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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活の始まり2

 二人で席に着くと、エリーはパチン、と指を鳴らした。

 途端、マグカップからボコボコと気泡が弾けた。陽平が目を覚ました時から一口も飲まれず放置されていた物だが、用意したての様に湯気が立つ。匂いと色から、牛乳の様であった。


「豪華ねー!」


 陽平は、自分の今後がかかった(と勝手に思い込んでいる)料理の評価の如何にハラハラとエリーを見つめる。


 エリーはきらきらとした目をしながら肉にナイフを入れ、一口食べたかと思うと、無言で次を切り取り、次から次に口周りを汚しながら大きな塊を頬張り始めた。そうして野菜、芋玉と休むことなく口に入れていく。

 エリーの頬をツ、と一筋の雫が伝う。


 突然の涙に慌てた陽平は、勢いよく立ち上がった。


「美味しい……」


「え?」


「ちゃんとした料理だ……」


「……」


「しかも、なんか懐かしい気がする。」


 オーバーリアクションに少々引いてしまったが、続いてじわじわと喜びが胸に広がっていく。涙ながらの言葉なのだ、偽りでないに違いない。


「台所には、食材も、調味料も、香辛料も揃っていましたけど……」


「ズッ、グスッ、あれはさー、あれがあれば美味しいのが出来ると思ったのよね。」


 あー、よくあるやつ……


「焼いても煮ても、なんか足りないし、でも色々入れても結局変な臭いになったり、逆に全然変わんなかったりして、もう何年も塩くらいしか使ってなかった。何か売りに行くときくらいしか食堂にも行けないし。」


 変に気負ってしまっていたが、エリーはあまり建前だとか計算だとか考えないのかもしれない。つまり、自分は実際に必要とされていたのだ。そう気付いた陽平は、命の恩人で、これからお世話になるエリーが不自由なく、思う存分魔法の研究をできるよう、そして、日々健やかに暮らせる様サポートしようと心に決めた。


「次も、美味しいものを作れるよう頑張りますね。」


 久しぶりに、仕事以外で人と共に摂る食事は温かい味がした。



 食事を終えると、エリーの仕事の手伝いをすることにした。

 キッチン脇の扉を出ると、2メートル四方程の別棟が見え、その下を二股に分かれた小川が流れていた。


「ああ、そうだ、そこトイレね。隣がシャワー。……ちゃんと囲いを出る前に魔法で浄化する仕組みにしてるわよ……」


 陽平の目線と表情に気付いたエリーが答えた。


 中庭には巨大な狼の躯が3体横たわっていた。陽平がこの世界に転移した際襲ってきたそれだろう。もっと多数であったと記憶しているが、追い払う魔法を使ったような話しぶりだったことから、仕留める頭数を絞ったのかもしれない。


「解体出来る?」


「すみません。」


「いいよ謝んなくて。そうしたら、皮を剥いじゃうから、川で洗って。」


 てっきり中身だけ抜き取る様なホラーな魔法を使うかと思ったが、エリーは大ぶりのナイフで解体していく。ナイフの切れ味は魔法で強化しているのだろう、スルスルと刃を進めていくが、チートと言えどコントロールすることを考えれば手の方が楽なのかもしれない。


 トイレとシャワーに続く小川で皮に付いた血を流していると、成程、真下を通って反対側から流れ出る頃には透明な水になっていた。川下にろ過装置があるのか。

 血を落とした毛皮を木組みの物干しにかけると、次の仕事を探す。解体作業の方は手伝えないとして、山積みの洗濯物が気になった。これも、魔法で“まとめてジャブジャブ”するつもりだったのだろう。家事係としては請け負いたいが、女性物に手を出すのは気が引ける。


「あの、ししょ……エリー、アレは」


「洗ってくれるの?!」


 あ、全くの杞憂でしたね。首肯して洗濯物に取り掛かった。

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