皇女、の、お披露目。
わたしが物心ついたのは、五歳の頃。それ以前は断片的な記憶しかない。
ほら、よく赤ちゃんの時から前世の記憶を持っていて、とかあるけれど、わたしにはそういうことは無かった。
周りのキラキラとした映像が心に残ってる。暖かい肌触り、優しい声、そして、抱きしめられる感覚。
幸せだった、と、思う。
自分の存在が姫さま的なそれなんだなぁ、と、人ごとみたいに感じたのが最初。
そこから徐々に、ぼんやり前世のことを思い出していった。
たぶん、完全に自分が瑠璃だと自覚したのは七歳のお披露目のときじゃなかったか。
皇帝の娘として、皇女としてのお披露目。それは帝都の人が全部集まっているんじゃないかと思うような人混みがバルコニーから見渡せる場所一面に広がっていた。
「サーラ様、お手を掲げて笑顔をおみせくださいませ」
そうお付きの侍女アスターニャが控えから囁く。
怖かった。
こんなにも多くの人が自分をみてる、注目してる、その事が。
もちろんおとうさまおかあさま兄上姉上が皆並び、わたし一人でここにいる訳ではないのだけど、それでも。
「サーラ。そう堅くならなくても良いのだぞ。彼らは皆其方を愛し慕うべくここに集ったのだ。我らは彼らを愛す。そして彼らも我らを慕う。それが皇家と民との関わりなのだ」
おとうさま。
「大丈夫。ぼくが守ってあげるからね。何も心配いらないよ」
おにいさま。
みんな、やさしい。
でも。
熱狂がすぐそこまで熱を運んでくるようで、わたしの頭の中は沸騰しそうだ。
そのまま熱中症にでもなったかのようにふらついて。
立っているのに我慢できなくてしゃがみこんでしまった。
ああ、わたしのお披露目なのに。
「皆よ。サーラの為に祝福をありがとう。これでサーラはさがらせるが、皆の温かい心は充分届いている。感謝だ」
気を失う寸前、そう、おとうさまの声が聞こえた。