最終日 後半
ヒビキは、朝飯を食べてないこともあり、食事にしたかったが、寝起きの彼らとは少し違っていた。
「この後は、どうするんでしょう?」
「今から王都に戻るのじゃ
魔王様も、首を長くしてまっておられるじゃろうしのぉ」
「そうでござるな」
オオストラトとエドワードの親子は、昨日食べ飲みすぎたせいでお腹が膨れていたため、まだ、お腹が空いていなかった。
だが、決定権は、姫様のみ、持っており、周りは、ちらちらと固唾を飲んで様子を見守っていた。
「城に向かう なの!」
姫様は、ボスを瞬殺して気分がよかったため、それほど空腹ではなかった。ヒビキはがっかりしたが、彼女の一言により、全員で王城に向かうことになった。
「エド 先に行って みんなの歓迎の準備してきてなの」
「ふぇ?
ほ、本気ですか?」
「あたりまえなの」
エドワードは、涙目になりながら、武器や鎧をバックにしまうと勢いよく王都に向けて走って行った。
「かわいそうだわ」
奈々は、頑張って走っていくエドワードを見つめながら、呟いた。
リイナは、妹のアンナのほうを振り向くと、
「アドアと、アンナも、わたしたちと一緒にくる?」
「当然、リイナお姉ちゃんと一緒にいきます。
公儀ですから。ね、アドア」
「うん」
結局全員で戻ることに決まり、姫様を先頭に、街をでると、王都に向かう道に歩き始めた。
みんな元気だったため、休憩を必要とせず、一刻も歩かずに一回目では、煙がでていた曲がり角まで到達することができた。
「この先を曲がれば、王都が見えてきますよ」
王都で唯一の魔術師のペテが、言ったとおり、曲がった先には、王都があり、その視線の先には、王城が佇んでいた。久々の帰路で、みんなの表情も二人を覗いて、歓喜の表情だった。
ゆっくりと、町のゲートをくぐって悠々と凱旋をすると、先に戻ったエドワードが、全てをしゃべりながら、城に戻ったため、町の中でも祝いのムードで歓声が聞こえてきた。
町を歩くごとに町人による歓声と拍手で迎えられ、向かっている全員が、自然と笑みを浮かべながら、ゆっくりと城へと続く道を歩いて行った。
そんなんこともあり、いつもより時間がかかって、半時ほどかけて、城にたどり着くことができた。城の門の前に着き、門番が一礼後、扉を開けると、ずらりと両壁に何百人の兵士が並んで出迎え、姫様の帰りを祝っていた。その中、入り口でまっていた大臣が、ゆっくりと近づいて行き、みんなを城内へと誘導していった。
本来であれば、報告が先であったが、隣の大陸の客人であるアドアいることもあり、エドワードから事情をきいた魔王 モーリスは 空腹で迷惑をかけるわけには、行かないと食事を優先することにした。
大臣に付いて食事の準備ができている大部屋に売れていかれると、一番奥で魔王が鎮座していた。姫様を先頭に入って行くと、笑みを浮かべながら、ゆっくりと立ち上がった。
全員が、開いている席に座ると魔王は口を開いた。
「皆様方、娘を補佐してくれて、ありがとう。
おかげで、無事、娘が帰って来ることができた。
親として、王として、本当にありがとう」
魔王は、テーブルに手をつくと、深々とヒビキたちに頭を下げた。それに伴い、周りにいた大臣や兵士たち、エレメールやオオストラトも頭を下げた。
「気にしないでください。
私たちは、やるべきことやっただけです。
どうぞ、皆様方、頭をあげてください。
このフロアで一番年下のアドアが、みんなを代表して返答すると、王は頭をあげ、席に座った。
真顔だった魔王は笑顔になると、
「堅苦しいのは、以上として。
ほんとに、ありがとう、
食事を用意したので、いただいてほしい」
食事の開始を発言すると、扉が開かれ、続々と料理が運ばれていった。
それは、肉料理を中心とした料理が多数出てきたが、そのすべてが、ヒビキたちのほっぺたが落ちそうなくらいに美味しかった。これまでの冒険や苦労したことなどをエレメールが楽し気に父親に話しているのを、みんなは聞きながら、美味しい料理をつまんでいった。
全員が、おいしい食事でおなかを膨らませ、一息ついていると
「いい食べっぷりだったね。
明日以降に引継ぎの会や、祝賀会を開くから、みんな来ていただきたい」
魔王は、食べっぷりを眺めていたが、仕事があるということで、要件を伝え終わると、席を外した。
「じゃ、僕たちも、そろそろ、城をでようかと思う」
「そう なの?
また、きて欲しいなの」
「うん、呼んでね」
アドアとアンナはこの後、城でやることがあるため、引き止められた。
リイナは、エレメールの頭を撫でると、次にくることを約束し、ヒビキとハヤテと奈々の4人で城をでることになった。
ヒビキは、城をでてハヤテを見ると顔は朝と同様にくもっており、そろそろ別れが近いことが目に見えて判った。そんなヒビキは、奈々と二人きりにしてあげることにし、最後の別れを告げることにした。
「ハヤテ、新しいところに行っても、頑張ってね」
「うん、ありがとう。
ヒビキと会えて、よかったよ。
おかげで、いい思い出ができた」
「うん、どんなことがあったとしても、
きっと、助けてくれる人が居るから、
新しいところに行っても、腐らずに頑張ってね」
「ふふ。
そうかもね、ご飯食べられなかったときは、
辛かったけど、ヒビキに助けてもらったしね。
助けてくれる人は、いつもいるかもしれないね!」
「じゃ、元気で」
ヒビキとハヤテは、抱き合ったあと、両手でしっかりと握手をした。
その横では、リイナが奈々に話しかけていた。
「ナナねぇ。
二人きりになりたかったら、この先の港の入り江近くがいいわ」
「ありがと、行ってみるね」
リイナは、本来であれば、ヒビキと最後に一緒に行く大事な港の入り江の場所を、奈々に譲り、自分は一番初めに思いついた高台に行くことに決めた。
ハヤテは、奈々に連れられて、手をつなぎながら、海辺のほうに連れられて行くと、次第に人気がなく、二人っきりになった。
ヒビキも、リイナに連れられて、半時ほど山に向けて歩いて行くと、徐々に町並みが林道に変わり、付いた先には、両人以外、人はいなくなっていた。
ダンジョン都市からの移動と食事で、陽は沈みかけ徐々に夕焼けに変わって行った。
ハヤテは、何を話していいのか悩んでいたが、話すべきことは、朝に伝えたと思い、奈々を引き寄せるときつく抱きしめた。
ナナは、彼の思いを知り、言いたいことを心に秘め、目を瞑りキツク抱きしめ返した。
この後のことをしらないリイナは、遠目のスキルで二人の様子を眺めると、いいなぁと思い、改めてヒビキを見つめ、明るい口調で話しかけた。
「ねぇ、ヒビキ、わたし、がんばったよね?」
「何をいまさら。
今までも、凄くがんばってるよ。
おかげで、ハヤテは喜んでたよ。
こんなにうまく要ったのも、全部、リイナのおかげだよ」
「じゃ、ご褒美があってもいいわよ・ね?」
リイナは、最大限の勇気をだして、心のままに想いをつげると、後ろに手を組み、目を瞑り顎をあげた。
ヒビキは、照れて頭を描いたが、横顔が、以前にみた夕焼けのリイナが重なり、その時とは違って、手の届くところに彼女がいることを感謝すると、彼女に近づいて行き、唇を重ねるのだった。
港では、二人の男女の顔が重なり、まるで映画のワンシーンのような風景が見え、誰もがうらやむ光景に見惚れていたのだが、男性のシルエットが光の粒子にかわり消えていくと、女性はその場に崩れていき、夕日が沈んでいくと、満点の星空の下、その姿は、より悲し気に涙を誘った。




