魔法学校生活初日:演習見学を終えて
演習見学の後、1年生全員で演習場から大広間に向かいながら、校舎案内を受けた。
演習場側、つまり広間とは反対端から回っていく。
まず、こちら側は1階だけはみ出した歪な形をしており、そこは火関連魔法教室とのことだった。
続いて、水関連魔法教室、魔法道具・呪文学教室、薬草学教室、中央玄関・階段を挟んで広間側に薬学教室。
2階に上がって中央より一つ広間側に生物・医学教室、演習場方面に戻りながら、魔法数学教室、法学教室、空気・空間魔法教室。
音楽室は2階、広間の隣で、広間側の扉を開けるとバルコニーの様になっており、そこから演奏を届ける事が出来た。
更に、校舎中央、三角屋根の様に一部だけ上方に飛び出した部分には、天文学教室がある。
それぞれに教授室と研究室が併設され、天井の高い広い空間が確保されていた。
また、音楽室下に校長室が在る。
魔法基礎や語学については、1・2年の教室で行い、教授室と研究室のみ校長室の隣に在った。
3年以上は、それぞれの教室に生徒が移動し、特定の教室は無いらしい。
広間に着くと、左の壁際に大量の料理が陳列された長いカウンターが出来ていた。温菜類だろうか、下から炎がちらちらと顔を出す大皿も有る。
カウンターから好きな物を選び、自由に自身の食事を持っていく形式らしい。
集会時はカウンターが無かったので、壁だか床だかが可動式になっているのか、カウンターごとワープ出来る仕組みでも有るのか。
うーん、これはこれで心踊る物は有るのだが。
正直、ホグ○ーツ……いや、やめておこう。
陽平は、朝から続く、自分の夢と比べては勝手に失望するという不毛なサイクルを無理矢理断ち切った。
プレートに皿をのせ、料理をとり、席に着く。
リリー以外にも数人の生徒が集まった。
「ジーク先輩、かっこ良かったねえ!」
リリーが頬を染めながらにこにこと話す。
1年生は、演習のメインであった4年生ではなく、ジークの話題で持ちきりだった。
「だよな!火が不死鳥みたいになった時は叫びそうだったよ!」
「私の属性も火の魔法だったらいいのなあ!」
「えー、でも火の魔法って難しいんでしょ?それに、私は風の魔法で先輩をサポートしたい!」
「サポートなんて!やっぱり火の魔法で隣に並んだ方がかっこいいだろ!」
皆興奮しきりで、顔を輝かせて希望を語る。
いいなぁ、なんだか夢が有って良い。思い思いに語る子どもたちが可愛くて仕方ない。
陽平は、微笑ましく見守っていた。
そんなとき、唐突に後ろから声がかかった。
「あらあ、ジーク先輩って、確か小料理屋の出では無かったかしら?そんな家柄の者より、公爵家出身で、神々しい光の魔法を使えるアルブレヒト様の方が素晴らしいわよ!」
振り返ると、そこには腰まで伸びたふわふわの白銀の髪を揺らす少しふっくらとした美少女が立っていた。
「……アルブレヒトって誰?」
誰ともなく声が上がると、憤慨したようにその少女がまくし立てた。
「今日の演習にいらしたじゃないの!4年生で、ほら、光り輝く風を操ってらした!的まできらきらして綺麗だったじゃない!茶髪のふわふわの髪が肩まであって、優しげな顔立ちで、それでいて魔力が高いんだから!」
うん、随分熱心に推している殿方が居るらしい。
アルブレヒトとやらは分かったが、ところでこの子は誰だろう。
テーブルに居た皆も同じ様に感じているらしく、しかも差別意識を押し付けられて、少々煙たそうにしている者も居る。
「あー、そうだ、アルブレヒトって君のお兄さんじゃない?俺の兄貴も同学年で、友達らしいんだよ。妹が俺と同い年だからよろしくって言われたんだった。ヨハンナだっけ?」
同席していた一人の男子生徒から声が上がった。
なんだ、ただのブラコンだった。
途端に皆の表情が緩み、反してヨハンナの顔が真っ赤になる。
「ヨハンナ、良かったら一緒に食べない?」
リリーが声を掛けると、一瞬怒ったような顔で“いいえ”の口を作ったが、ぐ、と唇を噛み、蚊の鳴く様な声で「よろしくてよ。」と答えた。
その後はヨハンナのアルブレヒト自慢から、この学校の科目分けは魔法傾向を網羅出来ているわけではなく、最も近いと思われる教授や複数得意分野がある教授が足りない属性を補っている事、5・6年になると属性も定まってくる為、授業の一部が各分野の研究室での活動になっていくことなどが分かった。
因みに、アルブレヒトの“高貴で珍しい”光魔法は、空間魔法のアガタ教授か火魔法のラインホルト教授か、どちらにも通用するので悩んでいるとのこと。数学も得意なので、マンフレート教授のお声もかかるかも、との事。まあ、全部ブラコンヨハンナの言だ。
光魔法と言うと、ゲームのイメージから回復など出来るのではと思ったのだが、医学に進まないのか聞いたら全員にきょとんとした顔をされてしまった。
そして、ジークの話題に戻る。
ジークは、座学中心に魔法の基礎を学ぶはずの2年次から、既に自身の魔法属性を把握しており、放課後にラインホルト教授の元に通いつめていたらしい。ついには教授が折れ、授業外での個別演習にこぎつけ、それをきっかけに旧5・6年次の研究生に交じって火魔法を特訓していた様だとの事。
才能がある上に、やる気も有って、努力も出来て。聞いている内に、陽平は卑屈な気分になった。
同じように考える者は他にも居るようで、現在の4・5年生はそんなジークを面白く思っておらず、しかし一部の女子生徒には根強い人気があるらしい。
陽平は、焦燥感を覚える。
今エリーの一番近くに居るのは自分だ。他ではない、自分が、並び立てる様にならねば。




