は真っ白な、いつか来た、あの空間を漂った。