表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/63

師匠との生活9日目:入学時審査

 アガタと名乗った女性は、年の頃は50と言ったところか、灰色になった髪に白髪も多く交じった、落ち着いた雰囲気をしていた。

 細身で、表情や立ち居振る舞いからは、厳しく固そうな印象も受ける。


「ではどうぞ、お掛けください。」


 腕を振って椅子を3脚用意すると、アガタが促した。

 20人ほどは入れそうな部屋の真ん中に、ぽつん、と3人が居る。


「キルシュさんとヨーヘイさんですね。話は伺いました。エルフリーデ嬢のところに寄せていると。」


 陽平は目を見開く。この人はエリーを知っている。しかも、多分、浅からず関わったことがあるのだろう。

 エリーに目を向けると、平静を装っていたが、渋い感情が透けて見える。

 しかし、それについて触れる間もなくアガタが続けた。


「ではまず、お二人にお伺いします。魔法に目覚めたのはいつでしょう。学校に入ろうと思ったきっかけは?お二人のどちらから答えて頂いても結構です。」


「……魔法に目覚めたのは、黒の森で目が覚めて、狼に襲われかけた時です。助けよ……助かろうとして、気が付いたら魔法を使っていました。」


 エリーから答えた。陽平を助けた時の状況から思いついたのだろう。


「何の魔法でしたか?」


「水でした。近くの小川の水を操り、狼の足をとって、その隙に逃げました。」


「成程。ここでその魔法を使う事は出来ますか?」


 アガタは、言うが早いか両腕を挙げると水を作り出し、両手を器にして水を受け、エリーに差し向けた。

 なんだか気温が少し上がったように感じる。


 エリーは、指の隙間から零れた雫もまとめて水を球状にすると、陽平達の居ない方に浮かせて、そのまま蒸発させた。涼しくなった。


「ふむ、4年次からの編入でも問題無さそうですね。まあ、他の魔法も学べますから、希望通り3年次への受け入れとしましょうか。学校に入ろうと思ったきっかけは?」


「……黒い森に居るだけでは、分からない世界を知りたくて。」


 うん、目的そのまんまだ。しかし、受け取り手は異なる解釈をするだろう。とても上手い。さすがエリーだ。


「では、ヨーヘイさんもお願いします。」


 陽平の隣でエリーがホ、と小さく息を吐いた。

 アガタに目を向けられて、まるで尋問を受けている様な気分になる。

 嘘は見抜かれる、そう思わせる迫力がある。その上、自分に後ろ暗いところがある気にまでさせられる。

 なんだ、エリーは事実を喋ってしまっただけだったのだ。さすが、なんて思って損した、と陽平は思う。


「ええと、俺……私は、魔女様の様に魔法を使いたくて、色々試していて、……単純な事なら、物に命令出来る事が分かりました。」


 と、アガタの凪いでいた目が光る。

 陽平はドキリとする。

 ああ、この国で一人称は変化しないんだから、言い換えたって意味が無い。どもった様になって怪しかったのだろうか。

 それに、自分の魔法傾向を考えるのはもっと先の予定だったのに、準備不足でそのまま答えてしまった。

 どこかおかしかったのだろうか。

 陽平の鼓動が早くなっていく。


「あの、まだ、上手く使えないし、本当に、そう言う魔法かは、分からないんですけど……」


「……それは、興味深いですね。1年次からの入学ですから試験はしませんよ。そんなに緊張しなくて結構です。……個人的には見てみたいですが。」


 あっ!そっち!?そっちの意味で目が光ったの!?

 陽平は声を上げそうになる。危ない。


「“魔女様”に会った経緯と、入学申請のきっかけは?」


「俺も、気付いたら黒い森に居て、うろうろしてたら巨大な猪に遭遇して、死ぬかと思った所を助けて貰いました。魔女様はなんでも出来てしまって、一足飛びに応用に入ってしまうので、基礎から魔法を学びたくて入学を希望しました。」


 エリーが睨んで来るが、半分事実だ。


「……成程。よろしい。二人共事情がありそうですが、学校では良く学んで研鑽を積んでください。ヨーヘイさんは15歳で1年次と言う事で、気まずい事もあるでしょうが、過去には25歳で魔法が使えると判明し、上級職を目指して入学した方も居ます。気に病まず勉学に励んでくださいね。」


 なんだかこの人は全部分かっていそうだ、と陽平は思ってしまう。

 それにしても、25歳で8歳に交じる。昔、ニューシネマパラダイスと言う映画で、大人が小さい子どもに交じって試験を受けるシーンを見た。あんな状態だろうか。さぞ辛かったことだろう。


「……人柄がよく、生徒たちには教授陣よりも懐かれていましたね。」


 全然違った。と言うより、やっぱりこの人心が読めるのか!


「……あのね、ヨーヘイ結構顔に出てるよ。」


 エリーから注釈が入った。

 陽平の頬に熱が集まる。


「……あの、お気遣いありがとうございます。頑張ります。」


 部屋から出て窓口に戻ると、先ほどの役人からワッペンを渡された。学校ではこれを常に胸元に着けるように、との事だった。

 アガタが優雅に指を振るうと、ワッペンが光る。


「情報を更新しました。名前が刻んでありますから、それぞれ持って帰りなさい。」


 ワッペンを受け取って、庁舎を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ