魔法学校生活初日:この国の制度と魔法使い
ふと、陽平は気付く。
この子らは、自分の魔法傾向を知らない口ぶりで話している。
そう言えば、3年次に成ってから属性を把握していくと聞いた。
とすれば、この子らはどうやって魔法使いであることが分かったのだろう。
魔法使いであると判明した時点で、何らかの魔法を発動しているはずで、最初に発現したものこそその子に適した魔法では無いのだろうか。
「……あのさ、皆って自分の属性ってまだ知らないの?」
「そりゃそうだろ、3年になってから探してくって案内にあったろ。」
「でも、皆って魔法を使えるからこの学校に居るんだろ?その使える魔法で属性って分からないの?」
皆にまた呆けられてしまった。今日は世間知らずを暴露しまくっている気がする。
「ええとね、魔法が発動しても、例えばその時、発動したきっかけがあったなら、その事柄や物に引っ張られただけで、その人が一番得意な魔法ってわけじゃないかもしれないの。
魔力は人以外にも宿っているし、命の危機なんかだったら、それを回避するために必要なものを発動するだろうし。」
リリーが真摯に答えてくれた。ありがたい。それでもなんだかややこしい話だ。
「あなたって本当に何もご存じないのね!これでもまだ納得いかない顔なさるだなんて!私が補足して差し上げるわ!」
自分の知識をひけらかしたくて仕方ないのか、ヨハンナが続けた。
曰く、体外で使用出来る量・大きさの魔力があって、しかもそれをコントロール出来る人間が魔法使いになれること。
これは陽平も知っている。
曰く、コントロールが未熟な内は、得手不得手関係なく意図せず発動することがあったり、逆に、意図すれば簡単な魔法は属性に関係なく発現出来たりする。
この経験を通して属性を把握できる者も居るが、未熟な内の魔法使用は危険も多いため、判明時点で領主や国、または家族内で使用を制限される事が多く、大体の人が3年次に調べていくこと。
また、この国では、各領地の統治状況・住民の状況の把握と徴税のため、定期的に使節団が派遣されているらしい。その際に、上記の未熟な魔法使いのフォローや、魔法発現前だが素養有りの者も見つけ出しているらしい。
そしてその情報は、身分登録制度によって、出生・住所・家族・婚礼・経済・死亡などの情報と共に国が管理し、然るべき年齢になる時に案内が送られ、改めて入学申請をするのだそうだ。
魔法が遅れて発現するなど、ここで取りこぼされた魔法使いは自己申告し、審査を経て入学となるらしい。陽平の様な事例はこれに当たるだろうとの事だった。
陽平は感心する。日本で言う戸籍みたいなものがあるのか。城下町の生活水準から予測される年代と、国の体制等の進度には差がある気がする。魔法と言う大きな力が、人々の文化の発展を押し上げているのだろう。
これは、エリーの山小屋に引きこもっていては分からなかった情報だ。無理やりでも魔法学校に通える事になって良かった、と実感した。
「この仕組みを築き上げたのが、我が校のヴァーゲ教授なのよ!勿論他にもたくさん、先進的な意見で国の統治の改革をなさったのよ。
ご存知?教授の名前の“テミス”って、古い神話の法の女神の名前なのよ!名は体を表すのね。しかも、格式高い、“天秤”の名を与えられたヴァーゲ家直系!素敵だわ!魔法を使えないなんて些細なことだわ!」
ヨハンナは好きな人の事を語りだすと止まらないらしい。話が逸れてもお構いなしだ。
陽平は、ヨハンナの知識の量と幅に素直に感心する。
お貴族様は既に識字・算術は習得済みで、1年生を飛ばす者が多いと聞いたが、それ以外にも小さい頃から勉強していたのかもしれない。
身分が有れば有ったで大変なんだなあ、と思う。
で。
「ヴァーゲ教授って誰だっけ。」
また、誰ともなく声が上がった。
また、ヨハンナが顔を真っ赤にして怒る。
とりあえず、法学担当の75歳の女性であることは分かった。
そう言えば朝の集会時に、最も年配で軽く腰の曲がった、しかし意思の強そうな眼をした白髪の女性が座ったまま会釈していた。あの人がヴァーゲ教授なのだろう。
法学を習うのは1年後半から、しかも基礎のみとの事だから、まだしばらくお世話になることはないだろうが、少し授業が楽しみになった。




