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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活2日目:城下町


 チチチチチチュルルリリリリリ……

 チチチーチョチョチチチーチョチョチチチーチョチョ…… 


 陽平は、日の光と鳥の声で目を覚ました。なんと健全な生活だろうか。

 むくりと起き出し、牛乳を沸かす。昨日、エリーに火打ち石を作ってもらった。正確には火打ち石と言っていいのか不明だが、2つの石を打ち合わすと、火花が竈に目掛けて飛び、容易に薪に火が付く。石には何やら文字と小さな模様が刻まれていた。火をつけろ、と言う意味らしく、模様は竈をイメージしたそうだ。

 やり方はオリジナルとのことで、この世界での魔法には決まり事は無い様だ。エリーの擬音の多さや大雑把な動作や説明を鑑みても、内で練る完成形のイメージの方が重要なのかもしれない。


 ちなみに、陽平も、指を鳴らしてみたり燃えろ!と唱えてみたりしたが、うんともすんとも言わなかったので、折を見てきちんとエリーに師事するつもりでいる。


 ジャガイモを刻んで少量の水に塩を加え茹でる。同時に、キャベツと思われる物を適当に切って茹で蒸す。(どうにも硬くて生では美味しく食べられそうになかった。)ジャガイモの水分が飛んだら、これまた昨日作ってもらったすりこぎで潰していく。牛乳を加え混ぜると、防腐庫から卵を取り出し、平鍋に油を引いて目玉焼きを作る。牛乳をマグカップに注ぐと、各々の大皿にすべて盛りながら、エリーを呼んだ。

 2日目にして、少しづつ魔法の使えない自分の為の物が増えている事実が気分を良くする。


「いいにおいがするぅー……」


 幼い物言いでのそのそと起きてきたエリーは、キッチンで口をゆすぎ顔を洗う。なんだろう、着崩れた衣類も相まって、あまり見てはいけないような気になり目をそらし、先に席に着いた。



「ヨーヘイは何でこんなに料理出来るの?」


 ゆっくりと食事をとりながら、エリーは不意に疑問を口にした。


「え?ああ、一人暮らしが……を、するための準備で、家事を習っていたので。」


 慌てて、訂正する。既に長年一人暮らしだったなんて知られたら、この家から放り出されそうだ。

 日本ならば問題無いだろうが、右も左も分からない異世界では無事に済むとは思えない。


「へえ、その年で。まだ数年早そうだけれど、次男か三男かで早く家を出ろってとこ?」


「ああ、えーと、……上には居ないんですが、妹が、居ます。妹の方が優秀だったので。」


 上手い嘘をつこうと思ったが、思い浮かばなかった。完全な作り話では綻びも出るだろうし、事実を少し改変すればいい、と自身を納得させて説明した。

 少々憐れむ様な目線を受けるが、事実だから仕方ない。


 陽平には実際に2歳下の妹が居て、妹の方が優秀だった。昔から授業を受けただけである程度の成績がとれたし、家での自学自習も「新しい事を知るのが楽しい」と進んでやっていた記憶がある。

 高校時代は陽平の影響で漫画に目覚めて少々勉強が疎かになり、第一志望の大学には受からず一浪したものの、結局有名私立大学に合格して、現在都庁勤めだ。しかも、その後は2年目にして、関連部署のとりまとめや新人教育、会議の議長等複数の役割を任され、3年目には本庁勤めになっていた。


 自分は、なりたくて介護士になった。両親共働きで、物心つく前から高校に上がるまで祖母に育てられ、その際曾祖母の世話をする祖母を見ていた。

 小さい時分に曾祖母は亡くなったので、それほど長い記憶ではないが、子ども心に、育ての親である祖母もやがて他人の世話を必要とするのであろうことを感じた。そして、もしそうなるなら、自分がその役を担いたいと思ったのだ。

 陽平は祖母が大好きだ。はっきり言って、理想の女性像だ。頭がよく穏やかで上品で、社会経済にも精通した祖母は、世が世ならキャリアウーマンとして確固とした地位を得ていただろう。美人だし、声も高めで澄んでいる。そして、綺麗好きで料理が上手い。そんな祖母にくっついていたくて、小さい頃から台所仕事も手伝っていたので、料理も好きになった。


 話がそれてしまった。

 幸いにして陽平が日本に居た時点で祖母は健在だったが、辛い事や嫌な事も多いものの、介護士という職にはやりがいを感じていた。

 しかし、どうしても、妹と比べてしまう小さな自分が居るのだ。

 妹に言わせれば、「やりたい事が明確にあるってかなり羨ましいよ」との事だが、時々、出世の道を進む妹に劣等感を感じてしまう。つくづくちっぽけだ。


 思考を飛ばしていた陽平をどうとったのか、エリーは話題を180度転換した。


「今日は、毛皮と肉を売ったら、まず服を買おうか!ね!やっぱり下着は7着は欲しいし、服も多めにあるに越したことはないよね。そのうち、寒くなった時の服も買おう。毛皮は調達するとして、ね。」


 下着7着って、あの洗濯物の山は1週間分だったのか。というか、ここでも日付の単位は7日で一括りなんだろうか。


「こまめに洗うんで、そんなに要らないですよ。でも、ありがとうございます。」


 とりあえず、笑顔で応えた。何はともあれ城下町だ!

冒頭の鳥の鳴き声はヨーロッパコマドリ、2番目はアオガラです。

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