魔法学校生活初日:魔法使いのルール
すみません、昨晩更新した第34部(2ページ前)の、教授陣の名前を1名変更しました。調査不足でした。
あまり良い由来ではなかったものですから、フィロメーラ・ツァウバーから、グレーテル・ツァウバーになっています。
「そう言えば、お父さんって食べ物以外も扱うの?エリ……俺の知り合いが魔法道具を開発したんだけど、普段付き合いのある所に売れなかったみたいなんだ。」
陽平は、行商と言う話から、ふと入学申請のついでに売りに行った改良型翻訳機の事を思い出した。
以前、狼の干し肉を買ってくれた、芝居がかった言動と格好が特徴の行商人の所に行ったのだが、購入を断られてしまったのだ。
巨大猪の革を5㎝×20㎝程度にして呪文を刻み、呪文は他の人に判別されない様にして、試験的に10個程作ったものだ。サスペンダー同士を繋ぐ様に胸元に着ける飾りを模して、日常使用可能にした。正直、なぜ売れなかったのか分からない。
商売敵の増加を懸念するにしても、適応は会話のみで読み書きには使えない上、10個程度で影響があるとも思えない。
しかも、この国の言葉以外は、最初に登録する一種類の言語しか翻訳出来ない仕様にした。もちろん、陽平の首輪の様に、無生物とのやり取りも不可能だ。
それならば、金貨1枚、つまり100F、日本円の感覚で1万円くらいという単価の問題かと思って値下げしたが、それでも断られた。
あまり安くしても、市場にも生活に支障が出る。あまり粘れずにすごすごと帰ったのだ。
「えーっと……それって、きちんと認可されたもの?」
「えっ?認可?」
「そう。うちは食べ物の流通が主で、調理道具や珍しい小物なんかも時々仕入れるけど、未認可の魔法道具は扱わないんだあ。結構大きい規模に成長したし、商売は信用が第一だし。」
君、8歳だよね。陽平は再度聞いてみたくなる。商家と言う事で、小さい頃から家の仕事に触れているのか、ふんわりした見た目や話し方に反して、なんともしっかりしている。
「ええ……と、魔法道具の売買には認可が居るの?」
「売買って言うか、開発者と、魔法道具自体に、かなあ。そっかあ、ヨーヘイって私たちと見た目が違うもんね。この国出身じゃないんだね。
ほら、どこの誰かも分からない人が、お薬ですよーって草を売ってたって、誰も買わないでしょう?だって、ただの庭の雑草かもしれないし。それを信じて買ったとしても、使ってみたら毒だった、なんて困っちゃうでしょう?
だから、魔法道具やお薬を作る人は、魔法学校の卒業資格が必要だし、新しく開発した道具や薬なんかは、国に申請するの。申請すれば、権利は開発者のものだから、もし道具の人気が出て、他の人が同じものを作っても、売り上げの一部が入ってくるの。素敵でしょう!」
リリーがこれでもかと目を輝かせて語る。後半はどんどん早口になっていた。
陽平は、生粋の商人だなあ、と若干引きながら聞いていた。
そう言えば、加工肉はマイスター制度で組合が管理しているらしい。魔法に関しては、その重要度から、国が管理しているということか。
特許制度がある辺り、この国の政策は実に進んでいるな、と感心する。
それにしても。
「エリーは未認可で活動してたのか……闇医者ってやつ……?」
黒い森の魔法使い、でなく、魔女、となんだか悪そうな名称で呼ばれていたのは、その辺の関係もあるんだろうか。
そこまで考えて、陽平は思い出す。エリーも翻訳機が売れなかった際、“なんで!?”と言う顔をしていたが、エリーは認可制度について知らなかったのだろうか。
25年この国で生きてきて、しかも15年も魔女として活動していたのに、知らなかったとも思えないし、2年間は学校にも通っていたはずだ。法律等のややこしいことは苦手そうだが、頭は良いんだから。
未認可でも“黒い森の魔女”のネームバリューでやってこられたものだから、認可制度を失念していたのかもしれない。
陽平が元の世界に戻れるよう、情報収集目的で入学したが、エリーの今後の為にもきっちり卒業を目指さねば。
陽平は決意を新たにした。
「着いたよ。難しい顔してたけど、大丈夫?」
リリーの声に顔をあげると、2人はいつの間にか教室に到着していた。
まずい、まったく道を覚えていない。
空いている席に掛けると、後からも生徒らが続き、席が埋まった。
見計らったように、教授が入ってきた。
ふわふわとカールした金髪を低い位置でゆるくポニーテールにした、小柄な女性だ。
青いリボンが可愛らしく、金髪に映える。
確か、呪文学を含む魔法基礎の教授として紹介されていた。
「皆さん、こんにちは。改めまして、グレーテル・ツァウバーです。グレーテルは、“マルガレータ”つまり“真珠”の短縮形。魔法の真珠。ハッ、笑っちゃうわ。
まあ、魔法に於いて、言葉ってのは重要よ。特に、物の名前とその起源、意味。まあ、エッダが後々詳しくやってくれる。この一年、あなたたちは魔法を実践出来ずにつまらないと思うかもしれないけれど、この基礎で、今後の魔法の出来や自由度が変わってくるわ。ガタガタの土台の上に良い建物は立たない。頑張って学んでね。」
そうだ、グリム童話の人だ。この人だけ名前が聞き取れた。エッダとは、古語の先生だろうか。
なんだか外見や名前と性格が合っていないな、なんて言ったら失礼か。
「では、今日は初日なので、歓迎の意味も込めて、上級生の魔法演習を見学しましょう。今年の学びがどう実を結ぶか、想像しやすくなると思うわ。」
俄かに騒めきだした教室に、陽平も気持ちが高揚するのを感じた。




