皇女サーラ、と、森。
魔法があると言ってもなんでもできる訳でもない。
死んでしまった人は生き返らないし、大怪我が一瞬で治る事も、まずない。
どこかにそんなチート能力を持った人が居ないとは限らないけれどそれでも今この身近には無いことになっている。
わたしが知らないだけかもしれないけれど。
だから人の命は大切だと教えられるし無謀な戦いも忌避される。
うん。だから人はなるべく安全に気をつけて、それでも魔物に備えて鍛錬する。この世界にとって魔物と戦う事は生きる事そのものでもあるのだ。
皇帝の息子、皇太子であったとしてもそれは例外では無く。
ティベリウスおにいさまは六歳の頃からこうして森で鍛錬していたのだ。ここは、そのための森だから。
「サーラは初めてだったかな。この森は」
「はい。おにいさま。わたくし、少し怖いです……」
わたしは嫌な予感がして、このままここにいる事が怖かった。
「そんなに怖がらなくても大丈夫。ここにはわたくしたちもいるし護衛騎士様達も居るのですもの。楽しみましょう。ね」
と、マリアねえさまも。
「サーラは俺が守ってやるさ」
ラインハルト様もそういう。
うん。ほんと、ありがとう……。
でも、何か、わからないけど、ダメだ。不安が消えない。
裏山といっても城の後方に広がるその一帯は国の公園に指定されている場所で、その森は完全に管理されたものだ。
本来であれば魔物など繁殖のしようもない状態であるはずで。
そうであるにもかかわらず魔物が跋扈しているのはそれすら人による管理の賜物であるということだろう。
そうである、から。
ここはレベルも安定しているわけ、で、初心者であれば初心者エリア、慣れてくれば中級、そして、腕に覚えがあれば上級のエリアにチャレンジできる。自然の森であれば一つ間違えば全滅することもありえる魔物との戦いが、ここではレクリエーションの様に体験できる場所であるのだと。
そういった場所だった。
そう。
ここ、で、危険な事が起こると言う事は、
それは、ここのシステムが機能していない、と、言う事だ、と。
ああ。
不安はどんどん増しわたしの頭の中の警報は鳴り響いている。