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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活の始まり

「乗った」


「っっし!」


 陽平は思わず脇腹の辺りでガッツポーズをした。これで、生活は保障された。しかも、自分も魔法使いになれるかもしれないのだ。喜ばずにはいられない。

 

 クキュールルル……


 と、腹の虫が鳴る。自分のものではない。


「あの、そうしたらまず何か作ります。助けて頂いたお礼に。」


「では、お言葉に甘えて。キッチンに有るものは使っていいわよ、特にこだわりも無いから。」


 ソファを降りエリーの後に続いてキッチンに入ると、陽平の目に山積みの食器が飛び込んできた。それも、使いさしの。石造りの水場に、無造作に置かれていた。

 陽平の目線に気付いたエリーは、気まずそうに言い訳する。


「あー、それ、まとめてジャブジャブしようと思っててさ。」


「ジャブジャブ。」


「そ、ジャブジャブ。」


 陽平がキョトンとしていると、エリーは一つ頭を掻き、食器に向けて手をかざした。

 途端、食器と石鹸が宙に浮かび、上水を溜めた巨大な水瓶から水の塊が引き寄せられたかと思うと、すべて包み込んでジャブジャブと洗い始めた。十分な泡が立つと固形石鹸だけ水の塊から飛び出て定位置に戻り、続いて水が水場に落ち、新しい水の塊が水瓶から食器に向かう。


 ……あれ?これ、俺、いらなくね?


 泡が流れ切ると、エリーが再度手をかざし、「乾け」の言葉と共に付着していた水滴が蒸発した。


 ……これ、確実に俺、いらなくね?


「お待たせ、それじゃあ料理お願いね。私、そう言えば朝採ってきた薬草放置してたんだった。」


 腑に落ちないまま、こくり、と首肯だけして料理に取り掛かろうとして、食材を探そうとキッチンを見渡すと、冷蔵庫の様な物が2つ並んでいる事に気づく。


「ああ、それ、左が腐らない箱で、右が冷たくなる箱と凍る箱をくっつけたヤツね。」


 とりあえず開けてみようとして左の庫の扉にかけていた手を引っ込める。

 後者は良いとして、腐らない箱ってなんだ。


「中の時間がゆっくりになる様にしてあるの。止まるわけじゃないし、開けている間は時間が普通に進むから、本当に腐らないわけじゃないんだけどね。」


 訝し気な顔をしていた陽平にエリーが答えるが、陽平の眉根は更に寄る。

 なんだよ、時間を操るってやっぱり魔女じゃなくて神様なんじゃないのか。


「……?まー、適当にやってー。危ない物は無かったと思うし。……あ。」


 パチン、と指を鳴らすと、竈に火が付く。


「ウチ、火打石が無いんだった。」


 ひらひらと手を振りその場を離れるエリーの姿を横目に見て、打ちのめされながら料理の準備を開始した。

 冷蔵庫の脇には根菜類が積まれ、ワインボトルの様な物が無造作に置かれている。

 冷蔵庫にはなんだか分からないが赤身の塊肉、チーズの様な乳白色の塊、果物、防腐庫(陽平命名)には葉野菜類と黒パン、油、穀物の粉が入っていた。食材は、日本で目にしていた物とそう変わらない。強いて言えば、形が歪だったり小さかったり、色が濃かったりするくらいか。

 磨かれた石造りの調理台上に並んだ瓶入り粉末や葉物を確認すると、塩、砂糖、胡椒、バジル、オレガノ、ローレル、タイム、ローズマリーと豊富な選択肢があった。蜂蜜と思われる物や、樹蜜の様な物まである。


 一先ず鍋に薄く水を張り、水桶で洗って角切りにしたジャガイモと思われる物も入れ、竈に吊るした。

 続いてもう一つの鍋に油を引いて竈に吊るし、塩を振った塊肉の表面を焼いていく。焦げ目がついた所で、水と赤い酒を注ぎ入れ、塩を足し、ローレル、タイムを入れた。匂いからすると、酒はやはりワインの様だった。

 続いて人参や玉ねぎ、ニンニクの様な物を洗い、適当に切って入れていく。炒め忘れたが気にしない。

 火にかけていたジャガイモをお玉の様な物の背で必死に潰し(マッシャーが無かった)、塩と穀物の粉(匂いは小麦粉の様だったが、少し茶の様な灰の様な色をしていて、パンも黒パンである辺り、ライ麦粉かもしれない)と混ぜて団子にし、再度水を張った鍋に入れて火にかけた。


 そうして、皿を準備した段階でエリーを呼ぶ。


「エリー……師匠ー?」


 ブッフウ!


 遠くで噴き出す音が聞こえた。確実に笑い上戸だ。箸が転がっただけでも笑うかもしれない。箸はないけれど。


「師匠はやめてよー」


 エリーは、キッチンカウンターとリビングダイニングの間に位置する扉から入ってくる。


「あの、一通り済んだんですが、エリー……先生の力を借りたくて。」


「エリーでいいわよ。」


「……じゃあ、エリー、時間を進める事って出来ますか?」


「うん、一部なら」


「そうしたら、この茶色い方の鍋を30分くらい進めて欲しいです。」


 エリーが手をかざすと、鍋から次々と気泡が弾け、良い香りが部屋に満ちていく。

 塊肉や野菜を取り出しスープごと皿に盛りつけ、芋玉を添える。


 料理しながら考えていた。きっと、エリーは自分が気を遣わないよう、あんなやり取りをして、自分に役割を与えたのだ。だって、エリーなら1人でもすべて簡単に、そして完璧こなせてしまう。それをわざわざ、魔法の使えない自分にやらせるのだ。

 それならば、相応の結果を返さないと。勢いで、昼から煮込み料理なんてしてしまったが、これからどうしよう。その前に、この料理は気に入ってもらえるだろうか。

 

 少々緊張した面持ちで、エリーと共に席についた。

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