6日昼
ダンジョンに入って行くと、リイナは、早々に全探索し、隅々までダンジョンのマップを記載し、1階の階段の場所を指摘すると、周りの評価が一気にあがった。
「僕らは、ゆっくり進もう」
ヒビキは、片手剣をハヤテに渡すと、簡単な型を一つ教え、教え終わるとゴブリンと対峙し、見本を見せてあげた。
「どう、やってみて」
「はい、師匠!」
「ハヤテ、頑張って」
初めての魔物との対峙で、怯えながらも、怪我をすることなく、何とか一撃を当てることができ、退治することができた。
「いいわ、ハヤテ、上手よ♪」
「うん、僕より、筋がいいよ!」
「ありがとう
がんばってみる」
何度となく、ゴブリン一体と繰り返し戦闘し、うまく型を出せるようになると次の型を教えた。
「さぁ、やってみて」
「ハヤテなら、やれるわ」
「うん!」
残念ながら、右足左足と交互に動きながら、上半身も使う型は、うまく使うことができなかった。
「次があるさ」
「そう、落ち込まないで」
二人の励ましで再度挑戦し、何度かやってみると、不恰好ながら、型どおりに動くことができた。
「いいわ♪
次はもっとうまくできるわ!」
徐々に乗ってきて、倒し成長していく喜びを感じると、ヒビキに次の型を教えてもらった。
二時間もしないうちにヒビキが知っている片手剣用の型を全て教えると、次は、片手剣の技をひととおり見せた。
「ごめん、申し訳ないんだけど、任せていいかな」
「いいわ。あとは、二人で近場を狩ってることにするわ」
「いいよ、ヒビキ。技の練習としとくよ」
ヒビキは、マップを奈々(ナナ)に渡すと、5階から魔法陣で戻った。
急いで、魔馬車に乗り込むと、本日最後のシュンセル向けだった。
朝、リイナに買ってもらったシュンセル向けの切符で乗れることができたのは、手持ちの少ないヒビキとしては、助かった。昼過ぎの出発だったが、なんとか、太陽が沈む前に到着することができた。
急いで、ハンさんがいるギルドに向かうと、直ぐに特徴的なモヒカンを発見した。
「ハンさん、ちょっとお時間いいですか?」
「どうかしたかね」
ハンさんは、真摯な態度で、親身に話を聞いてくれ、新しく働きたい冒険者や、バートさんに任せようと思ったゴーラリオも責任もって、引き渡すことを約束してくれた。
「ヒビキくん、弟子が迷惑をかけて悪かったね」
「いえ、こちらも、受け入れしてくれてありがとうございます。
しかも、バート様の分も合わせて対応してくれるなんて、助かります」
「それにしても、自分の為にならないことをするなんて。
最近の子にしては、いい人間のようだな。
うむ、気に入った。
どうだい、うちの娘にあってみないかい?」
「い、いえ、大丈夫です。
僕には、リイナという婚約者がおりますので」
ヒビキは、ハンの地雷を踏んだことに気づいていなかった。ハンのこめかみには、血管が浮かび上がったのだが、ヒビキからは、反対側で見えなかった。
「うん?
それは、オウサのとこのリイナちゃんかい?」
「ええ、リイナは、オウサ家ですが、お知合いですか?」
「っていうと、なんだ。
オウサの娘はよくて、うちの娘は、だ・め・なのかな?」
目に力がはいり、以前シノブさんで激怒されたときと同じように、両方のコメカミに欠陥が浮かんでいるのが見えた。
ここで初めて余計なことを言ったことに気づいたヒビキだったが、既にどうしようもなかった。
「そ、そんな、そんなことはないです。
たまたま、縁で」
「まぁ、いったんは、よしとしよう。
ヒビキ君は、急いで戻りたいんだろう?」
「はい、今から走って戻ろうかと思ってます」
「そうか、そうか。
大変だね。
私が、少し早く帰れるように手伝ってあげるよ」
「そんなことができるんですか」
「ああ、少し、ほんの少し我慢すれば、あっという間に迷宮都市に戻れるよ」
「そうなんですか、ありがとうございます。
よろしくお願いします」
周りでは、ギルド職員全員がかわいそうな目で見ていたが、ヒビキは早く帰れる嬉しさで気づかなかった。
「うん、判った。
任しといてくれ!
全力でいかせてもらうから、一瞬だな。
その柱に力いっぱいしがみつき給え」
「こうですか?」
「もっとだ」
「はい、じゃ、これで」
ヒビキは、目をちからいっぱい石に柱にしがみついた。
「うん、それで、大丈夫だ!
今日は、全力で投げれそうだ!」
「えっ」
ハンは、ヒビキがしがみついた石柱を軽々と右手で持ち上げると、力いっぱい振りかぶり、迷宮都市 エンバーソグの前の砂浜に向かって投げつけた。
「ど、えいりゃ!」
ヒビキがしがみついた石柱は、地面すれすれを水平に、ジーンの弓矢と同一の速度で飛んでいった。
ヒビキは、叫び声も上げることができずに、ただただしがみついてることしかできなかったが、あっという間にどこかの砂浜に石柱は突き刺さり、耐えきれずに、手を離すと、ごろごろと数百メートルも砂浜を転がった。
しばらく目を回していたが、辺りを見渡すと、少し先に朝に魔馬車が止まった停留場所が目にはいった。
「と、とりあえず、生きてる。
二度と石柱はごめんだ」
ヒビキは、ガクガクしている足をで、ダンジョンにある魔法陣に向けてふらふらと歩き始めた、
夕刻が近いこともあり、魔法陣の列は少なかったため、直ぐにダンジョンの5階に戻ることができた。
ヒビキは、探知の魔法で、ハヤテの場所を探すと、ほんの少し先にいることが分かった。
足のガクガクが戻らないヒビキは、ゆっくりと向かっていくと、戦っている音が聞こえてきた。
「ただいま。
いい戦いっぷりだね」
「お帰り、ヒビキ
早かったね?」
「だいぶうまく技がでてるよ」
「でしょ、ハヤテは、腕がいいわ」
話を聞くと、ヒビキがいない二刻の間、技を奈々(ナナ)に見てもらいながら、研鑽してたようだ。
「この後、10階まで、行って帰ろう。
ボスがいるだろうけど、戦うことはできないんだよ。
いけばわかるさ」
「了解」
奈々(ナナ)からマップを返してもらうと、少しずつ下に降りていき、問題なく七階までやってきた。
既に1対1の戦闘であれば、ハヤテに任せれば、安心してみることができた。
「8階は鉱山ダンジョンであって、敵はでないんだよ」
「へぇ、そんなフロアもあるんだね」
「そうよ、ハヤテ。
知らないことはいっぱいあるわ。
だから、わたしと一緒にもっともっと、見て回りましょうね」
奈々(ナナ)は、嬉しそうに話しをしているが、ハヤテに残された時間は、あと一日しかなかったが、伝えられずにいた。