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師匠との生活18日目:魔法学校

 その日、陽平は初めて魔法学校に足を踏み入れた。


 てっぺんに城を頂く小さな山の中腹に、その学校は在った。

 映画にもなったシリーズ物の某有名小説に出てくる魔法魔術学校を想像していたので、落胆しなかったと言えば嘘になるが、海外の伝統ある格調高い学校の様な厳かな外観は、陽平を少々浮足立つ気持ちにさせた。

 上を向いた鉄槍の様な背の高い柵がぐるりと学校を取り囲み、校庭の木々はシンメトリーに整えられている。正門から学び舎に続く石畳の中央には、盃から水が溢れるような噴水のある大きな丸い水場が鎮座していた。


「……ヨーヘイの顔、かなり締まりが無いわよ。」


「……気を付けます。」


「広間でまず始業の挨拶があるみたいだから、それまでは一緒ね。」


「そうですね。広間ってどこでしょう。」


「学舎の右端だったかしら。食堂も兼ねてるのよ。皆に付いて行けばたどり着くでしょ。」


 そうして生徒たちについていくと、きゃあきゃあと一際賑やかな一団があった。その中に、見知った顔を見つける。


「あらあ、ジークってやっぱり人気なのね。」


 そうだ、いつか小さな料理屋で見た、キルシュに懸想するラファエロの天使だ。美少年だったものなあ。


「見事に女の子たちに囲まれていますね。」


 それでいて、それを見せびらかして威張る様でも、邪険にする様子でも無い。

 表情こそ冷たいが、雰囲気から周囲の子らと仲良く話しているのが分かる。

 時折表情が柔らかくなるのは、彼なりの笑顔なのだろう。


「あの子、つっけんどんだけど、あの見た目で人当たりも性格も良いし、しかも魔法も上手いらしいからねえ。」


「そりゃまた完璧超人ですね。」


「ブフッ!何そのネーミングおっかしい!」


 うーん、なんて翻訳されたんだろうか。そのままだとしたら相当沸点低いんだが。


 そうこうする内広間に着くと、そこには長テーブルと背もたれ付きの椅子が等間隔にずらりと並んでいた。

 天井は高く、両脇の壁の上部には小さな窓が並び、正面奥にはステンドグラスがはめ込まれた大きな窓がある。自然光が差す広間は、豪奢だが静謐な印象も受ける、なんとも厳かな空間だった。

 陽平はまただらしなく頬を緩めた。

 2人で適当に掛ける。


 ちょうど、教授らしき男性が壇上に登った。


 まじか……

 陽平はがっくりと肩を落とす。

 ダンブ〇ドア先生みたいな人が出てくると思っていたのに。

 そこには、サラリーマンと聞いて過半数が想像しそうな、まさに、と言う見た目の人物が立っていた。

 具体的に言えば、お堅い国内グループ企業の関連会社の、経理か事務の中間管理職、という風情。

 真面目で遊びが無く、少々神経質そうで、うだつは上がらず、上と下の板挟みになり、常にストレスにさらされています、という感じ。

 我ながら酷い偏見だ。怒られそうだなあ。ごめんなさい。心の中で、誰にともなく謝る。


 広間の喧騒が、次第に小さくなっていく。

 教授の咳払いの音が響いた。


「えー、新入生諸君。当魔法学校への入学、心より歓迎する。また、在校生諸君、進学おめでとう。

 諸君らは、魔法と言う才能を持ち、学校と言うそれを存分に伸ばす環境を与えられた。今後、自分や家族のため、そして国の為にその力を大いに活用出来るよう、研鑽に励んでほしい。学校での日々は、諸君らの大いなる糧となるだろう。」


 なんだ、思ったより堂々として、しっかりしていそうな人だ。陽平は挨拶を聞きながら、失礼なことを考えていた。


「申し遅れた、私は教頭のマンフレートだ。魔法円、呪文陣を含む魔法数学を担当している。校長は多忙で少々遅れる。」


 あ、理系か。経理の方だった。陽平はまた思考を飛ばした。


「ヨーヘイ、なんか違う事考えてるでしょ。」


 エリーがこっそりと耳打ちした瞬間、バタン!と大きな音を立てて中央の大扉が開いた。

 白髪交じりのひっつめ髪の女性が、白衣をなびかせて颯爽と生徒の間を歩いて行く。


 アレ?


「アガタ教授……」


 エリーがポツリと呟いた。

 その女性は、役所で2人の面接を担当したアガタだった。


「遅くなりました。校長のアガタです。新学期早々忙しなくてごめんなさいね。勉学に際しての訓示はマンフレート教授から聞いていますね。我々は、皆の学びを最大限サポートしましょう。

 では、教授陣を紹介します。自己紹介があったでしょうが、教頭のマンフレート教授。魔法数学担当です。魔法数学は魔法道具など物体に働きかける際の重要な基礎となります。心して学ぶよう。」


 続いて、識字と古語担当のエッダ・レラーリ、呪文学を含む魔法基礎のグレーテル・ツァウバー、土魔法を含む薬草学のレオンハルト・フォックス、魔法薬学のルドルフ・ブハイム、水魔法のライナー・ケラー、火及び戦闘魔法のラインホルト・フェブレノン、音楽のヴォルフガング・バイエル、生物学・医学のオッティーリエ・フォン・ビスマルク、法学のテミス・ヴァーゲ、天文学のゲオルク・プールバッハ、と次々に紹介されては起立し、挨拶して着席していく。


「そして、国立魔法学校校長であり、空間・空気魔法担当のアガタ・アウラ・ヴァイスハウプトです。」


 耳慣れない名前や言葉の羅列に、陽平の頭は全く追いつかないまま、学校生活が始まった。

遅くなってすみません。名前を考えるのに本分執筆の3倍の時間がかかりまして……。後でここに元ネタを追記するかもしれません。

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