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魔法学校生活半年と2日目:上水道

「失礼しまーす!」


 陽平は、ヴァーゲ教授に一通り上水道の構想と水道管の強化方法を伝えた。

 と、説明が終わるかと言う所でエリーが教授室に入ってきた。

 特にお伺いを立てることも承諾を待つこともしなかったので驚いてそちらを見るが、視界の端のヴァーゲ教授の顔は落ち着いていた。


「紹介に預かりました、キルシュです!」


 いや、まだ紹介してない。陽平はつっこみたい気持ちを抑え、改めて教授に紹介しようとすると、「話は聞いていますよ。」と言う言葉が上がった。なんと対応力の高い人だろうか。


「ヨーヘイさんと一緒に、黒い森の魔女様の所にいらっしゃるとか。水道管の構造について、ヨーヘイさんより詳しいそうですね。」


「はい!この度は、上水道の構想をお話しする時間を頂き感謝申し上げます。」


 言葉は丁寧だが、遠慮なく勧められていないソファに座る辺りエリーの性格が出ている。キルシュはもう少しばかり“礼儀正しいいい子”のイメージだったが、猫を被るのが面倒になったんだろうなあ。

 そうして陽平が思考を飛ばす内に、エリーは熱く上水道と水道管の構想を説明した。


 曰く、各戸に水道が引ければ家人の生活や衛生面において大きな助けになろうこと。

 曰く、水道管には石やコンクリートでなく鉄管を用いることで、必要になる空間を抑え家の様な小さな敷地に対応出来るであろうこと。

 曰く、鉄管は、入水口に呪文を刻み水で管内を強化し出水口で解除・逆流防止することで劣化防止・水の汚染防止が出来るであろうこと。


 ほぼ陽平が説明していたが、教授は非常に興味深げに耳を傾けていた。


「素晴らしいわね。ぜひ役所の水道事業・城下町の管理をしている部門にかけ合わせてもらいたいわ。ただ、鉄管の強化について、管内のみでは外側から劣化していく可能性があるわね。」


 陽平とエリーは目を丸くした。そうか。水を供給する部分の事しか考えていなかった。2人して肩を落とす。


「ふふ、そんなに落ち込まないでくださいな。ここまで具体的に考えられていれば、表面の強化くらい国のお抱え魔法道具作成員がどうにかするでしょう。それで、商品を売る前にアイデアを私に漏らしてしまった訳だけれど、魔女様のお許しは出ているのかしら。」


 陽平とエリーが顔を見合わせる。

 途方もない規模だから、2人で商品化するという発想が無かったが、商品を売れなければ収益が発生しない。情報を売るつもりだったが、話す前に対価を貰う為の契約を結ぶこともしなかった。エリーの収入源は主に魔法道具や魔法薬だ。大事な、しかも大きな収入源を、2人はみすみす逃してしまった。


「そうしていると、可愛いわねえ。」


 バッ!と揃って教授を見る。


「もう25歳でしょう、今の時代、あと半分生きられるか、と言うところなんだから、もう少し強かになっても良いと思うわよ、と魔女様に伝えておいて。まあ、そこがエルフリーデ嬢の魅力では有るのですけれど。ふふ。きちんと、情報料は恩赦として十分お支払い出来るよう取り計らいますよ。事業での出費もあるでしょうし、今私は国の財政に関わっていないものですから、まだ具体的には提示できないですけれど。」


 からかわれただけらしい。エリーは少々不機嫌な顔をした。


「危急の対処事項として下水の方には取り掛かりましたけれど、上水はなんとなく“こういうもの”という先入観があったのよね。井戸内や汲み上げ時の防汚・浄化対策で満足してしまって。不思議だわ。隣の国の鉛管は取り入れる訳にはいきませんでしたし。」


「でも、うち……の魔女様のお母さまが、テミス先生のおかげで街がすごく綺麗になった、汚いままだと皆病気になっていたらしいし、テミス先生は偉い人なんだ、っていつも言っていたらしいですよ。十分凄いです。」


「ありがとう。では、もう一つ質問なんだけれど。各家々に水道を引こうと思いついたきっかけは何?」


「それは、ここに居るヨーヘイのおかげです!ヨーヘイは元々魔法が使えなくて、台所で水を使うときにいちいち水瓶で汲むのは不便だからと、狼の腸を水場まで繋げて、断続的に水を使えるようにしたんです!魔法が無いのにとても面白かったわ!」


 陽平は、興奮状態のエリーを途中で制止すること叶わず、言い切られてしまったところで軽くため息をついた。今日この教授にうっかりを晒すのは何度目だろう。

 この教授は小さな情報一つから何でも分かってしまいそうで怖いのだ。異世界人だとバレたら、と思うと不安になる。

 エリーがゆっくり陽平を振り返り、“またやっちゃった?”と言う不安顔をした。

 顔を背けた教授の肩が小刻みに震えている。絶対笑っている。


「んんっ。ヨーヘイさんの発想力は素晴らしいわね。まあ、城下町全体に行きわたらせる時には、汲み上げ箇所や給水口等に呪文を使用しましょうかね。今回は、本当に素敵な提案をありがとう。……また動きがあったらお声かけしてよろしいかしら。」


「はい、ぜひ。」


 2人揃って答える。

 笑顔の教授に見送られ、教授室を出た。杖を突く教授に、ここまでで、と断りを入れたのだが、その際にも教授は何か言いたげだった。

 口をつぐんでしまうことは分かっていたので、陽平は気にしない様にして背を向ける。

 そうして、なぜ異世界人だとバレてはならないと思ったのか、自身の思考に疑問を持ちながら帰途についた。

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