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30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~  作者: 東野月子
30歳童貞、魔法使いの弟子になる~チートなのは俺じゃないのか~
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師匠との生活8日目:学校生活の準備

 その後、陽平とエリーは、通学に際した設定の打ち合わせや、魔法道具類の調節をした。


 大前提として、キルシュがエリーである事はバレてはならない。

 全方向に魔法の腕が突出していては目立ってしまうので、基本的には水の魔法が特技であるとし、それ以外は極力使わない事にした。

 器用貧乏設定にすると、絶対にボロを出す。

 なぜ水かと言えば、意図せずとも人を傷つけやすい火を避け、こっそり使える空気、空間、時間等の魔法は態々出来ると知らせないためだ。

 水を扱う際も、あまり範囲や力を大きくしない、様に努力したい……とはエリーの言だ。


 陽平の魔法傾向に関しては、まだあと2年程考える時間が有るので、後回しだ。

 2年間で、魔法を使えるようにする道具についても改良出来るかも知れないし。


 キルシュと陽平の設定は、黒い森の迷い子だ。

 元々黒い森は他で見ない獣や植生、妖精伝説など不可思議な話が絶えない。

 遠い国に居たと思われるが、気が付いたら黒い森の中に居て、危うく獣に食われる所を魔女様に助けられた、それ以前の記憶が無い、と話しても、信憑性は有るだろう。

 陽平に関しては、記憶以外事実だ。

 こうすれば、生い立ちについてはぐらかせる。


 国がそんな素性の知れない人間を受け入れるのか不安だが、魔法使いであるというだけで、他に目を瞑れる程の大きな価値なのだろう。

 それならばエリーの事は喉から手が出る程欲しいのでは、と思うが、多分恐怖が勝るのだろう。

 下手を打って命を奪われたら、国を滅ぼされたら……まあ、触らぬ神に祟りなし、という結論か。


 そんなわけで、今まで魔法学校に入らなかった理由は、エリーを一度虐げた場所であるから、と言う事にした。

 別にエリーはこれっぽっちも恨んでいないし、それどころか、今でも演習での事を申し訳なく思っている様だが、こうしておけばきっと根掘り葉掘り聞かれると言う事は避けられるだろう。


 設定は大体そんなところで、他の決め事としては、放課後に落ちあって資料館に行こうというくらいだ。

 学校と同じく城壁内に有り、国が管理しているのだが、学校の生徒であれば資料を閲覧できるらしい。

 勿論、高価な羊皮紙を使うこの時代、しかも貴重な情報を多々保有する訳なので、自由にとは行かず、入るときも出るときもチェックが有り、持ち出しも出来ない。

 資料が失われるのを避けるため、資料室内では申請しなければ魔法が使えない。

 特に火や水は厳禁だ。

 不便だし、その場でしか研究出来ないのは足枷になりそうだが、当然の措置だろう。


 7年間だ、たっぷり時間は有る。

 情報収集が目的の入学で、就職も研究も関係ないどころか、卒業資格すらどうでもいい。

 言ってしまえば、情報さえ手に入れたら辞めても良いくらいなのだ。

 学生の本分、と言うのは気にしなくていい。時間をかけて探していこう。

 そう2人で話し合った。


 尤も、陽平の心の中は、エリーに失った青春時代を取り戻して欲しい気持ちと、陽平の事だけ考えてくれていることへの喜びがせめぎあっていたが。


 設定を話し合った後は、魔法の腕輪への命令を練習した。

 練習中に、軽く口にした言葉を命令と取られると困ることに気付き、元の呪文の左に“→△klopftest(tapped)△→”と付け足した。


 “叩かれたら”右に力が動く。右には“それを陽平の命令に従わせろ”と言う呪文。

 つまり、軽く叩いて起動した後、従わせる物を指定し命令すれば、魔法が発動する、と言う流れだ。

 記号を三角にしたのには、魔力に鋭角を作って強く・速くし、起動を素早くする意図がある。


 翻訳首輪の点検の際は、読み書きの助けに翻訳眼鏡も欲しいなあ、などと言う考えが首をもたげたが、陽平はここまででもあまりに道具に頼りすぎているので、1年間は頑張ることにした。


 そうこうする内日も暮れ、2人とも逸る気持ちを抑えながら眠りについた。

陽平は結構重い。

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