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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活の始まり3

 陽平は、薪用の丸太から洗濯板を作ってもらい、“飛ばし”渡された石鹸を使って洗濯を始めた。

 普通の洗濯板より力が要らない。

 始めは少々遠慮があったが、山を崩していく内にそれも気にならなくなる。


 日本での陽平の職は総合病院の介護士だった。それなりに大きな病院で、今年で勤続10年目。

 世間の意識の変化を受け、入浴介助等、男女とも医療職と患者との性別差へ配慮は厳しくなっていたが、働き始めた頃はそうでも無かったし、スタッフの手が足りない時など、そうも言っていられないわけで。

 しかも、実家に居た頃、両親共働きのため家事を分担していたのだが、ズボラな妹は洗濯が大嫌いで、自分の担当だった。と言うか、思い起こせば、妹って何を担当していたんだっけ……

 まあ、つまり、女性ものの衣類を洗う事など、正直何でもない。ごめん、ちょっと最初はドキドキした。これからはしないから許してほしい。本人には死んでも言わないけれど。陽平は頭の中で言い訳する。

 

 それに、エリーは陽平を『12,3歳』と推定した。欧米人から見ると日本人は若く見えるらしいし、この世界もそうなのだろう。多分、エリーは陽平を異性として意識していないのだ。“子ども”という括りだ。ならば、こちらもそのスタンスに乗っかるべきだ。居候の身なのだから。


 洗濯を終了すると、エリーに声をかける。物干しは、狼の毛皮で塞がっている。魔法で乾燥してもらうのだ。陽平は、魔法の便利さに感嘆する。早いところ、自分も魔法を覚えたい。


「ありがとー!洗濯って本当疲れるわよね。面倒だし。」


「魔法でも疲れるんですか?」


「そりゃあそうよ、集中してると身体が固くなるし、力が抜けていくのも早い気がするし。バーッ!とした魔法なら良いんだけどね。スッキリするし力も抜けないし。あと、新しい魔法を考えるのは好き。でも、同じことの繰り返しって飽きない?」


 まあ家事って大体そんな物だからな。と、陽平は納得する。なんとなく、エリーの性格を掴めてきた気がした。口ぶりからして、身体が固くなる、と言うのは肩こりのことかもしれないので、もう少し打ち解けてきたらマッサージでもしてあげよう、と決める。中学までは祖母に預けられており、肩もみなどもしていたので得意だ。


 一通り狼の解体が終わると、エリーは思いついた様に問う。


「これ、使える?」


「え?」


「夕飯。」


「えっ!」


 慌てて調理経験が無いし自信も無いと断る。何と言うか、見た目がダメだ。巨大で牛程もあるが、見た目は完全に犬だ。犬食の文化は知っているし、肉食する人間が頭ごなしの否定をすべきでは無いと思っているが、正直自分が食べるとなると抵抗感がある。それに何と言うか、周囲に漂う臭いからして、肉自体も獣臭さが強そうだ。


「うーん、せっかくだし試してみましょうよ!いっつも乾燥させて毛皮と一緒に行商人に売っちゃうけど、食べる国があるらしいし。」


 結局鶴の一声で、涙目になりながら調理する羽目になった。

 初めての狼?肉は、心労の味がした。


 日もだいぶ傾いていたので、そのまま夕食の支度にかかり、ニンニク、生姜、ポロネギの様な物、ローズマリーなど、臭み消しになりそうなものを大量に合わせ、塩を振って寝かせる間、野菜でスープを作る。

 正直、肉は寝かせたままにしておきたいが、油を引いて丁寧に火を通した。煮込みにしたら他の具材も食べられなくなりそうで、焼くことにしたが、失敗だったかもしれない。部屋中に臭いが満ちる。

 主食の準備まで気が回らず、防腐庫にあった黒パンを添えた。

 「なんだ!全然臭くないのね!」とこちらの心労も知らずエリーは満足そうに食べてくれたが、陽平は、僅かに残る臭いに精神的に攻撃を受けながら完食した。


 ちなみに、涙ながらに訴えて、その日の夕食に使用する分以外は全て乾燥肉にしてもらった。

 解体場となった中庭だが、そこもエリーによって難なく清められた。

 エリーが大きく腕を振ると、小川の水が氾濫し、綺麗に血を攫って元の流れに戻っていった。


 明日は、毛皮と肉を売りに行くということで、初めての城下町訪問だ。着替えや寝具も購入予定で、落ちていた気持ちが緩やかに浮上する。

 初日からいろいろなことが有ったのだ、少々観光気分になったって罰は当たるまい。

 どうやって汲み上げているのか不明だが、壁に固定された蓮の花托状のシャワーを借りて身体を清め、わくわくしながらソファに身を沈めた。瞼を落とすのと意識が落ちるのに差は無かった。

 

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