6日目 夜
道中は、敵よりもたくさんの冒険者がおり、待っている冒険者もいるほど、人で賑わっていた。
「さぁ、とっととボス部屋を通過して、帰ろう」
「「は~い」」
ハヤテとナナが、声を揃えて返事をすると、どんだけ、仲良しなんだよとヒビキが思いながら、どんどんと彼らの前を進んでいった。
以前に通ったこともあったため、隣で戦っている冒険者の横を通って、迷うことなくボス部屋の前まで来ることができた。ボス部屋に着くまで、だんだんと冒険者が減って行ったのだが、ヒビキは、二人を気にしていたせいで、微々たる変化に気づかなかった。
「さ、ここだよ。
ここも人でいっぱいだから、直ぐ、奥の魔法陣の部屋に行くよ」
「「了解!」」
ここも合うんだと思いながら、ボスの部屋の大きな扉を開けると、一回通った時は、様相が一変していた。以前来た時には、怪我もなく、元気な冒険者が壁に一杯いたが、今は、人数も半分もおらず、全員が傷だらけで、看病しているようにも見えた。
奈々は、大きな部屋をみてみると、敵は居ないものの、次に戦いそうなパーティを見つけられなかった。
「なんか、聞いてたのと違うわね」
「もっと、人で混んでるかと思ったけど、野戦病院みたいだね」
「あれ?
こんな感じじゃなかったのに」
ヒビキの言う通り、一度目に通過した際にお昼を食べたときには、勇猛果敢な冒険者たちが山のようにいた。だが、昼時に、姫様の戦闘をみて、自分も一人で戦えるのではないかと思った冒険者多数おり、無謀な挑戦により、パーティにも影響が出ていた。
「こんなじゃ、なかった気がするんだけど……」
いくら考えても答えがでないヒビキが悩み立ち止まっていると、入口で休んでいた傷だらけの冒険者が、話しかけてきた。
「まもなく、ボスがでるが、
お兄ちゃんたち、戦ってみるか?」
「いいんですか?
あぁ、さっきから、挑戦する人も減ってるし、誰も文句言わねぇよ」
「どう、ハヤテ、やってみる?
なんなら、私が手伝ってもいいわよ」
「うん、きつかったら、頼むよ」
「ハヤテ、気を付けてね、
受けちゃ、駄目だからね、オーガの時のように、
動きをみて……」
最後まで、ヒビキが助言をいうことはできず、3メートル程の大きな巨体のミノタウロスが現れた。
「ヒビキ、オーガなんか比べられないくらい大きいじゃないか!」
ハヤテは、文句をいいながら、オーガの時より、一メートル余計に距離をとって臨戦態勢たが、ミノタウロスは、頭の上で戦斧を振り回していたのを、横殴りにハヤテに斬りつけてきた。
急な一撃のため、対処が遅れ剣で防御すると、戦斧の勢いのまま真横に吹っ飛ばされたが、奥にいたナナが、吹っ飛ばされる方向を予測し、吹っ飛んだ先でハヤテを抱きかかえ、足を引きづられながらも、勢いを止めることができた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ、ナナ。
次は、もっとうまくやってみる」
その間、注意を引き継がせるため、ヒビキが、火玉を放ったが、腕に当たって、少し黒くなっただけで、ダメージは皆無だった。
「さ、ハヤテ、頑張って!」
ハヤテは、ヒビキと入れ替わるように前に立つと、剣を構えた。
その直後、上段から、勢いよく戦斧が降りかぶされると、一歩大きく斜め前にでて、オーガの腕を切った時のように、ミノタウロスの右手の手首に斬りつけたが、太い骨にガチリと鈍い音がして、斬り飛ばすことはできなかった。
それでも、右手は大きなダメージを負い、強烈な雄たけびをミノタウロスが上げると、周りにいた冒険者たちは、体を硬直した。
ミノタウロスが、周りと同じように硬直したハヤテに向かって、必殺の大振りの一撃をハヤテの頭上に振り下ろそうとした瞬間、硬直がとれ、前転させて、ミノタウロスの右わきを抜けていった。
「獺睡残鳳刃!」
右脇を抜ける際に、袈裟斬り太ももに大きく一撃を入れると、ミノタウロスは、バランスを崩し、その場に片膝を着いた。
ハヤテは、一瞬の好機を見逃さず、前転した直後に立ち上がると、剣を左手で逆手にもち、右手を剣の柄に合わせると、背後から、背中越しに心臓めがけて、刺突を行った。
「背鹿角殺必突!」
体全体の体重を剣に乗せ、斜め上方に突き刺した剣は、中央にあった魔玉を貫き、ミノタウロスは、光の粒子へと変わっていった。
「見事だったわ、ハヤテ!!
最初は、冷や冷や心配したけど、余計だったわ!!」
「もう、僕よりも強いかもしれないね!」
「そんなことないよ、二人とも」
三人が喜んでいる中、戦いを見ていた冒険者たちから、拍手や喝采が起こり、ハヤテは照れたことで、頭を描きながら、嬉しい気持ちのまま、直ぐにその場を後にすることにした。
「さぁ、帰ろう、ヒビキ。
すごい楽しかったよ。ミノタウロスも倒せたし、満足だよ」
「うん、それはよかった。
じゃ、奥の扉だよ!帰ろう」
「そうね」
3人は、他の帰る冒険者と合わせて、奥の扉を開けて、魔法陣の前にたった。そんな様子を見ていたパーティの一組が、声をかけてきた。ピンチで魔法を使いすぎてしまい、魔法使いのマナが切れて、帰れなくなったパーティで、一緒に帰ることになった。
「みなさん、僕につかまってください」
ヒビキが魔法陣の上にたち、全員に掴まるように指示をすると、彼らは返事をし、各々が思うような掴まり方をした。全員が掴んだことを確認すると、ヒビキは、魔法を唱えた。
「帰還」
ヒビキたちは、光り輝くと同時に、視界がゆがんでいき、ゆがみが終わったときには、お昼に使ったときよりも、周りには人が少なかった。あたりは、真っ暗で、夕闇が辺りを包んでいた。
「ありがとうございました」
「いえいえ、困ったときはお互い様だから」
冒険者たちは、お礼をいうと、そのまま宿のほうに向かって行った。
ヒビキは、正反対の姫様たちがいるであろう酒場に向かって歩き出した。
「どこに向うの?」
「リイナがいるかもしれない酒場だよ。
お腹すいてるでしょ!」
「うん!!」
3人が、向かった先の酒場は、冒険者で賑わっていたが、奥は比較的に空いていた。悪名高い姫様一行がおり、関わり合いになりたくないため、空いていたのだった。そんな、姫様たちは、既に出来上がっており、他の冒険者はより怖がって更に距離を開けていた。
そんな彼らに、3人はゆっくり近づいて、同一のテーブルに座り始めた。
「ヒビキ、お帰り。
どうだった?」
「うん、順調だったよ」
ラッパ飲みしている姫様たちのテーブルには、大量の料理が来ており、ほとんどが手うを付けられてなかった。3人はお腹が空いていることもあり、置いてある料理に手を付け始めながら、これまでのことを話し始めた。
「へぇ、色々行ってたのね、
お疲れ様」
「リイナのほうは、どうだったの?」
そして、3人は、テーブルの葡萄酒から、お酒を注ぎ乾杯し、リイナの話を聞き入った。
リイナ達、お姫様一行は、リイナのナビによって、順調に15階までいったところで、心配をしていたヒビキは、口を出さずにはいられなかった。
「で、巨大スライムは、どうやって倒したの?」
「ああ、簡単だったわ。
炎耐性を聞いといてよかったわ」
「そうなの?」
「ええ、氷か雷かどちらの魔法を使うか、迷ったけど、
氷で固めたら、姫様の一撃で木っ端みじんだったわ」
「そうなんだ、じゃ、ほんとに、楽勝だったんだね」
ヒビキが相槌をうっていると、二人の人影が目に入ってきた。
「そりゃ、姉さんはすごいもの」
「こりゃ、あんちゃん、二人の邪魔しちゃ駄目でしょ」
リイナの妹のアンナは、幼馴染のアドアに連れられて、また、奥のテーブルで、飲み始めた。
「ふふふ。
嵐のように来たわね」
「だねぇ」
ヒビキとリイナが仲良く今日あったことを話していた隣では、奈々とハヤテも今日あったことを楽し気に話しており、一刻もすると、次の日の話に話題は変わっていった。
「明日は、ハヤテは、どうしたいの?」
「ナナと一緒であれば、どこでもいいんだけど……」
奈々(ナナ)は、気持ちよく酔っていたせいで、ハヤテの曇った表情が読み取れなかった。
そんな会話を耳にしたヒビキが、リイナに質問をすることにした。
「今日は、どこまで、いけたの?」
「25階で戻ったわ。
姫様たちは、今日、最後までいくより、飲みに行きたかったみたい」
「そうなのじゃ、
ようやっと、15階を過ぎたんで、嬉しかったのじゃよ」
「すまんでござる。
親父殿、邪魔をせず、あっちで、飲みましょう」
ドワーフ国の近衛騎士長のオオストラトと息子のエドワードが、お姫様のエレメールのところに向かっていった。
「じゃ、僕らも25階から一緒に行って、最後は、聖都にみんなで向かおうかな」
「それは、いいかもね」
ヒビキが、リイナと目的先を決めると、ハヤテのほうに向きなおした、
「どう、ハヤテ?」
「いいよ、それで、
あと、後でヒビキに話があるんだ」
「え?今でも、いいけど。」
「あとで、相談するよ」
「わかった。そろそろいい時間だから、宿に戻ろうか」
「じゃ、リイナ。
また、明日」
「じゃね」
リイナ達は、この後、姫様たちが倒れるまで飲み続け、ホテルで一番大きな姫様たちの部屋に泊まった。ヒビキたちは、姫様のパーティにおらず活躍もしていなかったため、同じ部屋で泊まることはせずに、同じホテルの個室の部屋を3つとって、各々で眠ることにした。




