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師匠と疫病3

 朝、目が覚めると隣に金髪グラマー美女が寝ていた。

 なんと幸せな夢だろうか。

 バッ!と勢い良く体を起こして気付く。

 昨夜はあまりにも疲れていて、二人に用意されたのが一部屋だったことも全く疑問に思わず、倒れこむ様にして眠ったのだった。


 特に何もなかったのだ、と少々残念な気持ちになりながら、陽平はベッドから降りて身形を整える。

 チートなエリーでも疲労が酷いのか、そんな陽平の動きにも目を覚ます様子がない。

 一先ず外の様子を伺おうと扉を開けると、そこには惨状が広がっていた。


 これは、やはり。


 陽平の後ろで身動ぎをする音が聞こえた。


「んんー、う、よーへー、さむい。」


 可愛い。エリー可愛い。舌ったらずな口調可愛い。10歳年上とか関係ない。

 じゃなくて。


「あの、エリー、外が。」


 そこには死屍累々と言った様子で兵らが転がっていた。

 斧や鎚を持つ者も居れば、魔法使いだろうか、杖を持った者も居る。

 転がっている割りに特に傷を受けては居ないらしかったが、蒼い顔で眠っている。


「ああ、こりゃまずい。ヨーヘイ、暖めてあげて。」


 バッ!と鞄に駆け寄り、箱を取り出すと、中の炭で兵らを囲むように絨毯に円を描く。そして、その円の中に、“夏になる”と書いてみる。“sumar()”ではなく、岩盤浴、サウナ、など書きたかったが、単語を知らない。


 衣擦れの音から、エリーがベッドから起き出し身支度を整えているのが伺えた。

 エリーなら一発なのに、と責めるような考えがもたげて、なんでもエリーに頼るのが普通になっている自分を情けなく思いながら、陽平は、これで成功するだろうかと眠り続ける人間らを見つめる。


「どう?」


 エリーが背後に立つ。丁度、皆の頬に赤みが戻りだした頃だった。


「やるじゃない。上手いわね。」


 褒められて急上昇する気分に、我ながら単純だ、と呆れつつ、陽平は応える。


「ありがとうございます。これ、どうしたんですか。」


「眠ってるのを邪魔されたくないから、部屋に呪文を書いといたのよ。外部と内部を隔離して、一定以上危害を加えると眠っちゃうの。でもって、癪だから、攻撃した奴らを助けようとしたのも眠る様にしといた。」


 なるほど、昨夜、重そうな瞼を必死で開けつつ凄い目つきでエリーが扉に何かしていたのはそれだったのか。話しかけられる雰囲気では無くて、触れないようにしていたのだが。


 ふと顔を上げると、少し離れた位置にも人が転がっている。呪文の作用範囲外から助けようとした魔法使いだろうか。杖を掲げた格好のまま眠っている。陽平は慌てて駆け寄り、一人一人に先ほどの呪文を施した。

 今は真冬だ。しかも、日本以上に気温が低いように感じる。この気温の中眠り続けては命にかかわるだろう。魔法使い達の頬に朱が差すと、ホッと息を吐く。


「攻撃してきた奴らなんだもん、そんな焦らなくてもいいんじゃない。」


「本当にそう思います?」


 寝起きで少々不機嫌になっているエリーに返すと、バツが悪そうに目を逸らされた。そんな子どもっぽい様子も可愛いと思っていると、動きを察したのか鎧に身を包んだ兵士らが集まってきた。


「何をしている!歓迎し城にまで招き入れた相手に暴虐を尽くすなど許されると思うなよ!」


 そっくりそのまま返したい。国を救う英雄に夜襲なんて何してんだよと。

 頭に来て、新たに加えた翻訳首輪の拡声機能を入れ陽平が言い返そうとすると、エリーが静かにのたまった。


「出ていくことにしたから、安心して。」


 兵に交じる魔法使いらが狼狽えている様子が見える。

 それはそうだ、まだこの国の全域の感染症対策が済んだわけでは無いのだ。残り全て、自分たちが対応しなくてはならないことを意味する。エリーとの力量の差は、自分たちが一番良く分かっているはずだ。

 しかし、声を上げた兵士がこの場で最も権力を持つのだろう、止める事も出来ずに、頼むからこれ以上刺激しないでくれと言いたげに見ている。


「これだけの事をして、何の咎めも無く出ていけると思うのか!」


 いやだから、こっちのセリフだと。面倒そうにエリーが手を振ろうとすると、その兵士は更に続けた。


「もし今回の事を問われたくないのなら、昨日の大袋を置いていけ!」


 底意地の悪い笑みを湛えて得意げに言い切った兵士に、2人とも苛立ちを隠せない。

 エリーが途中まで挙げた手を振り下ろすと、一人の魔法使いが目の前に現れた。向こうの集団の一人だ。

 顔を恐怖に歪め、身を守ろうとするが動けない。助けに入ろうとする兵士らも動かない様子から、そちらもエリーが地面に縫い付けてしまったのだろう。恐怖と罵倒の声が溢れる。


「あの大袋は、口がゲートになってるの。片方が上流に、片方が下流に繋がるようにしてあって、どちらにも通る際に浄化の魔法がかかるようになってる。それから、上流の方は下流に向かう様、下流の方は上流の物を吸い込むようにしてある。あなたたちにも作れるわよね?」


 呼び寄せられた魔法使いは、必死で首を縦に振る。


「あとは、お願い。下流に流すときにも、これ以上被害が広がらないよう、浄化してから戻す様にしてね。絶対。」


 エリーが疲れたように笑うと、その陰のある美しい笑みに見惚れた魔法使いは、頬を染めた。

 イラッとしながら陽平は、戻りましょうと声を掛ける。

 部屋に戻り、元々さほど広げていなかった荷物をまとめ、防護服を着、眠った人々の呪文を解いて、二人窓から次の国へと飛び立った。

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