真夏の昼の夢。
リウィア様歓迎会を夜に控え、少し寝てしまったサーラの夢です。
これは……夢?
うん。
多分、夢。
でも。
夢の中でこれが夢とわかる。でも、ただの夢じゃない。
これは……。
亜里沙ちゃんだ。
亜里沙ちゃんの、夢。
☆
暴走していた亜里沙ちゃんの周りの光が七色になる。
ああ、亜里沙ちゃんの意識が見える。
秋の姿にもどったあきさんに、
「ありがとうございます。秋様」
と、お礼を言うと、七色の光に包まれた亜里沙ちゃんに向かって走り出す。
「亜里沙ちゃん、亜里沙ちゃん、亜里沙ちゃん!」
わたしはそのまま亜里沙ちゃんに抱きついた。周りの目なんか、もうどうでもよかった。サーラとしてどうこう、なんて、もう関係なかった。
「瑠璃ちゃん!」
「ああ、亜里沙ちゃん。良かった。良かった。戻ったのね。良かった……」
「ごめんね。心配かけた、よね」
亜里沙ちゃん、わたしの頭を撫でてくれて。
「いいの。亜里沙ちゃんが戻ってきてくれたのなら、いいの……」
ほんと、亜里沙ちゃんさえ大丈夫なら、いいの……。
……衆人環視の中でこれは、まずくない?
亜里沙ちゃんの心の声。
「いいの、そんなの。わたしの一番は亜里沙ちゃんだもん。だからいいの」
……って、もう、大げさなんだから。まるでそれじゃぁ愛の告白みたいじゃない。
「そう、だもん。わたしは亜里沙ちゃんが好き。昔も、今も」
……あうあう……。うー。どうしよう。
ごめん。亜里沙ちゃんを困らすつもりじゃ、ないの。だけど、涙が止まらない。
ちょっと落ち着いて。
やっと涙がとまった。
その時。
「か、は、は。どうやら失敗した様子ね。でも、まだ、手はあるの、よ」
空中から、修道女の格好をした悪魔が、現れた。
人、じゃない。あれは思念だ。悪意の思念の塊。
「離れてて、瑠璃!」
亜里沙ちゃんがそう叫びわたしを振りほどく。
せっかく、亜里沙ちゃんを、やっと……、なのに……。
ここで離しちゃいけない、って……、そう、おもう、のに……。
亜里沙ちゃんの周りの境界が膨らみ、わたしは弾かれた。
亜里沙ちゃんから今まで見たこともない怒りの色が立ち昇る。
真っ赤に燃え上がる光が亜里沙ちゃんを包んで膨らんでいく。
ああ、ダメ。だめだめだめ亜里沙ちゃん!
「我が名はガレシア、ほら、貴女も名前がわかったほうが憎みやすいでしょう」
あいつ、だめ。ああ、わたしの亜里沙ちゃんを、よくも……。
ああ、わたしの心まで黒くなっていく。
ダメ、アリシア、
のまれちゃ、感情を増幅しちゃ、だめ!!
ナナコさんの声? 亜里沙ちゃんには聴こえて、ないな。
でも、わたしにはこの声がストッパーになった。
少し冷静になれた?
亜里沙ちゃんの姿が魔王に見える。真っ赤な鎧を纏った魔王となった亜里沙ちゃんから光の、エネルギーの塊が放たれ、ガレシアに当たる。
ガレシアは大きく燃え上がりそして。
「か、は、は、は! これで、いい。これこそが、魔王。完成した!」
炎は大きくなり、人型を完全に飲み込む。その焔は悪魔の顔になり、ニヤリと笑った。
第二ラウンドだとあきさんが変身して飛び立った。
その姿はギリシャ神話の戦女神、勝利の女神、そんな感じ。
そして。
あきさんと亜里沙ちゃんは何度か激突し、光の塊が空中で弾け……。
二人の姿が狭間に消える。
たぶんさっきのエネルギーがそのまま地上で弾けたら大惨事になっただろうから。あきさんのチカラで次元の狭間に移動したんだろう。
それはわかる。けど。
心配、だ。
時折次元に歪みが出来る。
まるで空間が引き裂かれたかのような隙間の向こうに、亜里沙ちゃんがいた。
亜里沙ちゃん!
わたしは意識をその隙間に飛ばす。
心の膜を伸ばし、亜里沙ちゃんを包み込み……。そして……。
亜里沙ちゃんと一緒にいたのはいつのまにかナナコさんになっていた。
亜里沙ちゃんの胸の手前に手を翳し、そして。
二人の周囲をわたしは覆った。もう、誰にも邪魔させない。
「瑠……璃……。る……り……?」
亜里沙ちゃんの声。掠れているけれど、確かに、そう、聞こえた。うん。嬉しい。
「ああ、瑠璃、ちゃん」
声が聞こえる。ああ、亜里沙ちゃん、戻った。間違いない!
☆☆☆
目が覚めた。
眠っていた時間はほんの少し。まだ日が高い。
でも。
亜里沙ちゃんに、会える!
うん。絶対、会える!
あの夢は、いつか現実になる。そう、確信した。
そしてそれは、わたしの生きる希望と、なった。