魔法学校生活初日:魔法演習見学
1年生は、ツァウバー教授に従って校舎の外に出ると、別棟の演習場に向かった。
それは、正門とは反対側の庭の端に位置し、校舎と比べて無骨な印象を受ける石造りの建物だった。
広間程の広さは無いが、バスケットボールコート程の広さがあり、100人が入っても演習のスペースは確保された。
既に上級生が演習の準備を終え、体慣らしをしている。
1年生は、邪魔をしないように端に詰めて並ぶ。
これから始まるかというところで、賑やかな集団がもう一組演習場に入ってきた。
陽平は、その中に、エリーとジークの姿を見つける。
と、エリーも気付いて陽平に手を振った。
「やあやあ、遅れてすまない!」
短い灰褐色の髪を高い位置で無理やり一つに結び、口ひげと顎鬚を生やした、壮年の背の高い男性が声を上げた。
「フォックス教授。いいんですよ、時間指定は有りませんでしたから。」
それに答えたのは、艶めく白金色の髪を腰まで伸ばした美丈夫だった。
「えー、では、魔法演習見学会を始めます。今回協力してくれるのは4年生です。4年生自身の新学期の肩慣らしを兼ねているので、基礎的なものからお見せしますね。
自身の得意な魔法を操り、奥の的に当てて貰います。1年生に紹介しますが、この演習場の壁と的は、魔法が当たると反発した力でもって打ち消し合う様になっています。では、誰から行きましょうかね。」
「ライナー、自己紹介を忘れておるぞ。」
「ああ、申し遅れました、水魔法担当のライナー・ケラーです。どうぞよろしく。」
「ケラー先生!」
集団の中から鋭い声が上がった。
皆の目が声の元に集まる。
「一度だけでいいので、ぜひ、私にも魔法を使わせてください。」
そこには、まっすぐに右手を掲げたジークが居た。
「残念ですが、3年生は魔法傾向をしっかり見極めてから、」
「炎を操るのが得意です!」
「まあまあ、ライナー。ほら、ラインホルトの。」
「ああ、例のお気に入りとはジークでしたか。では、そのやる気を尊重しましょう。贔屓には賛成出来ませんが、個々の才能を個々のスピードで伸ばす、と言う事も必要でしょうからね。君、前へ。」
フォックスと呼ばれた教授がとりなし、ジークが魔法を使用することになった。
ジークは軽くエリーの肩を叩くと、群衆を縫って前に出る。陽平の近くを通る際に、睨みつけるのを忘れずに。
堂々と生徒らの前に立つと、そこかしこから、きゃあ、と小さく声が上がった。彼が在籍している3年だけでなく、4年からも声が上がった様に思われた。
対して、男子生徒は顔をしかめるか、馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。
ジークは、中央に置かれた複数の容器に近づく。中身は、水、砂、石、牧草など様々だ。
その中から、大きな薪を手に取った。
「用意!始め!」
ケラー教授が声を上げた瞬間、薪は大きな炎となった。
パチパチと火の粉が散り、軽い悲鳴が上がる。
炎は鳥の形を成すと、的に目掛けて真っ直ぐに宙を走り、奥の的・壁にその炎を大きく広げて消えた。
魔法を打ち消すはずの的も壁も、ジュウジュウと音を立て、蒸気が上がっている。
「キャアー!ジーク様!!」
「凄い!かっこいい!!」
一際大きな歓声と拍手が沸き起こった。
男子生徒の渋面が深くなる。侮って笑う生徒はもういなかった。
「……ほう。」
「いやはや、聞きしに勝る才能よな。」
教授らも満足げな表情を浮かべており、陽平が目を向けると、エリーもジークに笑顔を向け、頭上高く上げた手で拍手していた。
面白くない。
自分も、と声を上げようとしたところで、ケラー教授の声が響いた。
「静まれ!では、これより4年次の演習に入ります。肩慣らしと言いましたが、今のを見ましたね!上級生として気を引き締めて臨みなさい!」
4年生の集団から、うおお!と地鳴りの様な声が上がる。
我こそはと前に出て、水、風、土、と様々な魔法を見せていった。
だがしかし、その中にジーク程の派手さと威力を持った魔法はひとつも無かった。




