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魔法学校生活7ヶ月と2日目:マンフレート教授の意外性

 結局陽平は一晩考えた後、ヴァーゲ教授の資料をありがたく頂戴することにした。


 教授が言っていたように帰れる方法が分かったわけではないし、分かったとしても帰るか帰らないかはその時に決めればいい事だ。選択肢が多いに越したことはない。

 帰る方法が見つかったなら帰らない言い訳が出来なくなる訳だが、何も分からない状況に留まって、いざと言う時に手遅れでは目も当てられない。


 とは言え、その日は教授が国の用事だか何かで不在で、実際に動くのはまた日を改める事になった。

 終日ヴァーゲ教授が不在だったため、その日の法学の授業は他で授業の無かったマンフレート教授の数学に変更になった。


 1年次の生徒の過半数は数学が苦手だった。また、苦手とまではいかない残りの生徒の中でも、数学が好き、積極的にやりたい、と言う者は少数派だった。

 陽平は、数学は得意では無いが嫌いではない。きちんと決まった解が在る事や、綺麗に整った式は美しいと感じる。高校時代の教師が、授業中何度“美しい”と言うか生徒に数えられる程度にはその言葉を連発していたので、洗脳に近いものも有るかもしれないが。


 正直に言って、マンフレート教授の授業は詰まらないのだと陽平は思う。

 詰まらないと言うより、8歳の生徒に対する授業としては難解過ぎるのだ。しかも、きちんと習ったかも怪しい数式を、分かっている事を前提にして応用の様な話を始めてしまうことすらある。

 そうして、多分2年次以降の、下手をしたらもっと上の学年で習うのであろう魔法円を書き出したりするのである。

 多分、マンフレート教授は数学を愛している。そして、生徒が理解できないことを理解できていない。

 分かろうとしていないとか、見下しているとか、そういう問題ではない。

 彼の中で、前提条件として話す内容は“分からないわけが無いくらい簡単”な物で、知っていて当然の事だから、もう生徒には十分説明した気になってしまうのだ。


 数学好きではないが苦手でも無い生徒が適宜指摘することで何とか授業として成り立っているが、そんなわけで、過半数が数学に苦手意識を持ってしまった。


 当然の様に、ヴァーゲ教授が入ってくる筈の扉からマンフレート教授が姿を見せ、“数学に変更”と告げた瞬間、生徒らは明らかに落胆して見せた。

 勿論、当てつけるつもりだった訳ではなく、むしろ失礼な事をしてしまったと皆慌てて姿勢を正したが、マンフレート教授はその様子に憤慨する事なく、軽く眉尻を下げ、教壇の脇に椅子を持ってきて座った。


「今日はひとつ、皆で話でもしようか。」


 その言葉に、生徒全員が目を剥いた。

 これまでにこの教授がそんな親近感を見せた事は無い。

 何を言い出すのかと生徒らが次の言葉を待っていると、教授はまた困ったような表情をした。


「あまり、君らが数学を好きでないことは知っている。私なりに面白くなればと説明しているつもりだが、研究生らにもしょっちゅう、授業が授業になっていないと指摘されるんだ。

 そちらは私の方で努力するとして、せっかくだ、本来数学で無かったこの時間を利用して、皆と関係ない話をしてみたい。」


 1年生らは、授業中の教授とのあまりの差に驚きながら、しかし、少なからず、この教授と歩み寄ってみたいという好意的な感情を覚えたようだった。

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