最終日 前半
ヒビキは、朝早くドアを叩く音で目が覚めると、眠気眼でドアを開けると、ハヤテが神妙な顔で立っていた。
「ふぁぁ~
早いね。お風呂への誘いかい?」
「え!?
あぁ、それでいいか」
「へんなの。
まぁ、いいや。
ここの大浴場は、大きいから、ゆったり入れるよ」
「そうなんだ。
それはいいね……」
ヒビキが、ハヤテを連れて、移動部屋に行き、大浴場の更衣室へ連れて行った。
流石に、陽が上がったばかりだったためか、使っている人間は皆無だった。
「いいねぇ、僕らだけだよ」
「うん、ありがたいよ」
ハヤテは、この後の話をどう告げていいか悩んでいたが、服を脱いで扉を開けると、広々とした大浴場に圧巻してで、この後のことなど、どうでもよくなる気分になっていった。
二人でお互いの背中を洗いおわると、奥の窓側に向かって歩いて行った。奥の優雅な景色を見ながら、肩まで漬かると、二人で並んで、温まっていった。そして意を決すると、ハヤテは、告げることに決めた。
「今日、夕方頃に、この世界から元の世界に戻ることになってるんだ……」
「どういうこと?」
「そっか……うん、
旅立つってことかな」
「そうなんだ、寂しくなるね」
「不思議に思ったりしないの?」
「出会いがあれば、別れは、あるしね。
きっと、また遭えるよ。
そんな気がするんだ!」
「そっか、
また、遭えたら、今度は、お礼させてよ!」
「うん、楽しみにしてるよ」
ハヤテは、思っていた以上にあっさりと受け入れた貰ったことに安堵したが、この後、奈々に告げないといけないと思うと、心が重たくなった。だが、今はそんなことを考えることをやめて、開放的な空間に心身ともに投げ出すことにした。
この後、一刻、何も話さないまま一緒にのんびりと入っていたが、誰もやってこなかった。
「さ、戻ろうか」
「了解。あと少しだけど、よろしく」
「うん、短い間になるけど、楽しんでいこうね」
ヒビキは、彼が言っていることが理解できなかったが、楽しんでもらうことが旅の目的だったと思いなおし、それであればいいかと納得していた。
ヒビキは、姫様たちに許可をもらってないことに気づき、あわてて部屋にもどち、服をきて、ロビーへと向かっていった。だが、飲みの会が終わったのが、ヒビキたちがお風呂に入る一刻前だったため、かなりの時間が経過したところで、ようやく一行が移動部屋から、やってきた。
「僕たちも、一緒に行かせてもらってもいいですか?」
「リイナから、聞いてるから、許可してあげる、なの」
エレメール姫が、にこやかに返答をしているのを聞いたヒビキは、だいぶリイナを気に入ってるんだろうと思い喜び、笑顔で姫にお礼を言うと、ハヤテと奈々の二人を呼びに行った。
ヒビキがハヤテの部屋に着きノックをすると、二人が手をつないで出てきた。ハヤテは、あの後奈々に別れの言葉を告げると、内容は理解できなかったが、別れが、どうにもならないことを悟り、涙がとめどなく出ていたのだが、彼女が落ち着くまで、胸を貸していた。
ようやく落ち着いたころに、ヒビキがちょうど呼びに来て、笑顔に戻しはしたが、目もとは晴れていた。
いろんなことを察したヒビキだったが、特に何も言わずに、姫様一行と行動を共にすることができることを告げ、二人の前をあるきながら、ロビーへと向かった。
「おまたせ、リイナ」
「あんまり、待ってないわ。
じゃ、姫様行きましょう!
今日も、どちらが多く倒すか勝負です!!」
「了解なの
今日は、負けないなの!!」
姫様は、一人で戦い続けて相手になる敵がいなくて暇だったが、遠距離攻撃ができるリイナが、自分より多く倒していくと、負けず嫌いから勝負を挑んだが、昨日は1階とも勝つことができなかった。
だが、長らく15階をクリアすることができず、しかも、行き当たりばったりで階を探索してたのが、リイナのおかげで簡単に次の階にいけ、難無く15階を通過できたことで、悔しさより、全幅の信頼を向けていた。
そして、、後5階で、故郷の王城に戻れることも判っており、負けたことなど小さなことだった。そのため、長い間の宿泊費用は、先ほど待っている間に、オオストラトが払って、引き払っていた。
「こっちなの」
エレメールの先導のもとダンジョンに到着すると、魔法陣待ちの行列ができていたが、彼女を見かけると、腫物をみるような目で見て、行列が二つに分かれていった。
リイナの横を歩いていたヒビキに、リイナが声をかけてきた。
「前もこんなだった?」
「そうだね」
二回目のヒビキは、通った道であったため、気にしなかったが、ハヤテと奈々は、嫌な視線に、居心地が悪く下を向いていた。距離はなかたっため、あっという間に、魔法陣に到着すると、みんながリイナにしがみついた。
「じゃ、行きますね、
帰還」
リイナたち一行は、光り輝くと同時に、視界がゆがんでいき、ゆがみが終わったときには、昨日の夕方に使った25階の魔法陣へと戻って行った。直ぐに外に出て階段を降りると26階へとたどり着き、リイナは、探索の魔法をつかい、階段の位置をつかんでいた。
「お疲れなの。
どっちに行けば、いいなの?」
「こっちですよ」
リイナは、エレメールの隣を歩くと、誘導をし始めた。長距離の敵は、リイナが魔法一発で倒し、稀に近距離で表れた敵は、姫様が大剣で切り刻んだ。今日も、エレメールの活躍の番は、あんまりやってこなかった。
ハヤテが、後ろからやってきて、ヒビキに近づくと、
「これは、戦闘といえるの?」
「まぁ、こういった戦闘もあるってことだよ。
楽でしょ。
30階のボスも瞬殺だから、観察してみるといいよ」
「そんなバカなことって……
10階のボス一体でも、あんなに、大変だったのに」
「まぁまぁ、間もなく、わかるよ」
ヒビキの言った後も、二人の驚異的な殲滅力をみせ、一回目にヒビキがダンジョン攻略で一緒に行った時の半分の時間で、30階のボス部屋までやってきた。
「この後は、姫様だけで、十分ですか?」
「任して、なの!」
前回、作戦を練ってみんなで挑んだが、一瞬で、姫様が全員を殲滅させ作戦を台無しにした。今回の旅の目的である魔王の引継ぎの条件は、一人でボスを倒すことだったため、中途半端に手伝ってもしょうがなかった。
ヒビキが、ドアを開けると、前回と同一の5体のオーガがおり、一番立派な一体は、奥で4体に守られるようにオーガジュネラルがおり、高そうな甲冑と立派なマントをつけていた。
そして、残りの四体のオーガウォリアは、色々な武器を持ち、銀色の甲冑を付けていた。ハヤテは、これは一体でも、苦戦するだろうといつでも、戦闘に参加できるように準備しはじめた。
エレメールは、一歩前にでると、片手づつ持っていた大剣を、両方ともオーガに向けて投げ付けた。
固まって様子を見ていたオーガ4体は、簡単に一本で二体づつオーガ貫き、残るはオーガジュネラル一体となった。
「えっ!!!」
ハヤテが驚いている中、獲物を持っていない姫をみて好機と考えた、オーガジュネラルはにやりとすると、ダッシュで姫様に向かっていった。
エレメールは、そんな様子に動じず、カバンから今まで使っていた倍以上の長さの大剣を取り出した。それは、長さ10メートル以上の大剣で、慌てて立ち止まり戻ろうとしたオーガジュネラルを、横薙ぎに振ると、鎧ごとバターのように真っ二つになって、光の粒子へと変わって行った。
「ぬはははは
正義は、勝つ なの!」
いいところをリイナに奪われたエレメールは、ここでいいところを見せるため、隠し武器を出して、周りを唖然とさせたかったのだ。
唖然としているヒビキたち一行をみて、エレメールが、大剣を拾って、バックしまいながら、ご満悦のもとヒビキたちに向かってVサインをだした。
「すごいな、あの娘。
絶対、敵にまわしちゃだめだな」
ハヤテが本気で驚愕していることで、一回目にエレメールをハヤテが圧倒していた事実を知っているリイナとヒビキは、お互いの目を合わせると笑い合った。
「あれ、なんかおかしなこと言った?」
「いや、ハヤテが正しいわ。
姫と戦っちゃだめよ、最強なんだから」
「そう、なの!
私は、大陸最強なの!!」
らんらんとまだ喜んでるエレメールを筆頭に奥の部屋の魔法陣に向かうと、そこには、金銀財宝などはなく、魔法陣が一つあるだけだった。
「さて、帰りましょう」
「はい、なの」
ヒビキは、全員が掴んだことを確認すると、魔法を唱えた。
「帰還」
ヒビキたち一行は、光り輝くと同時に、視界がゆがんでいき、
ゆがみが終わったときには、朝と同様に行列だった魔法陣に戻った。
まだ、外は、昼前だったため、太陽は真上に到達しそうで、日差しが眩しく全員が目をしぱしぱしていた。




