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師匠と疫病2

1ヶ月近く経ってしまいました。待っていてくださる皆さま本当にありがとうございます。お忘れの方も多いでしょうし、あらすじ。

周囲の国々で疫病が蔓延し、徹底的な対策措置で食い止めているエリー達の国に疑いの目がかかり、また、そこから飛躍してエリーが元凶と言う噂が国内外に広がってしまい、2人は国外に疫病退治に出ました。

「俺たちはここに、助けるために来たんだから。」


 陽平の言葉を合図に、エリーがスウと陽平から離れた。

 情けないが、エリーが離れると途端に心細くなってくる。何百と言う敵意の目と向けられる刃。陽平が過ごした平和な過去には凡そ経験したことが無いものだ。それに、陽平にはエリーの様に自由に使える魔法は無い。


「大丈夫、大丈夫、」


 無意識に小さく声が漏れる。

 空中で軽く膝を曲げ重心を変え、下に集まる軍隊に近づく。見た目は悪いが、防護服に施した飛行魔法の関係上、考えただけでは動けないから仕方がない。そんな不格好な動きにさえ怯む様子を見せる群衆が少々哀れになる。


 エリーが通りの端に到着し、腕を振るうのを合図に、陽平は持っていた布袋の口を広げた。


 ドオオオオオオオオオオオオオオ


 轟音と共に水の塊が飛び出し、群衆を襲う。慌てふためき逃げようとするが、エリーの魔法で動けない。大通りを大量の水が飲みこんでいく。

 陽平は、水圧の余波に飛ばされまいと重心を前に向けて必死に踏ん張る。

 そして、口を閉じる。水の流出が止まる。

 水流はエリーの下まで到着すると、重力を無視してエリーの持つ布袋に吸い込まれて消えた。


 呆然と見上げる人々と、びしょびしょの通りが残された。全員に掛けられた固定の魔法で溺れる者は居なかったし、水の勢いとしては水圧の影響はさほど無いはずで、頭まで浸からない様にもしたはずだったが、水に飲まれるのは恐怖でしかなかったのだろう。へたり込む者以外に動く者が居ない。


「あー、あー、えー……、諸君!私は黒の森の魔女である!今、この通りは浄化された!もしこの後この通りに汚物を投げ捨てる者が在れば、すぐさま今の水に飲みこまれるであろう!」


 静まり返った街に、エリーの声が響き渡った。

 群衆がポカンと口を開けてエリーを見上げる。


「軍の者よ!ただちに汚水路を整備したまえ!魔法使いがこれだけ居るんだから出来るでしょう!」


 あ、口調戻った。陽平から笑みがこぼれる。張り詰めた糸が途切れ、やっと呼吸が楽になった気がした。

 陽平はエリーの元へと飛行する。


「今から私の相棒が浄化水を配ります!街の皆さんは桶を持って集まり、それを患者に飲ませてください!飲めないほど酷い者の所には直接伺います!家屋内の浄化にも使用してください!」


 勝手に話を進めるエリーに反発した軍の人間が再度矢を構えようとしたところに、1人の少女が転がり出てきた。


「お母さんを助けて!」


 エリーがすぐさま少女の所へ飛ぶ。阻止しようと飛ぶ矢を手の一振りで退け、少女が出てきた家屋に消えた。その様子が聞こえたのだろうか、ぽつぽつと陽平の元に人が集まり始め、やがて軍人らを押しのけながら街道にあふれ出し、大混乱が起きてしまった。拡声魔法を使えない陽平は必死に声を張り上げ、広場まで住人らを引っ張っていく。


 陽平が持つ布袋は袋ではなく、川に繋がるゲートだ。そこを通ることで浄化の魔法がかかる仕組みで、浄化水が尽きるという事は無い。しかし、住人にはそんなことは分からない。必死に説明しようにも大騒ぎの中ではかき消されていく。説明する前に動かねば、と、布袋の口を軽く開け、住民が持つ桶に向けて水を放出していった。水の転送元の流れは緩やかな場所を選んである。多少体に当たっても問題無かろう。

 自身に水を被ることも厭わず、群衆は桶を上に掲げる。陽平はやけくそになりながら、空中で水を撒く。


 と、青い顔をしていた者の表情に色味が差すのが見えた。本人も体の変化に気付いたのか、笑顔になる。正直、通りの悪臭は酷いものだった。通りに投げ捨てられ腐敗した汚物の臭いは防護服越しにも気分が悪くなるもので、きっと流行していた感染症以外にも何かしら疾病の媒介になっていたのだろう。

 そうした住民の変化に励まされながら水を配り終えると、街道に残ったエリーの元へ戻り、エリーの浄化巡りを補助した。


 そうして2人は場所を移しながらの浄化の旅を始めた。


「エリー、お疲れ様です。いやあ、予想以上の大騒ぎでしたね。」


「そりゃあそうよ、大分大雑把な作戦だったもの。ヨーヘイ、“汚いなら流しちゃえばいいじゃん”くらいに提案したでしょう。」


 自分の安易さを指摘され羞恥心が湧く。


「ヨーヘイって結構そう言う所あるわよねえ。」


「悪かったですね。」


「悪くないわよ、だから面白いんじゃない。」


 ニッ、と無邪気な笑顔を陽平に向ける。エリーはこうやって、手放しに人を褒め、心からの笑顔を向けるのだ。それが好意を持つ人間にとってどれほど残酷な事か分かっているのだろうか。

 陽平は胸が締め付けられるような甘い痛みを感じながら、照れ笑いを浮かべた。


「へいへい、お褒めに預かり光栄ですー。次急ぎましょう。」


 城下町と異なり家々の作りがしっかりしていない土地では、流す水の量が限られ注意が必要だった。特に、スラムの様な貧民街では尚更で、住民らの状態も酷く、エリーの疲労も蓄積していくようだった。町の守備の魔法使いも派遣されていない為、下水道を作らせる事が出来ず、一度城下町に戻って何人か攫い肥溜めの様な浄化槽を作らせると言う強硬手段を取った。

 しかし、日が沈み始める頃、今日はこれ以上活動出来ないと成った頃、城下町から攫った魔法使い当てに連絡があり、城に迎えられ泊めて貰えるという話になった。


「罠でしょうか。寝首を掻くつもりとか。」


「いいよ、そうなったら私が全滅させて城を奪い取って寝直す。もう疲れた。明日の為には良いとこで休む。」


 疲れ切った2人は馬鹿正直に城に向かったが、歓待されて面食らう。豪勢な食事を用意され、毒でも盛られているのかと思えば、国王直々に謝礼の言葉を頂き、食事を楽しみ、湯あみまでして客間に通された。こんなにも素早く掌を返すものかと疑心暗鬼になるが、疲れの方が勝って、2人とも泥の様に眠るのだった。

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