四章 もう一人の・・・
転生して二週間。こっちでの生活にも慣れてきた。
転生の森でドラゴンを倒して以降、ちょっとした有名人となり冒険者ギルドから「竜を狩る者」の称号を貰った。
バッドステータス持ちは冒険者になっても早々に殉職してしまうため、基本的には冒険者になれない。だが例外は存在する。実力が認められれば称号と同時に冒険者の資格が貰える。私は薬局の仕事をしつつ、時々冒険者としてクエストを受けるようになった。
ドラゴンを倒したと言っても魔導士テトラの魔法攻撃で弱っていたからこそ倒せたわけで、彼女にも称号なり報酬なりをあげて欲しいとギルドに言ったところ、「テトラという冒険者は登録されていないし、住民票にも登録されていない。関所を通った記録もない」と回答された。つまり、他国からの不法入国者か住所不定無職。因みに、この町は転生者がよく来るから住所不定無職は珍しくないそうだ。
~武器屋アームストロング~
「おう、いらっしゃい!待ってたぜ」
相変わらず店主は声がデカい。
「じゃーん!シーゲルの旦那が持ってきたドラゴンの素材で作った刀『零式竜刀』が鍛冶屋から届いたぜ」
この世界の武器は鉄や鋼、魔石など鉱石で出来ている。にも関わらず「ドラゴンの爪とか切れ味良いから、これで武器作れないか?」と無茶振りしたところ「面白そうだからやってみる」となって、この刀が出来た。
「玉鋼とドラゴンの素材の融合、実に見事ですね」
「鍛冶屋が言うには、うっかり金床を真っ二つに斬っちまったらしいから取り扱いには注意してくれよ。それと、防具の方なんだが・・・」
「何か問題が?」
「ドラゴンの鱗を砕いて繊維に混ぜて、旦那の着てる服と同じデザインの物を作った。これは鋼鉄の鎧よりも格段に頑丈なんだが、緑色だった鱗が変色して黒い部分や茶色い部分になっちまって・・・」
店主が持ってきた服は前世で軍隊が使ってるウッドランド迷彩服だった。
「問題ないです。私が元居た世界の兵士達は隠密性を高める為に、これと同じような柄の戦闘服を使ってましたから」
「そうなのか?こっちの世界じゃ変な色で廃却処分だぜ。鍛冶屋の肉だるま・・・コホン、おっちゃんもイマイチ納得できない様子でな」
オーダーメイドの装備品は高価だ。その分、高い完成度で作るのが仕事の流儀らしい。
「それで、料金は?」
「あぁ、見積もり通り50万Gから素材持ち込み分20万G引いて30万Gだ。支払いは分割でも・・・」
アイテムバッグから30万Gを取り出す。
「はい、1万G札30枚」
「・・・アイリスさんといい旦那といい、金が湧いて出てくるスキルでも持ってるのかい?」
それは間違ってない。この短期間でかなり稼いだが、これはアイリスのおかげだ。アイリスは転生して数日後、いつの間にか「金運アップAB」が付いてしまったらしく何もしなくても大金が舞い込んでくるイベントが発生してしまう。この前も一緒に転生の森に行ったら、倒したスライムが金貨1枚(10万G)落としていくゴールドラッシュ状態だった。
「そんなスキル有ったら薬局も冒険者もやりませんよ。店の売り上げが絶好調なだけです」
こんなスキルを持ってると噂が広まったらアイリスが誘拐されかねないので知らん顔をする。
「まぁ良いさ。きっちり30万G受け取った。今後も何か有ったら来てくれよな」
~自宅~
「ただいま~」
・・・変だ。今日は店は休みだがアイリスが留守番で居るはずだ。いつもなら「お帰りなさ~い」と言ってくれたり、帰りが遅いと「シゲニウム寄越せゴルァァァァァ!」とバーサーカー並みに発狂しながらタックルしてきたりするはず。因みにシゲニウムが何なのかは教えてくてなかった。
「アイ~?居ないのか?」
・・・返事は無い。
マジックウォッチを見るとアイリスからメールが来ていた。
『用事が済んだらサイサリスっていう喫茶店に来てね』
マジックウォッチはまだ使い慣れていない。返信の仕方は・・・?なんか「認識しています」と表示される。AIスピーカーみたいな感覚で使えば良いのだろうか?「今からそっちに行く」と喋ったらメール本文に文字が入力された。「アイリスにメール送信」と言うと送信された。早く使いこなさなければ・・・
マジックウォッチをナビモードにして喫茶店に向かった。
~喫茶店サイサリス~
兵士通り(ソルジャーストリート)とは別の通りに、その喫茶店は有った。サイサリスの花言葉は偽り。店の外観を見ると、何やら心がぴょんぴょんする。前世で似たような店に来たのだろうか?
「いらっしゃいませ」
中に入ると店員は3人、全てロリエルフだった。見た目は中学生から高校生くらい。エルフは体の成長、老化が人間よりも遅いので、この見た目で年齢は30~50歳だろう。
「連れと待ち合わせをしてて」
「あ!アイリスさんの旦那さんですね。こっちですよ」
銀髪ロングヘアーの店員に案内され、アイリスの居るテーブル席に着いた。他の客は居ない。経営は大丈夫なのだろうか?
「すまん。待たせたな」
「ううん、大丈夫。私もついさっき来たところ」
アイスコーヒーとガトーショコラを注文する。
「アイはここによく来るの?」
「うん。週2、3で来てたけど、最近来てなかったから店員さんに心配されちゃって・・・」
カウンターから「ガシャンガシャン」と凄い音がする。どうやら赤毛ショートカットの店員さんが皿か何かを落としたようだで、そして薄紫ツインテールの店員さんが叱る。
暫くして、銀髪の店員さんが注文していたアイスコーヒーとガトーショコラを持ってきた。早速、コーヒーをブラックで飲む。
「う~ん、優しい苦みに柑橘系のような酸味、ほのかに甘みもあって飲みやすいな・・・と、思わず感想が出てしまった」
「前世でコーヒーコーディネーターの資格持ってたからね」
アイリスは前世に未練が有るからか、前世の事を知っててもあまり教えてくれない。今日は機嫌が良いのだろうか?
「資格を持ってたって事は、喫茶店を経営してたの?」
「ううん。やろうとしてたけど、周りにサメダ喫茶とか珈琲貴族とか喫茶店の多い激戦区で赤字不可避って言って諦めてた。」
「あ~そういえば喫茶店が多かったな。休みの日にはアイと喫茶店でのんびりして・・・あれ?」
軽い頭痛と共に、無くしたはずの前世の記憶がほんの少し蘇った。
「転生者は一般常識は覚えてるけど、前世の記憶は忘れてるの。でもその境界ってどこからなのかな?」
「つまり、思い出すことも有るってことか」
「そういうこと。最も、思い出さない方が良いことも有るだろうけど」
やはり前世で何かあったようだが、聞かないでおく。
「確かに思い出したところで未練とか出来ちゃうかもな・・・うわ!このガトーショコラも美味しい」
店員さん達にも聞こえたらしく、赤毛の子が照れてる。デザート担当らしい。
その後、のんびりコーヒータイムを味わっていた時だった。一人の客がやって来た。
「シーゲルさんでしたっけ?相席して良い?」
見覚えのある白いローブにフードを深く被り、なんか高そうな杖を持ってる魔導士。テトラだ。
「ああ、テトラさんだったかな。ドラゴンの件ではお世話になったな」
テトラが席に座り、フードを脱いだ。顔を初めて見たが、私もアイリスも驚いた。髪の色は金髪だが、顔はアイリスと瓜二つだった。アイリスよりも年上のようだが・・・
「・・・アイってお姉ちゃん居たの?」
小声でアイリスに話しかける。
「いや・・・弟は居たけど」
こちらが混乱していると、テトラが自己紹介を始めた。
「私は転生者のテトラ。前世の名前は『佐藤 藍』。貴方達とはまた別の並行世界から来たわ」
「「え!?」」
「因みに、茂君は現代で生を全うしてるから、こっちには来てないよ」
並行世界の私は来てないらしい。というか今、何と呼んだ?
「茂・・・君?」
アイリスも違和感を感じたらしい。
「私の世界線では、私が28歳で、茂君が18歳だったの」
「10歳年下のシゲちゃんと結婚か・・・あれ?私は16歳でシゲちゃんと結婚したけど、そっちは?」
確かに。日本の法律では結婚は女性16歳から、男性18歳からとなっていた。・・・アイリス16歳で結婚してたんだ。
「私の世界は男女とも16歳から結婚できるわ。選挙権を16歳からに引き下げた時の副産物だけどね」
並行世界と言っても、どうやら似ても似つかぬ世界の様だ。
「にしても、あの甘えん坊の茂君が並行世界だとこんな頼りがいのある男になるなんてね~。筋肉も付いてガッチリしてるし」
「甘えん坊のシゲちゃん・・・全く想像付かないんだけど」
チョットやそっとの甘えならともかく、甘えん坊と言うほど甘えるのか?
「えーと、朝起きると私を抱き枕にしてるし、仕事から帰るとアイニウム不足だ~って言ってテーブルに突っ伏してたりアイニウム寄越せーって抱き着いてきたり。あと料理が得意で自信作の時はドヤ顔してるから美味しいって褒めながら頭を撫でてあげるとふみゃ~って可愛い声を出すの」
なんという事だ。並行世界の私はほぼアイリスだった。
「何その可愛い生物。見てみたい!」
「アイリス、鏡見て来い」
アイリスも気付いたらしく顔を真っ赤にしている。
「ところで二人共、この国は一夫多妻制なのって知ってる?」
婚姻届けを出す時に何かそんな話を聞いた気がする。
「二人が良いって言ってくれたら・・・その・・・私もシーゲルさんと結婚したいなと」
並行世界のアイリスなのだから、当然と言えば当然の展開である。
「・・・どうするアイ?」
「うーん、私は構わないって言うか・・・否定したら自分自身を否定するようなものだし」
「私も否定したらアイを否定するようなもんですが・・・」
アイリスと話し合ってると、テトラが捨て猫みたいな瞳でこっちを見つめていた。そうかと思ったら目が合った途端、照れ隠しなのかコーヒーを一口飲み
「おうおう、兄ちゃん。こんな可愛い美女と結婚できねぇってのか?」
と酔っ払いみたいな感じで言ってきた。
「アイと話し合った結果、断る理由もない(ていうか断れない)ので君とも結婚することにするよ」
「や・・・やったー!・・・コホン。不束者ですがどうぞ宜しくおねがいします」
何だか甘えん坊なアイリスと比べると、テトラはノリのいいお姉さんみたいな感じがする。
「言っとくが、私はアイが一番だからな」
アイリスが顔を真っ赤にしている。何か変なことを言ったのだろうか?
「それは承知してます!私が泥棒猫みたいなものですから」
テトラが何か魔法を使うと頭に猫耳が出現した。可愛い。
「泥棒猫だけに、キャッツ藍!」
「やめて!飲み会の一発ギャグとしては面白いかもだけど、なんか転生してからその手のギャグがタブーな気がして仕方が無いから!」
「と言いつつ、猫耳に興味津々なシーゲ・・・シゲ君であった。暫く猫耳付いたまま過ごすね」
顔に出てただろうか?隣に座ってたアイリスが肩をツンツン突いてきた。何だろうう?と振り向く。
「に、にゃ~ん」
なんという事だ。対抗心からか、アイリスも魔法で猫耳を着けていた。
「因みに、この猫耳は聴力アップの効果があるの。上位互換はうさ耳」
テトラが説明しつつ、カウンターを見る。こちらもカウンターを見ると、店員さん達がうさ耳着けて興味津々にこちらの会話を盗み聞きしている。結婚だの一夫多妻制だの話してたらそりゃ興味津々に聞き入っちゃうよな。というか、喫茶店でうさ耳もなんかタブーな気がする。
こうしてテトラも嫁になった。テトラは武者修行っぽいことをしてて野宿上等のワイルドなライフを送ってたらしい。空き部屋も有ったので今後はテトラも一緒に暮らすことになった。
~夜~
「今晩はこのテトラ様がシゲ君を存分に甘やかしてくれよう」
「いや、シゲちゃんは私を甘やかすの!」
予想はしていたが、めでたしめでたしとはいかなかった。これから大変そうだ。